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グルメモール化が進むショッピングモール。変わるモールの黄金比率

ショッピングモールの業績が悪化をし、グルメモール化が進み、買い物天国から美食城になろうとしている。小売:飲食:小売の黄金比率が変わろうとしていると新週刊が報じた。

 

存続ライン空き店舗率20%を超えたショッピングモール

中国では大都市の中に総面積5万平米を超える都市型ショッピングモールが8000カ所もある。

例えば、北京市で最も有名な繁華街「王府井」は、通りの東側がすべてショッピングモール化している。以前の東安市場が建て替えをして、新東安市場としてショッピングモールに生まれ変わり、さらにはその北側の北京apmというショッピングモールも一体化され、巨大モールになっている。雨の日や気候の厳しい季節には屋内を歩いて買い物ができるため、人気のモールとなっている。

しかし、盛況なモールはごく一部に限られるようになり、多くのモールが存続の危機を迎えている。調査会社フロスト&サリバン中国の調査によると、2021年の主要モールの空き店舗率は21.1%となり、存続ラインと呼ばれる20%を超えている。

▲中国で最も有名な繁華街、王府井も通りの東側が巨大モールになっている。

 

グルメモール化するモール

各モールは生き残りを図るために、飲食店を増やす傾向にあり、ショッピングモールではなく、グルメモールと呼ぶのが適切なほど飲食店が増え始めている。

例えば、北京市の東側にあるモール「朝陽大悦城」は、400の店舗が入居をしているが、飲食店が増え始め、180店舗が飲食店となっている。服飾品を中心とした一般的なモールの顧客層は、若い女性と家族というのが普通だったが、この朝陽大悦城は食事にくる近隣のホワイトカラーと、SNSで拡散した食事、飲料などを目指してやってくる若者が中心となり、食事のついでに買い物をするという感覚になっている。

▲朝陽大悦城は飲食店が半分近くになり、客層も若い女性から、近隣のホワイトカラーと家族に大きく変わった。

 

「買い物」ではもはや集客ができない

小売を中心としたモールでは、集客力が著しく落ちている。言うまでもなくECによる影響だ。巨大モールはとにかく疲れる。行きたい店が点在をしている場合など、歩く距離もばかにならない。それで購入できるのがECで売っている商品と同じものであるなら、誰もがECで買ってしまいたいと考えるようになる。ECであれば、大量の商品を見比べることも可能だ。

さらに2019年からファストファッション総崩れ現象が起き、フォーエバー21、エスプリ、トップショップなどのファストファッションブランドが中国市場から撤退をした。これもSHEIN(シーイン)を筆頭としたD2C(Direct to Comusumer)により、最新のファッションをより短時間で安価に提供するリアルタイムファッションが台頭し、ファストファッションですら「流行遅れの服飾品ばかり売っている」イメージになってしまったことが原因だ。

つまり、モールの前を通りかかったとしても、買い物をするために中に入る理由がない。しかし、お腹がすけば飲食店は利用してもらえる。モール運営は、各店舗の売上をどうやってあげるかと考える前に、どうやったらモールの中に入ってもらえるかを考えざるを得なくなり、飲食店で集客をしようと考え始めている。

 

グルメモールとなった富力海珠城

広東省広州市の繁華街である江南西の最も大きなモールが富力海珠城だが、すでに飲食店の方が多くなり、人からは「美食城」と呼ばれている。

モール運営から見ると、飲食店はあまり好ましくない。飲食は利益幅が小さなビジネスなので、管理手数料(家賃)を高く設定することができない。また、厨房施設が必要となるため、店舗の入れ替えに工事が必要となり、店舗の平均営業日数が下がってしまう。モールの管理手数料は「売上の◯◯%」という契約なので、営業できない日が多いとそれだけモール運営の収入が下がることになる。そのため、モールは最も売れる女性服を中心にし、飲食は休憩場所として最低限用意をするというのが一般的な考え方だった。

▲富力海珠城はショッピングモールだったが、飲食店が増え、現在ではグルメモールと認識されるようになっている。

 

スイーツを集客の武器とした西単大悦城

これを変えたのは、2007年に北京市西単にオープンした西単大悦城(JOY CITY)だった。この西単大悦城には特殊な事情があった。西単というのは北京市で王府井に次ぐ繁華街だが、庶民的であり、価格帯の安い小売店が多い。そのため、若者が遊ぶ街になっている。日本で言えば、渋谷に近い感覚だ。

一方で、歴史のある百貨店が7店舗もひしめいていて、そこに大規模モールを展開するというのは無謀ともいえる試みだった。そこで、運営をする中糧集団は、日本の渋谷109、韓国ソウルのCOEX MALLを参考にし、若者の流行の発信地にしようと考えた。テーマ性を持たせたモールで、中国初のテーマモールとも呼ばれる。

若者を呼び込むためにどうすればいいか。小売店だけでなく、若者が好きなファストフードや映画館、ゲームセンターなども備えた。小売:飲食:娯楽=5:3:2という比率で、オープン当初は無謀だ、非常識だと言われたが、後に成功をし、この比率はモールの黄金比率と呼ばれるようになる。

最も成功したのがデイリークインだった。当時としては珍しかった本格アイスクリームが若者の間で人気となり、デイリークインのアイスを食べるためにわざわざ西単に出かける若者も続出した。1日で2000食以上が売れ、売上は3万元を超えた。デイリークイーンが集客の原動力となり、小売も好調となった。

▲西単大悦城は、渋谷109のような若者の流行発信基地を目指したが、集客の決め手となったのはデイリークインのアイスクリームだった。

 

モールに重要なのは小売、飲食、娯楽の黄金比

今日では、モールにとって飲食と娯楽空間が重要であると考えられるようになっている。飲食や娯楽空間は売上としては小売よりは落ちる。しかし、集客力があり、滞在時間が長い。顧客を集め、滞在させることで、小売店とも接触する機会が増え、そこで買い物をしてもらい利益をあげるという考え方になっている。

西単大悦城では、さらに飲食と娯楽を充実させ、小売:飲食:娯楽=1:1:1という新しい黄金比率に向かおうとしている。

多くのショッピングモールが飲食の比率を増やし始めている。ショッピングモールはグルメモールになろうとしている。

▲モールの吹き抜けの垂れ幕広告も、飲食の広告が多くなっている。もはやモールは飲食で成り立つようになっている。