中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の横断歩道は、顔認証、自動ゲート、ジェットミスト。赤信号は絶対に渡らせません!

中国各地に、歩行者が赤信号を無視して横断歩道を渡るのを防ぐさまざまな装置が登場して話題になっている。その中でも、湖北省黄石大冶市に登場した、信号無視の歩行者に霧を吹きかける装置が話題になっていると新京報が報じた。

 

顔認証で個人情報を特定して、モニターで顔を晒す深圳

中国の各地交通警察は、横断歩道の赤信号無視に頭を悩ませているようだ。中国だけでなく、車もこないのに赤信号をきちんと守るのは日本ぐらいで、海外では、自分で安全確認ができれば、赤信号でも渡ってしまうことが多いようだ。しかし、それで交通事故に会うこともあるのだから、きっとどこの国でも歩行者の信号無視には頭を悩ませているのだろう。

以前、信号無視対策として深圳市の取り組みを紹介した。監視カメラを設置するだけでなく、顔認証を行い、それで身分証データベースを検索し、名前や住所、勤務先などの個人情報を特定。勤務先などに通知をし、注意を促す。撮影した顔写真は、交差点近くの大型モニターに一定期間表示するというものだった。

かなり高度で先進的なIT技術が使われているが、なにか使いどころを間違えているような気もしないではない。

同じようなシステムが、昨年8月から南京市でも導入されている。こちらは顔認証の機能はなく、赤信号無視の写真を自動撮影し、大型モニターに一定期間表示するというもののようだ。

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▲深圳市の屋外モニター。信号無視の違反者は、顔認証により個人情報を特定。顔写真は一定期間、このモニターで晒される。

 

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▲南京市でも深圳市と同じような自動撮影システムが導入されている。こちらでは、個人情報までは特定されない。

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踏切方式の武漢市の対策

しかし、ここまで大掛かりなシステムを導入するのには費用もかかる。そこで、中国各都市ではあの手この手で赤信号無視対策を行っている。

昨年8月から、武漢市の南湖大道と民族大道の交差点に導入されたのが、踏切のようなシステム。赤信号になると、テープが降りてきて、横断歩道を渡れなくなる。青信号になると、テープが上がるというものだ。

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武漢市では、赤信号になるとテープが下りてくる。潜って渡ると、自動撮影される。

 

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▲青信号になると、テープが上がり、横断できる。踏切と同じ方式だ。

 

改札もつけちゃいました

また、同じ武漢市では、昨年4月から、金銀潭大道の交差点に、別のシステムが導入している。自動改札そっくりのゲートで、赤信号で閉じ、青信号で開く。このゲートを乗り越えて、信号無視をしようとすると、監視カメラが自動的に静止画を撮影する。

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武漢市の改札方式の横断歩道。赤信号の時は、ゲートが閉まる。改札部分にスキャナーのようなものがついているが用途は不明。地下鉄用改札を転用したのだろうか。

 

赤信号を無視すると、ジェットミストで攻撃

さらに、中国人ネットワーカーの間でも「中国っぽい!」と拡散しているのが、湖北省黄石大冶市の取り組みだ。

横断歩道の手間に、鉄製の柵が並べられ、端と端の間には、目には見えないが、赤信号の時にレーザー光線が張られる。信号無視をしようとすると、このレーザー光線を横切ることになり、遮断される。

すると、途中の柵の横から、ミストが噴出されるのだ。信号無視をして渡ろうとした人はびっくりするし、この時、蒸気が舞うことで、張られたレーザー光線が見えるようになる。さらに、「交通規則を守りましょう」「信号無視をしないように」という音声が再生される。

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▲青信号の時は、何も起こらず。ただ、ちょっと邪魔なだけのポール。

 

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▲手前のポールからジェットミストが噴出され、赤信号無視の歩行者を攻撃する。端のポールからレーザーが走っていて、これを遮断すると作動する仕組み。


湖北大冶推出闯红灯喷水雾“神器” 警方:不会有安全问题 近日

 

中国人からも「中国っぽい!」と言われる信号無視対策

しかし、ネットワーカーたちからは疑問の声も上がっている。「面白がって、わざと信号無視する人が出てくるのでは?」「これから夏がくるから、涼しくていいよね」など、面白がっている人が大半だ。地元の人によると、みなスマホで動画や写真を撮り、ちょっとした観光名所になっているそうだ。

