国民的インフラとも言えるSNS「WeChat」(ウェイシン、WeChat)を運営するテンセントが新たなSNSのテストに入っている。ゲームに特化したSNSとなる見込みで、ゲーマー用コミュニケーションアプリ「Discord」に対抗するものになるとTech星球が報じた。
注目されたテンセントの人事異動
今年4月、騰訊(タンシュン、テンセント)のある人事異動が注目された。インタラクティブエンターテイメントグループ(IEG)内の天美工作室群(Timi Studuo)の姚暁光(ヤオ・シャオグワン)総裁が、プラットフォームコンテンツグループ(PCG)のソーシャルプラットフォーム責任者を兼任するというものだった。
天美工作室群は、テンセントのロングヒットゲーム「王者栄耀」を開発した部署。つまり、ゲームの責任者がソーシャルプラットフォームの責任者を兼ねるということで、ゲーム関連のコミュニケーションツールやSNSが開発されるのではないかと見られていた。
そして3ヶ月後、PCGが新しいプロダクトの内部テストに入った。「閙閙社区」(賑やかなコミュニティの意味)という名称で、英文名はNokNok、略称はKKとなるものだ。
テンセントがゲームSNS「NokNok」のテストを開始
NokNokは、無料で利用ができるゲームSNSになるという。本格的な開発が始まったのは2021年4月で、投稿機能やタイムライン、画像送信機能などシンプルな機能だった。5月になると、チャット、グループメッセージ、動画の公開などの機能が加わり、6月にはグループやメッセージの評価システムが加わり、7月からモニターテストを始め、A/Bテストを行なっている。
音声チャットや投票機能も実装予定
グループ内には複数のスレッドを作成することができ、各スレッドで利用者同士でメッセージ交換ができるようになっている。個人のアカウントにはSteamなどのゲームプラットフォームが紐づけられるようになっており、ゲームの好みや熟練度などがわかる工夫がされている。
作成できるグループには4種類ある。1つはゲームグループで、特定のゲームについて攻略法や感想などを交流する場になる。2つ目が募集グループで、オンラインでの協力者や対戦相手を探すもの。3つ目がKOLグループで、著名ゲーマー、ゲーム実況者がファンと交流する場。4つ目がブランクグループで、自由に使えるというものになる。
現在のところ、音声チャット、投票、接龍(リスト送信)、QQ/WeChatアカウントによるログインなどは搭載されていないが、テンセントによると開発を進めているという。また、NokNokはクロスプラットフォームになる予定で、Android版だけでなく、ウェブ版、PC版も開発が進められている。
原神のヒットでDiscordを使う中国人が急増
このNokNokは、ゲームコミュニケーションツール「Discord」を意識して開発されたと見られている。
現在、中国でDiscordを使っているユーザーは多くはないが、今後爆発的に利用者が増える可能性が出てきている。それは、テンセントの出資を断り、独自で世界同時配信をして成功した「原神」(miHoYo)の存在だ。
miHoYoは、Discordのサーバー容量80万人では足りなくなり、サーバーを増強するという発表を行なった。原神を通じて、Discordを使い交流する中国人が増えていると思われる。これに対抗するためには、中国内にDiscordと同じ機能を持つサービスが必要で、それが可能なのはテンセント以外にない。そこにNokNokが登場した。
WeChatの成長の限界を補うゲームSNS
また、テンセントにとっても、WeChatは国民的ツールとなっているものの、QQは利用者数が減少をし続けている。この減少分を補う新たなSNSを必要としていた。
テンセントはWeChatが国民的インフラとなるほど成功したが、同時に成長の壁に突き当たっている。WeChatをこれ以上成長させるのは無理な話で、新たなSNS、コミュニティツールを開発していく以外方法はない。その中で、「ゲーム愛好者」は数も多く、利用頻度も高く、成功の可能性が高い市場だ。
しかし、ゲーマーの中には、「Discordのようなツールをわざわざ国内で開発しなくても、Discordを使えばいいだけなのでは?」ともっともなことを言う人もいる。
中国のゲーム業界は「テンセントによる国内中心の配信」と「独自による世界配信」の二極化が始まろうとしている。