中国で自宅用の指紋認証式の電子ロック錠が売れている。指紋センサーがドアノブに組み込んでいる例が多く、ドアノブを握りながら指紋認証で解錠ができる。その電子ロック錠の展示会に、ある女性が現れ、小さな黒い装置を使って、電子ロック錠を次々とハックして解錠するという事件が起きた。簡単な装置で破れる電子ロック錠の存在に、業界も消費者も驚いていると北京青年報が報じた。
売れている電子ロック錠
中国で進む生体認証。決済時に顔認証を利用することは珍しくなくなっており、指紋認証もごく普通に使われるようになっている。
最近、売れているのが、ドアの電子ロック錠だ。従来の鍵を回して開ける方式ではなく、暗証番号や指紋認証で開けられる。また、顔認証の電子ロック錠も販売されている。鍵を持ち歩く必要がないので、鍵をなくす心配がない。オートロック方式であっても、鍵をいつも持っていないと閉め出されるという心配もなくなる。うまく認証できないときは、スマホからも解錠できる。価格は2000元(約3万3000円)から3000元(約5万円)となかなかいい値段がするが、よく売れているという。
▲中国では指紋認証式の電子ロック錠が売れている。ドアノブに指紋センサーが埋め込まれているので、解錠も簡単。鍵の紛失などの心配もない。オートロックでも締め出される心配もない。
展示会に現れた女性が次々と電子ロック錠をハッキング
ところが、5月末に浙江省永康市で開催された「2018第9回中国国際ドア業界博覧会」で、業界人と電子ロック錠の利用者を震撼させる出来事が起こった。多数の電子ロック錠業者が自社製品を展示する会場に、王と名乗る一人の女性が現れた。彼女は、展示している業者に向かって「あなたの電子ロック錠を、3秒で開けることができます」と宣言して、バッグの中から小さな黒い箱を取り出して、言葉通りに3秒で開けてしまった。彼女の“被害”にあったのは8社だった。
彼女が使ったのは、通称「スモールブラックボックス」と呼ばれている装置で、そこから飛び出た針金のようなものを電子ロック錠のセンサー部分にあて、スイッチを入れると3秒で電子ロック錠が解除されてしまうのだ。
会場の業者もパニックとなり、このことはすぐにネットで報道され、電子ロック錠を使っている消費者の間でもパニックになった。
▲ブラックボックスの先の針金部分を電子ロック錠に当てて、高圧電流を流すだけ。3秒で解錠できてしまう製品が多々あった。
電磁波防御をしていない低品質の電子ロック錠の存在が露わになる
電子ロック錠のメーカーでは、すぐにこのブラックボックスを入手して、自社製品の試験を行った。「千家恋」という電子ロック錠を販売しているメーカーはこうアナウンスした。「ブラックボックスを試験をしたところ、暗証番号が未設定の状態では確かに解錠されてしまいました。しかし、暗証番号を設定していれば解錠はされません」。
「掌門之星」という電子ロック錠を販売しているメーカーでは、「試験をしたところ、弊社の製品はまったく影響を受けませんでした。電磁波などの影響を受けないように金属筐体に収める設計になっているからです」と北京青年報の取材に応えた。
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▲電子ロック錠のハッキングを報道するネットメディア。いとも簡単に解錠できる。
原理は簡単。高圧電流を飛ばすだけ
スモールブラックボックスの正体は単純で、変圧器を改造し、針金の先から高圧の電磁波が発射される仕組みになっている。これが電子ロック錠を誤作動させる。
このブラックボックスは、「電子ロック錠安全性試験装置」として、タオバオなどのECサイトで数百元で発売されているという。
北京青年報の記者は、タオバオを始めとするECサイトを検索してみたが、すでに出品停止になっているようで、見つけることはできなかった。
▲問題の装置は、安全試験装置などという名目でECサイトでも販売されていたという。現在は出品停止になっている。
検証をしていない低品質の電子ロック錠は淘汰されていく
無数の中国メーカーが電子ロック錠を開発、発売しているが、品質に関してはさまざまだ。ブラックボックスで簡単に解錠できてしまう(ということは、電子着火式の使い捨てライターでも解錠できる可能性がある)というものから、ブラックボックスにまったく影響を受けないものもある。
中国では、ある製品が売れるとなると、あっという間に数十あるいは100を超えるメーカーが製造販売を始めるため、すぐに価格競争のステージに陥ってしまう。その中で売れるのは、やっぱり「質は悪くても安いもの」なのだ。指紋認証ユニットを仕入れて組み立てるだけの、セキュリティ検証をきちんとしていない製品も多く出回ってしまう。
今回の事件で、ブラックボックスで簡単に解錠できてきしまう電子ロック錠の製品名とメーカー名のリストがネットに出回っている。賢い消費者であれば、このリストに載っている電子ロック錠は避けることだろう。
中国の生体認証関連製品も、セキュリティを真剣に考える時期に入ったようだ。
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