黄石大冶市の交通警察官は、新京報の取材に答え、信号無視をする人は確実に減り、警察官の負担も軽くなったと言う。中国は、歩行者のマナーに訴えかけるのではなく、このようなちょっとユーモラスな実力行使が大好きだ。この手の信号無視防止システムは、これからも広がっていくのではないかと思われる。

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ECサイトタオバオ」では、深圳市の自動認識システムが販売されている。これはモニターだけだが、1000元(約1万7000円)は随分とお買い得。四川省成都市から5日以内に無料配送だそうだ。全体のシステム一式も8800元(約15万円)で出品されていた。

 

珠海市の無人コンビニBingoboxが閉店。利用したくない5つの理由

広東省珠海市に昨年オープンした無人コンビニ「Bingobox」が突然閉店をして、市民の間で話題になっている。その中、ある市民が投稿した「無人コンビニを利用したくない5つの理由」の一文が大きな話題になっていると香山網が報じた。

 

話題になった無人コンビニが突如閉店

Bingoboxは、全国28都市に展開するコンテナ型無人コンビニ。コンテナ型店舗なので、設置、撤去に手間がかからないのが特長だ。ドア付近のQRコードスマホでスキャンすることで、ドアが開き、店内で商品を手にとって、セルフレジへ。商品には無線タグがつけられていて自動精算され、アリペイ、WeChatペイ、ApplePayなどのスマホ決済で支払いをする。支払いを済ますと、ドアが解錠され外に出られるという仕組みだ。

珠海市にオープンした当初は、長い行列ができる大盛況だったが、5月初め、なんの告知もなく閉店し、香山網の掲示板では「倒産したのか?」と騒ぎになった。

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▲珠海市のBingoboxは、開店時は話題になったが、突如閉店をした。

 

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▲オープン当初は、多くの地元メディアが取材にきて、長蛇の列ができる盛況ぶりだった。

 

何度もスキャンをしなければならず煩わしい

その中で、駱駝羊というネットワーカーが、無人コンビニを利用したくない理由を5つ発表し、ネットで拡散し、話題になった。

第1の理由は、煩わしくて不便だというものだった。無人コンビニに入るだけでも、スマホQRコードをスキャンしなければならず、またレジも自分で操作をして、スマホ決済をしなければならない。有人コンビニであれば、入るのにスキャンは必要なく、レジの操作はスタッフがやってくれ、最後に支払いだけスマホを使えばいい。お金は、商品だけでなく、利便性とサービスにも払っているのだと主張した。


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▲Bingoboxの紹介ビデオ。顔認証で、他人のアカウントで入店した者を見分けるなど、技術は洗練されている。

 

商品の種類が少ない

第2の理由は、無人コンビニなのに、商品の価格が少しも安くないこと。第3の理由は商品の品揃えが少ないこと。コンテナ型無人コンビニは店舗面積が小さいために、特定の商品しか置けない。知らない商品に出会うこともなければ、必要な商品すら置いてないことがある。

第4の理由は、安全性の問題だ。ドアをスマホで解錠して中に入ると、自動的にロックがかかり、精算をしないと解錠されない。商品の安全は守られるかもしれないが、万が一、火事でも起きたとしたら、人の安全はどうやって守られるのかと主張する。

第5の理由は、顧客体験が悪いこと。スマホでドアを開け、買い物中は監視カメラで撮影され、精算しないと外に出られない。防犯のための措置が厳しすぎて、お客様ではなく、犯罪を犯す可能性のある人間だと思われているかのように感じてしまう。

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▲店内の様子。棚の奥行きがなく、商品の種類にも限りがある。

 

多くの人が「利用しない理由」に賛同

この5つの理由のうち、多くのネットワーカーが賛同しているのが、何度もスマホでスキャンをしなければならず、煩わしいということと、商品の種類が少なすぎるというものだ。

この無人コンビニは、マンションの敷地内に設置されたが、誰でも利用できる場所にあった。そのため、マンションの住人から「共有部分に設置をしているが、住人に説明がなかった」という苦情があがり、別の場所に移動することになったようだ。

ただ、ネットワーカーの発言によると、人は少なく、売上は上がっていなかったのではないかという。

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▲店内には防犯カメラが設置され、顧客の状況はモニタリングされている。

