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洗脳神曲「蜜雪氷城」の背後に隠されたプロモーションロジック

 

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明日、vol. 087が発行になります。

 

今回は、ドリンクスタンドのプロモーションについてご紹介します。

中国のSNSやショートムービーを見られる環境にいる方は、今年の春から夏にかけて、「密雪氷城」(ミーシュエビンチャン)の歌を耳にしたことがあるはずです。耳にしたところではなく、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)などでは高い頻度で流れてきて、耳について離れなくなります。

多くの人が同じように感じていたらしく、洗脳神曲と呼ばれるようにまでなりました。大学の共通入試「高考」(ガオカオ)の直前でもあったために、受験生は絶対に聞いてはいけない曲とも言われました。この曲を一度でも聞いてしまうと、頭の中がこの曲に占領されて、それまで勉強した内容をすっかり忘れてしまうからだそうです(もちろん、冗談として語られています)。

 

確かに、そのような話もうなづける曲です。YouTubeにも公式動画が転載されているので、興味のある方は聞いてみてください。


 

YouTubeに転載された密雪氷城の主題歌の公式ビデオ。キャラクターである雪王が踊る。

 

原曲は、アメリカ民謡の「オー・スザンナ」で、歌詞は「私はあなたが好き。あなたは私が好き。蜜雪氷城は甘くて美味しい」をひたすら繰り返します。単純なメロディ、同じ歌詞がしつこく繰り返されるなどの点が洗脳神曲と呼ばれる理由です。また、蜜雪氷城のキャラクターである雪王(雪だるま)も可愛らしく、二人でハート型を作る振り付けなども人気になっています。

この曲は、ドリンクスタンド「蜜雪氷城」のテーマソングで、プロモーションとして公開されましたが、この曲が話題になり、爆発的に拡散したため、密雪氷城の各店舗は行列ができるほどの人気になっています。

 

これだけであれば、いわばちょっとした流行現象で、このメルマガで紹介するような話ではありません。しかし、重要なのは、この洗脳神曲の流行は、仕掛け人がいて、ねらって生まれたものだという点です。

もちろん、流行を仕掛けるゴリ押しをしても、消費者が反応してくれるかどうかはわかりません。ですから、蜜雪氷城にしてみれば、ひとつの挑戦でした。しかし、ショートムービーやSNSの利用者や特性を分析し、どのサービスをどのように活用すればうまく拡散するか、そしてどのように組み合わせれば売上に着地させることができるかが、緻密に考えられています。

最初に火がつくところは未知数であり挑戦でしたが、火がついて以降はほぼ想定したとおりに爆発的な拡散が行われ、最終的に密雪氷城の売上増につながっています。

 

従来のSNSプロモーションというのは、複数あるSNS、ショートムービーに同じ内容のものを流すというのが一般的です。マルチチャンネルの考え方です。これは悪くはありません。それぞれのサービスにより、年齢層、地域などの利用者特性が異なるので、幅広い消費者層にリーチすることができます。

蜜雪氷城が画期的だったのはクロスチャンネルの考え方を持ち込んだことです。例えば、あるサービスで拡散が起きると、そのことがあるSNSで伝播をし、別のサービスでも拡散が起こるというサービス間の関係性を分析し、拡散ジャーニーマップとも言えるものを描き出し、そのタイミングに合わせて、各サービスに適切なコンテンツを投下していきました。

これにより、多くの消費者が面白がって反応し、一時はSNSやショートムービーのコンテンツが密雪氷城に占領されたかのような状態になりました。

ただし、名前が売れるというのはよしあしで、蜜雪氷城が話題になると、蜜雪氷城のある店舗で消費期限切れの食材を使っていたということが通報され、処罰を受けたため、お客がいっせいに引いてしまうという事件が起こってしまいました。SNSやショートムービーでも、蜜雪氷城公式がコンテンツ配信を自粛したため、今ではあの賑やかさは幻だったのかと思うほど、静かになっています。とても残念なことです。

 

