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明日、vol. 079が発行になります。
今回は、顔認証についてご紹介します。
中国は顔認証技術の応用にかけては、他国よりも先んじていました。きっかけとなったのは、2015年にドイツのハノーファーで開催されたデジタル展覧会CeBITで、アリババの創業者ジャック・マーが行ったデモです。その会場で、スマートフォンを使って、アリペイの顔認証決済を実際に使って、切手を1枚購入するという内容のものでした。
このデモは世界に衝撃を与えたビッグデモとなりました。顔認証技術というのはその時には珍しいものではなくなっていたものの、それは実験室の中でのことです。アリペイという中国で広く使われている決済と連動して、顔パスで実際にものが購入できるという点が大きかったのです。
さらに、アリババは、2017年7月に浙江省杭州市の杭州博覧センターの中に、レジなしの無人スーパーの営業を始めました。入店時に改札のようなゲートにアリペイのQRコードをかざす必要はありますが、あとは商品を自由に手に取って、そのまま専用出口から出るだけで、どの商品が購入されたかを認識し、アリペイでの決済が行われます。
この「誰がどの商品を手にしたか」を認識するのに、店内カメラで撮影された映像から顔認証を行い、個人を識別するという技術が使われています。
また、同じ年の9月には、杭州市内で、ケンタッキーが運営する自然食レストラン「KPro」(ケープロ)が営業を始めました。入口に姿見ほどの大きさがあるタッチパネルディスプレイが並べられ、ここで料理を注文します。そして、決済は顔認証によるアリペイ決済になります。スマホをかざす必要はなく、スマホを忘れていても決済ができます。
2018年にアリババは、POSレジに後付けできる顔認証ユニット「蜻蜓」(チンティン、ヤンマの意味)を発売をし、2019年になるとセブンイレブンなどの小売チェーンに浸透していきます。販売価格は1199元(約2万円)と低価格に抑えられている上、決済人数に応じて最高1200元のキャッシュバック施策が行われ、実質無料で導入できることから、一気に広がりました。
ところが、2020年のコロナ禍です。多くの人がマスクをするようになり、顔認証決済が使えなくなってしまいした。
すぐにマスク付きの顔認証技術も開発されましたが、目の周りだけを使って認識を行うため、95%前後の精度が限界のようです。会社の出退勤管理などでは利用できるレベル(認証に失敗した場合はやり直してもらうか、社員証、スマホなどで補助認証を行う)ですが、さすが決済の認証には使えません。それでせっかく盛り上がってきた顔認証決済が一気にしぼんでしまいました。
それが、新型コロナが終息をして、外出制限がほとんどなくなり、マスクを外す人も増えてくると、再び顔認証に対する注目が集まるようになっています。現在、中国ではほぼ終息をしていますが、変異種が海外から持ち込まれ、市民にも感染する事態がときおり起きていて、完全終息にはまだ時間がかかりそうですが、多くの都市では以前と変わらない人手が戻っています。
都市によっても異なりますが、公道を歩く時にはマスクの着用は必要なく、店舗、公共機関などを利用する時にマスク着用が義務付けられているというのが一般的なようです。付けたり外したりは面倒なので、道を歩く時もマスクをしたままの人もいれば、あごかけにしている人などもいますが、やはり気温が上がって暑くなると、マスクを外して、必要な時に取り出して着用するという人が増えているようです。
顔認証は、マスクのせいで1年ほど停滞をしましたが、再び前に向けて進み始めると期待されています。
顔認証が期待をされている理由は、ユーザー体験の圧倒的な向上です。具体的には決済ステップのステルス化です。例えば、今、日本でもスマホにさまざまな決済アプリを入れてキャッシュレス決済を使われている方も多いかと思います。例えば、モバイルスイカやPayPayといったものを使われる方は多いでしょう。しかし、この2つは決済をするときに、使おうとしている人がほんとうに本人であるかどうかの確認は行いません(確認をする設定にもできるようになっている)。日常の少額決済に使われることが多く、しかもスマホそのものに顔認証ロックや暗証番号ロックをかけているのが一般的なので、スマホが盗難にあっても勝手に使われることはそうそう起こらないだろうという考え方です。