 

無人コンビニならではの立地が見つけられるか

無人コンビニは、最初は物珍しくて、一度は行ってみるかもしれないが、それ以降は有人コンビニと比べて、優れたところがなければ、足が向かなくなってしまう。

無人コンビニは、コンビニと競合するような立地に出店をしたら負けてしまう。コンビニと比べられて、この投稿者のように、劣っている部分ばかりが意識されてしまうからだ。

無人コンビニは、大きな自動販売機や、24時間営業できるキヨスク売店と考え、そのような立地に出店すべきなのだ。例えば、乗降客の多くない地下鉄出口付近やガソリンスタンド、オフィスビルの中などだ。そうすれば、自動販売機よりも商品の種類が多く、キヨスク売店よりも24時間いつでも買えるというメリットが活きてくるようになる。

無人コンビニは、淘汰整理の時期を迎えているが、居場所は必ずあるはずだ。

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利便性の陰で、解決策が見えない「シェアリング自転車の墓場」

メディアでたびたび報道される「シェアリング自転車の墓場」。違法駐輪自転車を行政が回収したもので、原則、運営企業が引き取りをしなければならない。しかし、その費用が膨大すぎて、一向に処理が進まない。いったい、いくらぐらいの費用がかかるのか。好奇心日報が試算した。

 

自転車の墓場の処理費用はいったいいくらかかるのか?

シェアリング自転車が市民生活に定着する一方で、「シェアリング自転車の墓場」の写真や映像が、昨年からメディアでたびたび紹介されている。大量の自転車が打ち捨てられた場所で、その数は数万台規模だ。

これは、地方政府が、市民からの苦情を受けて回収した違法駐輪自転車。原則として、運営企業が引き取りをしなければならないが、激しいシェアリング自転車ビジネスの競争の中で倒産した企業もあり、引き取り手がない自転車も多い。

この違法駐輪自転車の山を処理するのに、いったいいくらぐらいの費用がかかるのか。好奇心日報は、シェアリング自転車大手であるofoとMobikeに取材を申し込んだが拒否された。そこで、公開情報を使って、試算をしてみることにした。


Over 10,000 confiscated shared bikes piled up like a mountain in east China

安徽省合肥市で撮影された自転車の墓場。1万台が保管されているという。

 

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上海市海寧路にある自転車の墓場。このような墓場が各都市に残されてままになっている。

 

1台あたり、行政は9.6元、運営企業は53.3元の負担

昨年7月、杭州市の都市管理委員がシェアリング自転車各社と協議をした席で、2.3万台の違法駐輪自転車の回収に22万元(約380万円)以上がかかったと話している。つまり、1台あたり9.6元の回収費用がかかるということだ。

一方で、引き取りをしなければならないシェアリング自転車企業の負担はどのくらいか。都市によって額は異なるが、違法駐輪は1台50元から100元の罰金を持ち主から徴収することになっている。この罰金を支払ってもらえば、そこから、行政は回収費用を賄うことができる。

また、行政が回収、保管をする際に、自転車が破損をすることがある。引き取りをしたシェアリング自転車企業は、市場に再投入する前に、点検と修理を行わなければならない。この作業は、好奇心日報の調べによると、1人の作業員が1日で30台から60台の自転車を点検、整備できる。作業員が週休1日で、月の報酬が5000元だとすると、1台あたりの点検、整備に必要な額は3.3元から6.7元ということになる。

 

罰金を払うよりは、新しい自転車を投入したい

つまり、行政は1台あたり9.6元の費用負担をし、シェアリング自転車企業は1台あたり最低でも53.3元程度の負担をしなければならないことになる。

これが問題になっている。揚子晩報の取材に、南京市の都市管理局職員が応えている。「南京市の規定では罰金は1台50元です。いくつかの企業は、すでに引取りの準備を進めていたのですが、罰金の額を通知すると、どの企業も音沙汰がなくなってしまいました」。

ofoは、自転車の製造を天津飛鴿に委託をしているが、効率的な生産が行われていて、15秒で1台生産できるという。Mobikeもフォクスコンと提携をし、生産能力は年に1000万台だと発表している。

1台の製造コストは数百元だが、それでも53.3元の負担をして古い自転車を引き取り、点検修理をして市場に再投入するよりも、新型の新車を製造して市場に投入したほうがいいと考えてしまうのかもしれない。