蜜雪氷城は、1997年に河南省鄭州市で創業されたドリンクスタンドチェーンで、現在、31の省で1万5000店舗以上を展開しています。人気商品は、ソフトクリームとレモン水です。ソフトクリームは3元、レモン水は4元(約68円)という安さで、ドリンク界のピンドードー(激安ECの代表格)とも呼ばれています。

私個人は利用したことはありませんが、利用した人に話を聞くと、「味はそれなり。でも安いのでよく利用する」という答えがほとんどです。地方都市などで強く、大都市部ではローティーン、中学生、高校生の利用が多いチェーンです。

 

中国のドリンクチェーンは、3つに分類することができます。最も上位にいるのは、良質の食材を使い、味にこだわったドリンクチェーンで、多くの場合、見た目にも凝り、いわゆる「映える」ドリンクを販売し、20代以上の中高所得者に人気のあるチェーンです。代表格は「喜茶」(ヘイ・ティー)、「奈雪の茶」などです。客単価は24元(約410円)が標準です。いわゆる都市部のZ世代御用達のチェーンで、日本で言えば、意識高い系の人がいきそうなおしゃれなスタンドです。

その下にくるのが、客単価18元の庶民的な店で、オリジナルアレンジの飲料もありながら、ベーシックなドリンクもあるという利用しやすい店です。茶顔悦色などが代表格です。

そして、その下にくるのが、客単価8元程度の安さを売りにした蜜雪氷城などです。これといった特徴のあるドリンクはないものの、喉が渇いた時に気軽に利用できる店で、イメージとしては繁華街の外れの方や、スーパーの中にあるチェーンです。

このような低価格チェーンは、これまで積極的なプロモーションを行うことは稀でした。「喜茶」「奈雪の茶」などの上位ブランドは、プロモーションが必須でした。集客をするだけでなく、ブランドイメージを高めることにもつながるからです。しかし、蜜雪氷城のような低価格チェーンでは、ネットでプロモーションをして集客するよりも、スーパーや娯楽施設といった客流の多い場所に出店することが最優先で、プロモーションは現場の店ごとに、店舗前を通る客に対してや周辺地域に対して行う方が効率がよかったのです。

しかし、蜜雪氷城はネットプロモーションを行うことで、売上を大きく伸ばすことに成功しました。この点でも画期的でした。

 

このプロモーションの戦略を立てたのは、コンサル会社「華与華」(ホワユーホワ、http://www.huayuhua.com)です。華杉と華楠の兄弟が上海で創業したコンサル会社で、独特の手法で多くの企業の戦略立案、プロモーションを手がけてきた勢いのある会社です。日本人に馴染みのあるブランドとしては、火鍋チェーンの「海底撈」の戦略立案も担当しています。

蜜雪氷城がこのようなコンサルに依頼をしたのは、創業後にベンチャーキャピタルの高瓴資本(ガオリン、ヒルハウスキャピタル)の投資を受けていることと関係があるかもしれません。高瓴資本は、テンセントや京東、美団、滴滴、ビリビリなどにも出資をしていて、出資をするだけでなく、重要なところで企業を成長させる働きをしています。

EC「京東」がリーマンショックで経営危機を迎えた時に、それを乗り越えるために高瓴資本に対して7500万ドルの出資を依頼しましたが、高瓴資本はそれを断りました。単に会社を助けるための投資には興味がないというのです。しかし、京東が全国の配達網を完成させ、中国のアマゾンになることを目指すのであれば3億ドルを出資すると答えて、京東の創業者、劉強東を驚かせました。結局、京東はこの条件を飲み、3億ドルの資金を活用して、世界でも例のない自動化された全国配送網を構築します。これが今日の京東の基盤になっています。

蜜雪氷城が華与華にプロモーション立案を依頼したのも、高瓴資本のアドバイスがあったのかもしれません。

では、華与華はどのような立案をし、SNSなどのサービスをどのように組み合わせて、洗脳神曲を生み出していったのでしょうか。そして、その流行をどのように売上に着地させていったのでしょうか。今回は、蜜雪氷城の洗脳神曲に背後にある戦略についてご紹介します。

 

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