しかし、本人が暗証番号などの設定をしていなかったり、あるいはスリープする前のロックがまだかからない状態で盗難にあったら、勝手に決済をされてしまうことになります。本来はスマホ自体にもロックがかけられ、決済をするたびに本人認証を行うという二重認証が理想的です。一方で、ユーザーから見ると、決済をするたびに指紋をタッチしたり、パスコードを入力するのは面倒だと感じます。
しかし、顔認証であれば、本人認証を行っても、ユーザーにはその操作を感じさせない「認証のステルス化」が可能になります。例えば、iPhoneはFaceIDという非常に優秀な顔認証システムを搭載しています。ApplePayで決済をするときは、サイドボタンを2度押しすると、ウォレットアプリが起動します。この時、顔認証が自動的に行われてしまいます。つまり、ApplePayでは、iPhoneを取り出して、ウォレットアプリを起動(この時画面を見るので顔認証が行われる)、タッチをすることで決済が完結します。本人はそのつもりがなくても、本人確認が行われ、安全性を高くしているのです。
このiPhoneの例は、非常にうまく顔認証を決済の利用シナリオに組み込んだ好例ですが、今後は他の顔認証でもこのようなステルス化が進んでいくことになります。
例えば、多くの顔認証出退勤管理システムが、出退社するときに、ユニットの前で立ち止まり、顔を正対させるようになっています。顔認証はまだまだ「顔というプライバシーデータを扱う」というイメージがあるので、知らないうちに顔認証をされることに抵抗感がある人が多いのです。そのため、「顔認証をした」ということを意識してもらうために必要なステップですが、技術的にはもはや必要のない手順になっています。
技術的には廊下をただ歩いて、出入り口を通過するだけで、その防犯カメラ映像から顔認証をすることも可能になっています。プライバシーデータという抵抗感が薄れてくれば、ただ出入り口を歩いて通過するだけで、出退勤時間が自動的に記録することはじゅうぶんに可能になっています。
これは顔認証だけではありません。IoT機器というのは、ユビキタス社会を実現するために使われます。ユビキタスという言葉は、デバイスメーカーによって、たくさんのデバイスを持ち歩くための宣伝文句として使われて歪められてしまいましたが、この発想を提唱したゼロックス・パロアルト研究所のマーク・ワイザーの主張は、Back to the Real World(現実世界に戻ろう)でした。個人は、個人を識別する小さな識別チップを身につけるだけで、電子デバイスは持ち歩かない。地下鉄を乗る時にはホームに降りて、電車に乗るだけでいい。社会が用意したシステムが自動的に乗車賃を精算する。仕事をするときは、パソコンを持って歩くのではなく、オフィスのデスクに指を触れれば、そこがモニターになり、必要な仕事ができる。人は、電子デバイスを持ち歩かず、もっと人間らしいことに目を向けるべきだという主張でした。この世界観を実現するのに、生体認証やIoTデバイスが必要になるのです。
顔認証による認証のステルス化は、このユビキタスの考え方に沿ったものです。ユビキタス社会を目指すべきかどうか、実現できるのかどうかには議論はありますが、認証の作業が楽になり、パスワードや暗証番号を忘れる心配もないという顔認証は利便性と安全性を両立できる技術であり、今後の認証技術の中心になっていくことは間違いありません。
そこで、今回は、中国の顔認証、顔認識技術がどこまで進んでいるのか、どんなプレイヤーがいるのか、どんなことに応用がされ始めているのかという概観をご紹介します。主要な開発企業もご紹介しますので、中国の顔認証技術を調べるときの参考にしていただければと思います。
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