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過剰な自転車は主要都市だけで360万台

最大の問題は、その数だ。交通部の統計によると、昨年9月時点で、主要都市の北京では235万台、上海では150万台、深圳では89万台、広州では80万台が投入されている。

しかし、これは明らかに多すぎるのだ。各研究機関によると、最適なシェアリング自転車の台数は、人口50人に1台というのが目安になっていて、この計算でいくと、北京市はわずか43.4万台が適切な車両数ということになる。今、235万台が投入されているのだから、191.6万台が過剰ということになる。この過剰である191.6万台は、いずれ自転車の墓場に行く可能性がある。

同様に、他の都市も合算してみると、主要都市だけで、過剰な自転車数は360.7万台ということになる。

各行政は、この360.7万台の回収費用に、3500万元(約6億円)が必要で、運営企業は、この過剰な自転車を処理するのに、1台53.3元として、1億9000万元(約33億円)の費用が必要になる。

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▲赤い丸が実際の投入車両数。黄色い丸が最適な車両数。最適車両数は、人口50人に1台だと言われている。

 

解決策が見えてこない自転車の墓場問題

過剰に自転車が投入されてしまうのは、競争があるからだ。どの企業も、1社で市民の需要を満たす台数を投入したいと考える。各社ともそう考えるので、結果として過剰な台数が市場に投入されてしまう。

もちろん、過剰分すべてが違法駐輪自転車になるわけではないが、いずれにせよ、相当な費用を準備しておく必要がある。

また、すでに倒産してしまった企業のシェアリング自転車は引き取り手がないのだから、行政側で処理をしなければならない。この費用も必要だ。

すでに主要都市では、新車の投入を禁じていて、これ以上の過剰自転車を産まないように、そして、回収した自転車の再利用を促すようにしているが、自転車の墓場の処理の問題は一向に前に進まない。最終的には、罰金を減免して、行政が支出した実費をシェアリング企業側が負担をするというところで折り合うしかないが、ofoやMobikeからしてみれば、なぜ他企業の分まで負担しなければならないのかということもあるだろう。

シェアリング自転車は、間違いなく市民から歓迎され、短距離移動の「最後の1km」を補う交通機関として定着している。しかし、その陰で、解決の難しい問題が積み残されたままになっている。

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入れるだけでお金が増えるスマホ決済「アリペイ」の秘密(下)

QRコード方式スマホ決済「アリペイ」は、どこでもキャッシュレス決済ができるという利便性だけでなく、入れておくだけで年利4%以上でお金が増えていく余額宝(ユアバオ)という仕組みにも人気がある。なぜ、お金を入れておくだけで増えていくのか。その仕組みを南方週末が解説した。

 

お金が勝手に増えていくおサイフ「アリペイ」

中国ですでに決済手段の主役になっているQRコードスマホ決済「アリペイ」。どこでも使える利便性がその魅力だが、もうひとつの魅力が余額宝だ。これはお金を入れておくだけで、年利4%以上で増えていく。実体はMMF投資信託なのだが、1元単位でいつでも解約可能、即入金という手軽さで、もはや投資信託商品を買っているという意識は消え、「おサイフの奥のポケット」ぐらいの感覚になっている。入出金の操作もアリペイアプリの中から簡単に行え、これがアリペイを「お金を入れておくだけで勝手に増えていくおサイフ」にしている。銀行の普通預金口座の利息は年0.3%程度なので、アリペイ利用者のほとんどが余額宝を利用している。

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▲アリペイアプリの画面。白地右上のアイコン「Yu’E Bao」が余額宝。アリペイアプリのトップページにあり、タップすれば余額宝へのお金に出し入れができる。投資信託商品だが、おサイフの奥のポケットぐらいの感覚だ。


MMFのまとめ買いで最高利回り6.7%

この余額宝の銀行口座の10倍以上という高利回りの秘密は、「MMFのまとめ買い」だ。個人で少額のMMFを買う場合と、投資機関が大量の資金でMMFを買うときの、利回り条件はまったく違ってくる。大量購入するのであれば、交渉次第で高利回りの条件を設定することができる。

