オンラインゲームをいっしょに遊んでくれる「陪玩」サービスが存続の危機に瀕している。本来は一定以上のゲームスキルがある異性がいっしょにゲームを遊んでくれるというサービスだが、その目的から外れたサービスを提供する陪玩、求めるお客が増え、当局が取り締まりを強化しているからだ。しかし、孤独に悩む若者の居場所を奪ってしまうことになるという声もあがっていると上観新聞が報じた。
一緒にゲームを遊んでくれる陪玩サービスが取締対象に
女性と一緒にゲームが楽しめる「陪玩」(ペイワン)サービスが、次々と営業許可が取り消され、サービスの停止に追い込まれている。このサービスで最大手の「比心」(ビーシン)は5000万人の会員を集めていたが、2021年9月にサービスを永久に停止したことを告知した。
この陪玩サービスは、2018年頃から急速に盛り上がった。アプリで好きな女性を見つけ、30分20元(約360円)程度の料金を支払って、一緒にゲームを楽しむというものだ。サービスによって内容はさまざまだが、一般的なのはオンラインゲームを一緒に楽しむというもので、陪玩のゲームスキルも高く、顔が映ることは基本的になく、音声でのやりとりとなる。
建前はeスポーツトレーナーだったが…
このような業者は、「eスポーツトレーナー派遣業」として営業許可を取得しており、陪玩は正式にはeスポーツトレーナーとなっている。そのため、この営業許可から外れる行為は、営業許可の取り消しにもつながりかねない。
しかし、そうは言っても、需要があれば供給する人がいる。ネットカフェで、横に座って一緒にゲームをしてくれる陪玩サービスも登場し、さらに自宅やホテルに派遣をする陪玩サービスも登場し、性的なサービスまで提供するという業者も現れ始めた。
このような行き過ぎが指摘されるようになり、当局が取り締まりに乗り出し、アプリの配信停止、営業許可の取り消しなどの事態が相次いでいる。
しかし、ゲームスキルの高い女性が一緒にゲームを遊んでくれる本来のサービスの需要は高く、惜しまれる声も数多くあがっている。
陪玩で生計を立ててきた女性
24歳の皮歌(仮名)は、この陪玩を生業にしていた。2018年から陪玩でお金を稼いでいる。当時は、南京市の大学で土木工学を学ぶ大学3年生だった。始めたきっかけは、WeChatで友だちが「ゲームをやって100元稼いだ」というメッセージに触れたことだ。
当時、彼女はある建築会社のインターン実習生となっていて、学生寮に帰ってくるとヘトヘトに疲れて寝るだけという日々を送っていた。その時、息抜きとなったのが、大人気のゲーム「王者栄耀」だった。みるみるうまくなって、ゲームの中ではもはや敵がいないほど強くなっていた。
その好きなゲームで、小遣いが稼げるのであればと、ある陪玩プラットフォームに登録をした。登録をする時は、対応できるゲーム、ランクを示したスナップショット、顔写真などを登録する。また、簡単な音声メッセージも登録を求められた。利用者は、ゲーム中は顔を見るのではなく、音声でやりとりをする。そのため、声質で陪玩を選ぶのだ。
陪玩の収入だけで生きていける
皮歌にとって、この仕事は自分に合っていた。収入はさほど大きくはないものの、1ゲームであれば15分程度、長くても30分程度、自分の都合のいい時間に仕事をすることができる。
大学を卒業すると、インターンを務めていた建築会社から入社を勧められた。しかし、その会社に入ると、24時間すべて仕事のことを考えなければならない生活になる。皮歌は視野を広げるために海外留学をしたいと思うようになったが、親の理解は得られなかった。そこで、経済的に自立することが必要だと考え、それ以降、本格的に陪玩をし、同時に受験勉強や留学の準備をするという生活になった。
その後、コロナ禍がやってきて、外出ができない状態になった。陪玩に対するニーズも急増し、皮歌は朝10時頃から夜10時頃まで、陪玩の仕事をして暮らすようになる。
次第に彼女の人気も高まり、陪玩の単価も上がっていった。少ない月でも7、8000元、平均して1万元少し、多い月では2万元(約36万円)を超える収入が得られるようになった。
ゲーム以外の関係を求めてくるお客も
皮歌の加入している陪玩プラットフォームでは、お客のことを「老板」(ラオバン、社長、店主、雇用主の意味)と呼ぶ。皮歌はこれまで数千人の老板の相手をしてきた。男性がほとんどだが、まれに女性からのオファーもある。いちばん若い老板は14歳であり、50歳以上の老板もいた。
中には陪玩以上の関係を求めてくる老板もいる。大学を卒業したばかりで葬祭業をしていた老板とは何度も陪玩を務め、親しくなった。その老板は、長時間の指名をするようになり、2、3回ゲームをすると、あとの時間はおしゃべりをするようになった。家庭に問題が起きているようで、ストレスが溜まっているのだという。しかし、その老板はおしゃべり以上の関係を求めてくるようなことはなかった。
孤独に悩んでいる陪玩のお客たち
ある時は、どう考えても未成年だという老板もいた。問い詰めると、父親の身分証を使って登録をしていたようだ。そのことが発覚をすると、皮歌は陪玩を中止した。未成年の利用は禁止をされており、違反が発覚をすると、陪玩のアカウントが削除されてしまう可能性があるからだ。しかし、その未成年は「勉強で悩んでいる。相談に乗ってほしい」という。そこで、陪玩とは別にWeChatのアカウントを交換し、チャットをするようになった。それ以来、プライベートで王者栄耀を一緒に遊ぶようになり、老板の成績も上がっていった。今でも、時々、一緒に王者栄耀を楽しむことがあるという。
陪玩が人気になると、異なる目的の陪玩とお客が入ってきた
孤独であることに悩んでいる老板は多い。皮歌は、そのため、プラットフォームの規則に反しない範囲で、ある程度の要望には応えるようにしている。しかし、一線を超えてしまう老板も多い。その多くは写真を送ってほしい、動画のチャットがしたい、こちらの要望する服装をしてほしいというようなものだ。
皮歌は自分の中で基準を設け、その基準を超えた老板についてはすぐに陪玩を中止し、プラットフォームに通報をするようにしている。今年の8月には、4名の老板を通報し、アカウントが凍結されている。
しかし、陪玩の中には、追加料金を支払うと言われると、一線を超えた対応をしてしまう人もいるという。最初からそのようなことを目的としてプラットフォームに参加をする陪玩、老板も一定数いる。プラットフォームも、建前である「eスポーツトレーナー」に近づけるために、応募者のゲームスキルの審査を厳格化するなどの対応をしているが、なかなか、そういう目的の陪玩、老板を排除することは難しいという。
孤独な若者の居場所を失わせる規制
皮歌は最近、南京で小さなアパレルショップを開いた。友人との共同経営で、ライブコマースでの販売が好調だ。皮歌にとって、陪玩の仕事はあくまでもゲームスキルにより老板を楽しませるものだと考えている。それを考えると、新しいゲームも続々と登場する中で、長く務めていける仕事には思えない。また、当局の規制も強化されている。そのために次の生きる道を模索している。海外留学する夢もまだ捨てていないという。
手軽にいっしょにゲームをしてくれる人が見つかる陪玩サービスは、非常に厳しい時代を迎えている。これ以上、当局の規制が厳しくなると、このサービスそのものが消えてしまうかもしれない。しかし、競争が厳しい中国社会の中で、孤独のつらさをゲームで癒やそうとする若者は多い。過剰な規制は、そういう若者たちの居場所を奪うことにもつながりかねないという声も上がり始めている。