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WeChatで表示される「相手が入力中」。この小さくて大きなSNSの機能

WeChatでメッセージを送り、相手がすぐに返信を書こうとすると、「相手が入力中」の表示が出る。小さな機能だが、これがSNSのユーザー体験を大きく向上させていると大風観察が報じた。

 

WeChatがSNSを制した理由

中国でほぼ全員が使っているSNS微信」(ウェイシン、WeChat)。黎明期には多くのライバルがあり、WeChat以外の選択肢も多々あった。最大のライバルは、同じテンセントが運営をしている「QQ」で、テンセントは自社のプロダクトとカニバリズムが起こることを承知でWeChatをリリースした。その決断は正解で、テンセントのあらゆる事業がWeChatを軸に展開するようになっている。

では、なぜ数あるライバルの中でWeChatが選ばれていったのだろうか。その理由のひとつが「相手が入力中」の表示が出ることだという。

▲WeChatでは、こちらがメッセージを送って、相手がすぐに返信を書き始めているとき、「相手が入力中」と上部に表示される。これがSNSのユーザー体験を大きく向上させている。

 

相手が返信を書いている時に表示される「相手が入力中」

WeChatでメッセージを送り、相手がすぐにキーボードを操作すると、こちら側に「相手が入力中」という表示がでるようになっている。つまり、相手がすぐに返信をしようとしていることがわかるのだ。

厳密には、相手がメッセージを読んで10秒以内にキーボード操作を行うと、この表示が出る。そして、10秒間操作が途絶えると消えるという仕様になっている。

 

メッセージの交換周期は短くなる傾向がある

メッセージ交換系のSNSで問題となるのは、対話の周波数(頻度)をどの程度に想定するかということだ。つまり、「どのくらいの時間で返信をするのが適切か」という問題で、この周波数が双方でずれていると、ストレスを感じることになり、そのSNSは使いづらいと判断される。「相手からなかなか返信がこない」「すぐに返信をしなければならず疲れる」と感じられるようになってしまう。

この周波数を仕様などで誘導することは非常に難しい。ここがSNSの大きな課題になっている。どのくらいの時間で返信すべきなのかは、利用者が属するコミュニティーが決めることになる。

そして、この周波数は放置をしておくと短くなる傾向がある。電子メールは郵便のアナロジーであったため、すぐに読んですぐに返信をするというプレッシャーは強くなく、当日のうち、または翌日に返信をすればいいという社会的合意が形成された。しかし、SNSは元にするアナロジーがなく、メッセージを送った方からすれば早く返信が欲しいために、返信時間が短くなっていく傾向がある。

特に上下関係のあるコミュニティーや先鋭的であることを自認するコミュニティーでこの傾向が強くなる。そのため、コミュニティーのメンバーは、常に着信がないかどうかを気にし、着信があった場合は、何をしていても返信をしなければならないプレッシャーを感じることになり、全体の業務効率は低下をし、ストレスを感じることになる。それが「SNS疲れ」を生むひとつの要因になっている。

 

メッセージ周期を自然に制御できる「相手が入力中」

WeChatの「相手が入力中」の表示は、利用者が返信のタイミングをうまく制御できるようにしてくれる。通常は、メッセージを送っても相手がいつ読むのかわからないので放置をし、返信のプッシュ通知があったら見ればいい。返信がくるまで一定の時間がかかっているのだから、こちらも隙間時間ができたら返事をすればいい。

しかし、メッセージを送って「相手が入力中」と表示された場合は、相手はメッセージをやり取りするのに適した状態で、すぐに返信を書こうとしていることがわかる。この場合は、こちらも待機をして、すぐに返信をすることで、チャットのような状況に入っていくことができる。

返信はゆっくりでいいという場合と、返信をすぐに書いた方がいい場合を自然に使い分けることができる。

▲WeChatでは「既読」の表示はつかない。しかし、企業版WeChatでは「既読」表示がつく。プライベートでは既読マークはストレスになるが、業務では既読情報が必要という判断だ。

 

既読マークはつかないWeChat

一方、WeChatには相手が読んだことを示す「既読」表示は実装されていない。メッセージに既読がつくと、「返信をしなければ」というプレッシャーがかかり、SNSでのユーザー体験を悪くしてしまうという判断だ。

一方、企業版WeChatでは「既読」表示がつく仕様になっている。業務での連絡はある程度プレッシャーがかかっても、返信までの時間が短いことが要求されるからだ。

この「相手が入力中」の仕組みは、SlackやDiscordでも採用されている。小さな機能だが、SNSのユーザー体験にとって大きな機能になっている。