1人で洗剤を1個買うときは定価になるが、1000人で1000個の洗剤をまとめ買いすれば大幅割引できるのと同じ理屈だ。銀行にすれば、大量の少額口座を管理しなければならないコストと、1つの高額口座だけを管理するコストはまったく違う。当然、高額の顧客には有利な条件を提示できる。

つまり、余額宝は、大量の利用者のお金をまとめて、銀行で高利回りのMMFを購入し運用する。運用成績が、例えば7%だとしたら、そこから運営会社である天弘基金の経費と利益(エンジニアだけで200人のチームが必要)を引いて、残りの4%程度を利用者に還元する。過去には最高で6.7%の利回りを実現したこともある。

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▲余額宝の仕組みが一目でわかる図。顧客のお金をまとめて、大量の資金で銀行のMMFを購入する。「MMFのまとめ買い」に秘密がある。

 

世界最大の投資信託商品「余額宝」

このような仕組みで、余額宝はアリペイになくてはならない機能になっていった。半年足らずで、余額宝は中国で初めて1000億元(約1兆7000億円)を突破する投資信託となった。そして、2017年4月には世界で最も巨大な投資信託になった。利用者数は4.74億人。アリペイユーザーが5億人だから、ほとんどのアリペイユーザーが利用している。中国人の3人に1人以上が余額宝を利用している計算になる

余額宝の成功を見て、すぐにライバルも登場する。余額宝と同じように、スマホから購入できる投資信託が増え、銀行は銀行で投資信託の営業を強化する。現在では、MMFが394商品もあり、その残高合計は8兆元(約140兆円)に届こうとしている。

余額宝が始まった2013年から比べると、市場公募債の残高は、3兆元(約52兆円)から12兆元(約210兆円)に増えている。しかも、その中でMMFの割合は25%から61%に増加しているのだ。

 

普通預金が枯渇して、資金調達に苦しむ銀行

余額宝の成功は、銀行から見ると当然面白くない。MMFを運用しているのは自分たちなのに、余額宝に利益をごっそりと持っていかれる。

それだけでなく、銀行そのものの体質も厳しくなっていった。銀行のビジネスモデルは金貸しだ。お金を仕入れて、それを貸し付け、多めに返済してもらうことで利益を出す。この「お金を仕入れる」部分で、普通預金の存在が大きかった。なぜなら、わずか0.3%の利息というほとんどタダ同然で仕入れることができたのだ。その代わり、銀行引き落としや振り込み、デビットカードなどの機能をつけて、預金者サービスを提供していた。

しかし、アリペイと余額宝が登場すると、誰もが銀行普通預金よりも、アリペイと余額宝を選ぶようになる。支払いはできるし、お金の送金もできる。機能は普通預金以上。ATM引き出し手数料もない。それでいて、利息は10倍なのだ。

余額宝の残高が膨らむにつれ、銀行はタダ同然でお金を仕入れることができる普通預金を失っていった。仕入れに高いコストがかかるようになり始めた。

アリババのジャック・マー会長は、アリペイのキャッシュレス決済を始めるときに「銀行がみずから変わろうとしないのであれば、私たちが変えてみせる」と宣言をして、世間から嘲笑された。しかし、まさに銀行は変わらなければ倒れてしまいかねないところまで追い込まれてきたのだ。

 

規制と監督の外にいた余額宝

銀行の立場で見ると、不公平に感じるところも多かった。銀行は消費者に投資信託商品を販売するときに、対面をして丁寧な契約をしなければならなかった。重要事項をひとつひとつ説明をして、消費者の同意を確認し、そのプロセスをすべて録音、録画して保存することも義務付けられていた。その他、銀行はなにをやるにしても、中央銀行や政府機関の厳格な監督を受けなければならない。しかし、余額宝は新興の投資信託であり、このような規制や監督の外にいて、自由にビジネスができていた。

銀行からすれば、せめて同じルールでやってほしいと思うのは自然だし、預金者保護の観点からも正論だった。

2014年になると、余額宝のMMFを引き受けないと宣言する銀行が現れ始めた。さらに、中央銀行や政府機関も、銀行と余額宝は不公平な競争をしていて、これを正す必要があると、銀行に対する規制緩和と余額宝に対する規制を始めた。最終的には、両者とも同じルールに統合をしていくことになる。

 

