中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

EC税の導入が目前。EC業者が領収書を発行しない理由とは

ECでの販売にかかる所得税はこれまできちんと徴収されていなかった。EC出品業者が領収書を発行しないため、売上を把握する方法がなかったからだ。そこで、国家税務総局は、国家電子商務税収分析システムを開発し、このシステムへの登録を義務づけ、売上を正確に把握をしようとしている。その登録期限が迫っていると亮剣西南が報じた。

 

EC税の導入期限が目前となる

EC税の導入が目前となり、小規模販売業者は頭を悩ませている。EC税といっても、ECで販売する業者に何か特別の税金を課すわけではなく、むしろ、EC販売業者には店舗小売と同じような法人税所得税がかけられていなかった。この問題は、以前から店舗小売業者から不公平だという声があがっていた。これを店舗小売並みに税金をかけるというものだ。

この不公平な税制の改善は、2018年7月に公布された「電子商務法」から始まっている。この中で、はっきりとEC業者も収入額に応じた税金を支払わなければならないことが明記をされた。

領収書を発行しないEC業者

ところが、ECの売り上げについては、税務当局が正確に把握をすることができないという問題があった。店舗小売については、領収書(レシート)の発行が義務付けられ、領収書情報を見ることで、売上が正確に把握をできる。

しかし、ECでは領収書の発行が義務付けられてなく(対面販売ではないので、レシートを発行しづらいという問題もある)、これまで、ECでの売上を正確に把握する方法がなかった。

そこで、2020年12月に、国家税務総局は、各販売業者に対して、国家電子商務税収分析システムに6ヶ月以内に登録をすることを義務づけた。このシステムに登録をするということは、日々の売上などが税務総局に把握をされるということで、その登録期限が迫っている。

f:id:tamakino:20210629110932p:plain

▲EC専門メディア「億邦動力」が、EC出品業者に「EC税の導入時期は適切か」と尋ねたアンケート結果。EC出品業者の多くが領収書を発行していない。その理由は、返品処理や架空販売など、EC特有の商習慣に原因があった。

 

まとめて過去分が請求される事態も

正確に言えば、2018年に公布された電子商務法以来、EC税は導入をされている。

しかし、これまで売上が把握できず、税額を算出することができず、徴収できなかったという状態になっている。

そのため、各地で、2018年以降の税金がまとめて請求されるという事態も起きている。

ECで女性服を販売するある小規模業者は、毎年1000万元(約1.7億円)の売り上げがあったが、2020年前半の売上はコロナ禍の影響で、わずか80万元になってしまった。従業員の人件費などの固定の運営費がかかるため、200万元の赤字となってしまった。さらに、今後の仕入れ代金など300万元の借入をしなければならず、この業者は500万元の負債を抱えることになった。

そこに税務総局から、3年分の税金がまとめて請求された。これが900万元にのぼり、合計1400万元の負債を抱えることになった。この業者は破産をする以外にないと訴えた。

この一括徴収問題は、大きな問題となり、税務総局は結局、コロナ禍という特殊な事情を考慮し、過去の分の税金については徴収を停止している。

f:id:tamakino:20210629110929p:plain

▲EC専門メディア「億邦動力」が、EC出品業者に「EC税の導入時期は適切か」と尋ねたアンケート結果。多くの業者が、小規模事業者の減免措置を求めてはいるものの導入時期は適切だと考えている。

 

領収書を発行しない理由その1:返品処理

なぜ、EC業者は紙であろうと電子であろうと領収書を発行しないのか。ひとつはECが返品を前提にした販売方式になっているからだ。特に、服やスニーカーなど、試着をしてみる必要がある商品では、購入をしてみて、サイズが合わないことに気がついて、返品をし、交換をするということが当たり前になっている。

また、セールやキャンペーンなどでは、「○○元以上の購入で○○%割引」などの施策が行われることがあり、割引を適用する額まで購入して、不要なものは後で返品をして返金してもらうというテクニックもよく使われる。販売業者はこれも織り込み済みで、いちいち領収書を発行していると、後の処理が複雑になるばかりでなく、税務当局から実際の税額よりも多い額を徴収されてしまうことになりかねない。

 

領収書を発行しない理由その2:架空購入

また、大きいのがやらせ販売だ。自社や協力者に架空購入をしてもらい、商品は発送しないということが、小規模業者の間では常態化をしている。ひとつは、表面的な売上を水増しして、検索順位をあげることが目的だ。また、悪質な業者になると、架空購入者に好意的な購入レビューを書いてもらうということも行われている。

このような行為は、多くのECプラットフォームで禁止をしている。領収書を発行してしまうと、このような行為が発覚をしかねない。そのため、領収書は発行しない、求めがなければ発行しないというところが90%近くになっている。

税務総局では2013年頃から、EC業者から公平に税を徴収するためにはどのようにすればいいのかの研究を始めている。その結論が、税収分析システムを開発し、EC販売業者に登録をしてもらうということだった。これで、正確な売上が把握できるようになり、公平な課税ができるようになった。

その登録期限が近づいている。税逃れをしていたEC業者にとっては頭の痛い問題だが、適切な運営をしていた大規模業者、実体店舗の経営者からは歓迎をされている。