教育制度の強化により、民間の教育機関が「大学」を名乗ることができなくなった。ジャック・マーが創立したビジネススクール「湖畔大学」も、「湖畔創研センター」に改称することになった。ジャック・マーは校長も辞任し、ジャック・マーの夢のひとつが破れることになったと鳳凰網科技が報じた。
ジャック・マーの夢「湖畔大学」の受難
アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)がアリババを勇退して以来、アリババは受難続きだ。2020年にはアリババ傘下のアントグループのIPOに失敗をし、さらに独禁法違反の調査を受けることになり、2021年4月には市場監管総局は、アリババに対して182.28億元(約3100億円)の罰金が課せられた。
さらに、5月17日には、ジャック・マーの夢のひとつであった教育機関「湖畔大学」が教育制度の規制強化により、大学を名乗ることができなくなり、湖畔創研センターに名称を変えざるを得なくなった。さらに、湖畔大学の学長を務めていたジャック・マーも学長を辞任することになった。現在、湖畔創研センターでは新規の学生募集を停止しており、既存の学生向けの講義のみが開かれている状態だ。
▲湖畔大学は、当局の指摘により、「大学」を名乗れなくなったため、「大学」の文字を消す作業が進められている。
公式教育機関以外は名乗れなくなった「大学」の名称
湖畔大学(現湖畔創研センター)は2015年に設立され、代表人はジャック・マー、資本金は1000万元(約1.7億円)の中国版NGO(非政府組織)として、浙江省民政庁に登記をされた。しかし、2021年になって、民政庁から民間組織であり、教育機関でないことから、「大学」の名称は相応しくないと指摘をされ、名称を変えることになった。
このような改名は、湖畔大学だけでなく、他の民間教育機関にも及んでいる。多くの養成機関で、大学の名称が使われていたが、当局からの指摘により、正式な教育機関でないところでは「○○商学」「○○学園」「○○高研院」などへの改称が始まっている。
300年続く大学を作る。ジャック・マーの夢
しかし、次世代の経営者、イノベーターを育てる湖畔大学に対するジャック・マーの情熱は並々ならないものがあった。2008年頃から、出会った経営者たちに、湖畔大学の夢を語り、協力を求めてきた。そして、2014年に湖畔大学設立のプロジェクトがアリババ内で正式に始まった。
湖畔大学のコンセプトは、ジャック・マーの一言で決まったという。それは「ビジネス講座やビジネススクールはやらない。やるなら、300年続く大学だ」というものだった。
▲湖畔大学で講義をするジャック・マー。モダンな講義室も用意されているが、このような古い建物で講義をするのがジャック・マーのお気に入りだった。湖畔大学では、失敗事例のケーススタディーを行う。
競争率46倍の難関「大学」
ジャック・マー自身も精力的に動いた。レノボ創業者の柳伝志、銀泰の沈国軍会長、清華大学の経済管理系学部長、北京大学の光華学院長など、錚々たるメンバーの協力を取り付けてきた。そして、ジャック・マー自身が学長に就任することで、湖畔大学が始まった。
湖畔大学はテックビジネスの士官学校だと言われた。ここで、テクノロジーとビジネスの知識を身につけ、次の世代のビジネスを担う人材を養成する。
しかし、入学条件はきわめて厳しかった。起業した経験があり、その企業が3年以上運営されたこと。年間売上は3000万元(約5.1億円)を越え、従業員数は30人以上になっていること。つまり、学生ではなく、すでに起業をして、戦っている人を集め、実践的な講義を行う。インキュベーターではなく、IPOをリアルに目標に置くアクセラレーターだ。
湖畔大学には、この5年間、1万1788人の入学申し込みがあった。そこからさらに厳選され、入学が認められたのは255人しかいない。競争率は46倍以上にもなる。
また、リクルートチームもいて、全国のスタートアップ企業の経営者の調査を行い、有望な起業家については湖畔大学に誘う活動も行っている。
活躍をする湖畔大学卒業生たち
卒業生も活躍している。第1期には快的の陳偉星、百合網の慕岩、優米網の王利芬などが、第2期からは捜狗の王小川、外婆家の呉国平、滴滴の柳青、波場TRONの孫宇晨などがいる。また、第2期には女優の李氷氷も入学をして話題になった。
学費は3年間で28万元(約480万円)。講義は2ヶ月に1回、4日から5日間に集中して行う。講義はジャック・マーを始めとする著名経営者が直接行う。この授業料と、毎回杭州市までいき滞在をする手間を惜しむ湖畔大学生は皆無だ。
▲湖畔大学第2期の入学生たち。中央右側にいる女性は、女優の李氷氷。
成功事例ではなく、失敗事例を学ぶ湖畔大学
講義の内容は、実際のビジネス事例のケーススタディーが中心になるが、成功事例は少なく、失敗事例を学ぶ。失敗の原因を探るのではなく、どうすれば失敗を補って成長軌道に載せられたかを徹底的にディスカッションする。現実のビジネスで、成功ばかりが連続するということはほぼなく、あったととしても一瞬だ。多くは小さな失敗が連続し、それをカバーすることで、次のイノベーションが生まれてくる。その思考法を身につけることが湖畔大学のねらいだ。
ジャック・マーは「近い将来、中国の有力企業500位のランキングのうち、200名を湖畔大学出身にする」と豪語していたが、辞任をすることにより、その夢の実現は難しくなってしまった。ジャック・マーはこの「失敗」を次のイノベーションに結びつけることができるだろうか。