余額宝の規制が始まった

2017年になると、余額宝の残高は、大手銀行一行の普通口座、定期預金の残高よりも大きくなっていた。残高が増えていくと、それだけ規制や監督に対応するためのコストが等比級数的に膨らんでいく。余額宝は、最もコストが最小化でき、利益を最大化できるスイートスポットの残高を超えてしまったと判断をした。

そこから限度額規制が始まっていく。1人が購入できる余額宝の額が25万元(約430万円)に制限され、さらに10万元(約170万円)に制限され、さらに1日に購入できる限度額を2万元(約35万円)に制限をした。

それでも余額宝に対するニーズは強く、今年の2月からは総量規制まで始めた。毎日売り出す余額宝の総額を決めて、売り切れたら買えなくなるようにしたのだ。売り出しは毎日朝9時で、だいたい9時半には売り切れている状況だったという。

この規制は、利用者から多くの不満の声があがり、5月になって解除され、24時間いつでも、自分の限度額範囲内で余額宝を購入できるようになった。さらに、5月中旬になって、今度は一気に限度額がすべて撤廃されているようだ。

今後は、このような限度額の緩和と規制を繰り返しながら、残高規模を調整していくことになるのだと思われる。

 

規模のコントロールが最大テーマ

銀行は、ジャック・マーの宣言通り、大きく変わった。消費者目線のサービスを導入し、銀行系のキャッシュレス決済である銀聯ユニオンペイ)も、すでにQRコードスマホ決済を始めている。上目線だった銀行員はいなくなり、預金者をお客様として考える空気が出てきている。

余額宝の現在の最大のテーマは、規模のコントロールだ。ダイエットをする中年のように、自分の残高を増やすでもなく減らすでもなく、ベスト体重をいかに維持をしていくか。少しでも増やしてしまうと、コストとリスクが急速に上昇する。少しでも減らしてしまうと、利益が急速に縮小していく。極めて舵取りが難しい局面を迎えている。

 

安全そうに見えて、実は危ない「灰色のサイ」

南方週末は「灰色のサイ」という言葉を使って表現をしている。草原にいるサイはおとなしく安全そうに見えるが、いざ何かがあると突進してきて、野生動物の中でいちばん危険な存在なのだそうだ。そこから、金融関係者は「一見安全そうに見えるが、実は大きなリスクを抱えている」状況を灰色のサイと表現するという。

急成長してきた余額宝、余額宝とQRコード決済の両輪で成長してきたアリペイ、いずれも難しい局面を迎えている。今後、どちらの方向に成長空間を定めていくのか。成長を止めた瞬間に死亡してしまう中国で、余額宝は重要な時期にきている。

 

入れるだけでお金が増えるスマホ決済「アリペイ」の秘密(上)

QRコード方式スマホ決済「アリペイ」は、どこでもキャッシュレス決済ができるという利便性だけでなく、入れておくだけで年利4%以上でお金が増えていく余額宝(ユアバオ)という仕組みにも人気がある。なぜ、お金を入れておくだけで増えていくのか。その仕組みを南方週末が解説した。

 

おサイフのポケット感覚の余額宝

中国アリババが運営するQRコードスマホ決済「アリペイ」。都市部であればほぼ100%に近い店舗でキャッシュレス決済ができることから、もはや現金を持ち歩かない人が増え、スマホが現代の「おサイフ」になっている。

この利便性とともに、もうひとつ人気の理由が余額宝だ。入れておくだけで、年利4%以上で増えていくという投資信託商品で、しかも解約は1元単位で随時可能、即入金。もはや投資信託という感覚はなく、単なる「おサイフの奥のポケット」ぐらいの感覚。給料が出たら、それを丸ごと余額宝に入れてしまい、必要な分を引き出して使うという人も多い。もちろん、このような操作はすべてアリペイアプリの中で行える。

 

余額宝の高利回りの秘密は、MMFのまとめ買い

銀行の普通預金口座の利息は0.3%程度だ。余額宝は普通預金と同じように出し入れができて4%以上の利息がつく。余額宝は投資信託商品なので利回りは変動する。最高で6.7%に達したこともある。しかも、投資信託にありがちな手数料も取られない。これは誰だって、銀行の普通預金に入れるよりは、余額宝に入れたくなるだろう。

