中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

前にはアリババ、後ろにはTik Tok。中年の危機を迎えているテンセント

中国のテック企業3強を表す言葉「BAT」。その一角のB(百度)の成長が止まり、BATから脱落をし、さらにT(テンセント)までその地位が怪しくなってきている。テンセントの業績が決して悪いわけではないが、伸び悩みを見せているため、異常な成長を続けるアリババと下から追い上げてくるバイトダンスに挟まれて、存在感が小さくなっていると燃財経が報じた。

 

百度が低迷、続いてテンセントも伸び悩み

中国のテックジャイアントを表す言葉にBAT(百度、アリババ、テンセント)があるが、すでに検索大手の百度企業価値を落とし、ファーウェイを加えたHATという言葉が使われるようになっている。

ところが、それだけでなく、SNS「WeChat」を持っているテンセントの伸び悩みも伝えられるようになっている。その一方で、急激に伸びているのが、Tik Tokを持っている字節跳動(バイトダンス)だ。

 

前にアリババ、後ろにTik Tok

中国の企業は創業20年で中年の危機に陥るとよく言われる。じゅうぶんに成長をし、大きな企業となり、新たな領域に打って出ようというハングリーさが消えてしまうからだ。このような企業は、俗に「仏系企業」と呼ばれることもある。現状に満足して、悟りを開いてしまったという意味だ。

テンセントはまさにその中年の危機に陥っている。と言っても、テンセントが下降軌道に入ってしまったわけではない。20%前後での成長を保っているが、ライバルであるアリババは40%成長、追いかけてくるバイトダンスは200%成長をしているため、その間に挟まれているテンセントは見劣りがしてしまうのだ。

さらに2019年、テンセントの売上と利益は市場予測を割り込むことが多かった。売上については第4四半期に予測を上回ったが、利益が市場予測を下回った。3月時点の企業価値は4107億ドルとアリババの4829億ドルに比べて、差が開き始めている。

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▲テンセントの売上の予測と実際。第4四半期にようやく目標達成するという苦しい戦いが続いた。

 

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▲利益の予測と実際。売上は目標達成をしたが、今度は利益が予測を割り込んでしまった。テンセントは苦しい戦いが続いている。

 

ゲーム規制により打撃を受けたテンセント

この中年の危機はテンセントだけの問題ではない。中国のテック企業は過去50%以上の成長をしてきたが、2019年は多くのテック企業が成長率が30%以下に下がった。多くの創業20年企業が、中年の危機を迎えている。アリババはその中でも例外的な存在だ。

テンセントが低調になった要因は、2018年3月に、複数のゲームが販売禁止になったことが大きい。中国では、どのゲームもゲームごとに内容の審査を受けてからでないと発売ができない。暴力やギャンブル、ポルノといった内容を含むゲームが増えてきてたため、中国政府は2018年3月から、ゲームの内容審査作業を凍結した。事実上、新規ゲームが販売できなくなった。

これにより「PUBG」などのテンセントのドル箱といってもいいゲームが販売できなくなり、テンセントは大きな打撃を受けた。それまでは、アリババと同程度の成長率を示していたが、2018年Q2より、テンセントの低成長時代が始まった。

それでも、テンセントは他の事業から一定の利益を確保していた。しかし、2018年以降、利益の伸びは完全に止まった。一方で、利益の面ではテンセントより小さかったアリババが順調に成長をする。アリババとテンセントのライバル関係が崩れ、アリババが頭ひとつ抜け始めている。

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▲主な創業20年テック企業の成長率。異常な成長を続けるアリババを除けば、テンセントはまだ優等生。百度、網易も厳しいことになっている。

 

ゲームのつまづきにより、アリババとの差が開く

アリババとテンセントの関係で見ると、アリババはSNSとゲームを持っていない。テンセントはECを持っていない。これを補うために、2015年からテンセントは京東、拼多多、美団などのEC企業に投資をする戦略をとっている。これにより、アリババとのバランスを保っていた。

しかし、テンセントの中核事業であるゲームがつまづいた。これにより、アリババの背中が次第に小さくなりつつある。

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▲ライバルと目されているアリババとテンセントの2018年以降の成長率。テンセントも20年企業としては成長を続けているが、異常な成長を続けるアリババの影に霞んでしまっている。

 

後ろからはバイトダンスの猛追

テンセントの頭痛のタネは、アリババとの関係だけではない。バイトダンスが急成長をし、すでに百度を追い抜き、テンセントに迫りつつあることだ。テンセントのもうひとつの中核事業であるSNS「WeChat」「QQ」が蚕食されようとしている。WeChatの日間アクティブユーザー数は10億人を超えているが、2020年初めのTik Tokの日間アクティブユーザー数は4億人。しかも、1年で1.5億人増加をしている。

テンセントの2019年の広告収入は684億元で、全体の収入の18%と、ゲームやtoBビジネスと比べれば大きな割合ではない。しかし、バイトダンスの2019年の広告収入は1400億元と大きくなっている。このままでは、テンセントの広告収入は下降をしていってしまうことになる。

 

Tik Tokはショートムービー共有サービスで、SNS的な要素は入っているとはいうものの、メインではない。ソーシャルグラフにより情報が拡散をしていくという点では、WeChatに一日の長がある。

しかし、バイトダンスは2019年1月にショートムービーSNS「多閃」、5月には「飛聊」を続けて投入している。WeChatの市場を狙っていることは明らかだ。

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▲アリババとテンセントの利益の比較。アリババは売上は大きくても利益は少ない企業だったが、2019年になって大きな利益が生み出せるようになっている。堅実に利益を積み重ねるテンセントが霞んでしまっている。

 

エンタープライズサービスで活路が開けるか

テンセントは、2019年第一四半期から、財務報告書の収入の項目に「フィンテック及びエンタープライズサービス」を追加した。クラウドサービスや企業に対する業務支援関連で、2019年には全体の収入の1/4を超え、テンセントの新しい収入の柱となりつつある。多くの企業に、WeChatペイの顔認証などの決済環境を提供し、さらにWeChatミニプログラムで新小売化を可能にする環境を提供し、さらに基幹システムをクラウド化することで、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進する。

この事業は、アリババもバイトダンスも持っていないテンセント独自のもので、テンセントはここを伸ばしていこうとしている。

以前のテンセントはゲームのイメージが強い企業だった。しかし、数年後、ビジネス支援のイメージが強い企業になっているかもしれない。

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▲順調に成長しているテンセントのエンタープライズ向けサービス。すでに全収入に占める割合も30%近くになり、テンセントの中核事業になっている。テンセントは今後toB企業として生きていく道を模索することになるかもしれない。

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