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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

あなたの排泄物を5000円で買い取ります。AI製薬企業が挑戦するFMT療法の開発

深圳のテック企業が、排泄物の有償提供者を募集して話題になっている。提供者になると、月に最高で11万円の謝礼金が支給されるとあって、応募者が殺到をしていると松鼠栗子子栗子が報じた。

 

排泄物の提供を公募する製薬企業

この排泄物の募集をしているのは深圳未知君生物科技(ウェイジージュン)。AIを使った製薬企業だ。

検体者になるには、まずウェブ上のアンケートに答えて応募をする必要がある。応募資格があるのは18歳から40歳までの健康な人で、大学生が優先される。また、深圳市の本社で健康診断を受ける、検体を提出する関係から、深圳市内の住人も優先される。

アンケート内容は、喫煙、飲酒、食事などの習慣や、既往症など、ごく一般的なものだ。

このアンケートの回答から合格者が決まり、連絡がきた場合は、未知君のオフィスで健康診断を受け、最終合格者が決まる。

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▲アンケートは、食事、睡眠、飲酒などの習慣を尋ねるごく一般的なもの。合格をすると、未知君本社で健康診断を受け、最終合格者が決まる。排泄物を提供するだけで最高月11万円の収入になる。https://www.wjx.cn/jq/97583530.aspx

 

排泄物が1回分で5000円の報酬

合格をすると、毎日の排泄物のサンプルをとり、1回につき、300元(約5000円)の謝礼が支払われる。月に22回まで検体を提供できるので、最高で月6600元(約11.2万円)になる。深圳市の中心部では厳しいが、郊外であればじゅうぶんにそれだけで暮らしていける収入になる。

期限は決まってなく、定期的な健康診断を受け合格をすれば、今のところいつまでも検体を提供できるようだ。

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▲WeChatなどで拡散した未知君の排泄物提供の募集案内。中にはフェイク情報だと疑う人もいたが、真面目なAI製薬企業による真面目な検体提供の募集だった。

 

健康な腸内細菌を患者に移植をするFMT治療法

未知君は、排泄物を集めて何をしようとしているのだろうか。この企業は、ハーバード大学、MIT、スタンフォード大学、ジョンズホプキンス大学などの研究者が中心となり、清華大学北京大学の研究者と共同で設立した企業だ。

未知君は、AIを利用して、Fecal Microbiota Transplantation(FMT)治療法を確立することをねらっている。これは便微生物移植と呼ばれる治療法で、健康な人の腸内細菌を患者の消化管に移植をすることで、腸内細菌を整え、消化器疾患だけでなく、神経難病や冠動脈疾患にも効果があるのではないかと研究が進められているものだ。現在、日本では治療法としては確立していないが、馬や、牛、羊などの家畜に対しては、有効性の高い治療法として行われている。

中国では4世紀に食中毒や重症の下痢に対して、健康な人の排泄物の溶解液を飲ませるという治療法が行われ、欧米でも16世紀ごろから健康療法として行われていた。

2013年にVan NoodらがNew Engl J Medに発表した論文(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1205037)が注目を浴びて、このFMTが再び脚光を浴びた。消化管内の感染症の患者に対して、十二指腸に注入するFMTを試したところ、大きな効果が得られたというものだ。

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▲未知君の公式サイト。起業したばかりのAI製薬企業で、提供された排泄物の腸内細菌のDNA解析をAIで行うことにより、FMT療法を確立させようとしている。https://www.xbiome.cn

 

腸内細菌の宇宙を探索するプロジェクト

しかし、人の腸内には数百種類の細菌が500兆個から1000兆個も生息をしているが、同定ができるのは全体の20%から30%程度であると言われている。同定をするには採取をした後、培養をして、どのような細菌がいるかを調べていくしかないが、遺伝子テクノロジーが進化をしたおかげで、腸内細菌全体のDNAを調べ、細菌をパターン分類し、どのようなパターンの腸内細菌を持っているかが短時間でわかるようになっている。

未知君は、このような遺伝子解析技術とAIを活用して、腸内細菌を材料とした各種疾患に対する薬剤を開発しようとしている。今回の、排泄物の募集は、その可能性を探るための基礎調査となる。

なお、このような腸内細菌を元にした薬品が開発されても経口摂取することはなく、消化管などに直接送り込む方式になるという。腸内細菌を経口摂取しても、腸に届くことはなく、腸内細菌のパターンには変化がないことが明らかになっている。

そのため、手軽な飲み薬にはならないが、消化器疾患だけでなく、糖尿病、肥満、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどにも治療効果が得られるのではないかと期待をされている。