この余額宝の仕組みは、簡単に言えば「MMFのまとめ買い」だ。個人が1万円でMMFを買うときの利回りと、お金持ちが10億円でMMFを買うときの利回りは当然違う。余額宝は個人から小口の資金を集めて、まとめて銀行で有利な利回りでMMFを購入する。ここから、運営会社の経費や利益を引いて、残りの4%を消費者に還元しているという仕組みだ。

洗剤を1人で1個買ったら定価だけど、1000人集めて1000個まとめ買いすれば大幅割引されるというのと同じ発想だ。

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▲余額宝の仕組みが一目でわかる図。顧客のお金をまとめて、大量の資金で銀行のMMFを購入する。個人で買う場合よりも、利回り条件が格段に高くなる。

 

ダメな企業のダメな人が生み出した余額宝

この余額宝は、アリババが運営しているのではなく、天弘基金という証券会社が運営をしている。

2011年の頃の天弘基金はダメな企業だった。預かり金総額は7.16億元(約120億円)でしかなく、2年連続で赤字が続いていた。そこに副総経理としてくることになった周暁明氏もダメな人だった。大学卒業後、中国証券市場デザイン研究センターに入所以後、証券会社の役員を歴任するエリートだったが、その後独立して、投資会社を運営するが失敗。この当時は、自宅で仕事もせずぶらぶらしていた。

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▲天弘基金の周暁明氏。優秀な人だったが、失敗も多く、遅咲きの人。余額宝が成功してからは、金融界のシンデレラとも呼ばれる。幼い頃は苦労をして、王子様に見初められてから人生が急に開けたという意味合いだ。

 

誰でも気軽に買える投資信託をつくりたい

そのダメな人が、ダメな会社である天弘基金に誘われた。しかし、周暁明氏には大きな秘策があった。

消費者が国債ファンドやMMFなどの投資信託商品を購入するには、中国の場合は、銀行にいくのが一般的だ。その窓口で、説明を受け、申込書に記入をして、購入する。しかし、手間がかかった。たくさんの書類に記入をしなければならなず、銀行はたくさんの重要事項を説明しなければならなかった。しかも、そのやりとりは、録音、録画され、証拠として保存しなければならない。さらに、MMFの場合でも投資金額は5万元(約90万円)から。とても、普通の人は買おうとは思わない。

周暁明氏は、この煩雑なやり取りを簡単なものにして、普通の人が気軽に購入できる投資信託をやってみたかった。

 

タオバオにネット証券を開くも大失敗

天弘基金に入社することが決まって、具体的に何をやるか考え始めていた2011年8月頃、昔の知り合いの祖国明氏が声をかけてきた。彼は現在、ECサイトタオバオ」にいて、投資信託の店舗をタオバオ上で開く準備をしているので、天弘基金も出店しないかと言ってきたのだ。

周暁明氏はすぐに応じた。ネットで証券会社を開けば、煩雑な手続きが簡素化される。消費者も荘厳な銀行のインテリアに気後れすることなく、自宅のカウチでパソコンやスマホを使って、投資信託商品を気軽に購入することができる。

周暁明氏は、天弘基金に特命チームを作って、タオバオ出店のプロジェクトを進めた。しかし、結果は大失敗だった。タオバオ側の証券会社出店の準備が遅れたこともあったが、そもそも、名前も知らないネット証券会社など、怖くて誰も信用しないのだ。

 

だったら、おサイフの中に証券会社を作っちゃえ!

しかも、銀行と比べてどうしても乗り越えられない心理的な障壁があった。それはタオバオのネット証券で投資信託を買ったら、銀行預金から相当の額をネット証券会社に振り込まなければならない。これは心理的にものすごく不安になる。銀行預金はその分、減ってしまうからだ。

ところが、銀行で投資信託を買う場合、同じ銀行の預金から移すだけ。銀行の外には出ない。どちらでも同じことなのだが、同じ銀行の中に自分のお金があるという安心感は大きい。

2011年11月頃から、アリババのアリペイはタオバオの外に出て、キャッシュレス決済ツールとして使われ始めていた。スマホをおサイフとして使えるサービスだった。

周暁明氏は、アリペイが成長していく様子を横目で見ながら、どうしたら「誰でも気軽に買える投資信託商品」が実現できるかを考え続けていた。

そこで思い至ったのが、アリペイの中に出店できないかということだった。つまり、おサイフの中に証券会社を作ってしまおうという発想だった。これだったら、心理的な不安も軽減され、気軽に投資信託商品を購入することができる。

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▲アリペイアプリの画面。白地右上のアイコン「Yu’E Bao」が余額宝。アリペイアプリのトップページにあり、タップすれば余額宝へお金が出し入れができる。投資信託商品だが、おサイフの奥のポケットぐらいの感覚だ。

 

MMFのまとめ買いというシンプルな商品設計

アリペイというおサイフの中に証券会社を作ってしまい、投資信託商品を売る。発想は大胆でシンプルだったが、実際の商品設計は簡単ではなかった。周暁明氏のチームは10以上もの商品設計を検討し、1年近く時間をかけて検討を重ねていった。

そして、2012年12月、いよいよアリペイの経営陣に自分たちの投資信託商品「余額宝」をプレゼンする日がやってきた。

このときには、余額宝はとてもシンプルな設計に洗練されていた。消費者が簡単に入出金できるようにするために、MMF(マネーマネージメントファンド、ローリスクローリターンだが換金性が高い)を中心にし、これを銀行でまとめ買いをする。

プレゼンでは、アリペイ側から「5分で終えてくれ」と言われていた。しかし、周暁明氏の説明は1分で終わってしまったという伝説がある。「MMFのまとめ買いをします」の一言で、アリペイの経営陣もすべてを理解したのだ。

こうして、2013年6月から、アリペイ内で余額宝のサービスが始まった。余額宝を使いたいからアリペイを使う人が増え、アリペイを使う人が増えるから余額宝を使う人が増えるという好循環が始まった。

 

立ちふさがる銀行、中央銀行、政府機関

しかし、この余額宝は、銀行の利益を奪ってしまっている。銀行は余額宝と同じように預金者から小口の資金を集めて、債券などに投資をするというMMFを運用している。余額宝は、小口資金を集めるという作業はやってくれているものの、そこから生まれる利益の大半を持っていってしまう。当然、銀行側もなんらかの反撃をしてくることになる。

大成功した余額宝も、次第に中央銀行と政府機関の規制に苦しめられていくことになる。次回、後半で、銀行vs余額宝の戦いをご紹介する。

 

 

ボーナス1200万円でも不満。アリババ社員の投稿がネットで話題に

あるアリババのエンジニアが匿名で、ネットに、年度末ボーナスが70万元(約1200万円)だったが不満だと投稿して、多くのネットワーカーが羨ましがったり、驚いたりしていると新浪が報じた。

 

月給55万円、ボーナス1200万円でも不満

問題になった投稿は、「ボーナス7ヶ月分、ベースアップ20%、株式は500株だった」というもの。「ベースアップは納得するものの、株式は昨年の半分になってしまい、失望した」と発言している。

ネットワーカーたちは、ご丁寧にもこの匿名発言者のボーナス額を計算している。匿名発言者が別の発言で、毎月の給与が3万2000元(約55万円)だと述べているので、7ヶ月分のボーナスは23万元ほどになる。さらに、500株の株式をもらえるので、アリババの株価は1000元程度だから、これで50万元。すべて加えると73万元(約1260万円)になる。

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▲アリババのエンジニアが匿名で発言した内容。ボーナスが1200万円相当だったのに、失望したと述べている。

 

アリババの給与は階級と勤務評定で決まる

この発言者は、P7という社内階級にあると発言している。アリババのエンジニアは、P4からP14までの階級があり、P4からP6までが一般エンジニア、P7からP9までがスペシャリスト、それ以上が研究員となっている。

ネットに流出している待遇一覧では、P7は年棒が30万元から50万元、株が4年間で2400株となっている。

この発言者は、年棒38万4000元、今年からは20%増えて46万元となり、支給される株も今年の500株を基準にしても、4年間で2000株。昨年は1000株以上をもらっていたのだから、この待遇一覧ときれいに一致する。

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▲ネットに流出しているアリババの待遇一覧。これによると、不満の二人の報酬もこの表の範囲内に収まっている。

 

ネットでは羨望、驚きの声

この発言に対して、ネットの反応はさまざまだ。年棒800万円、ボーナス1200万円で、それでも不満なのかと驚く声もある。自分もアリババ社員だと言う人は、標準的な報酬じゃないか、どこが不満なのだと首をかしげる。また、アリババは採用人員を絞り始めているので、報酬が以前ほど上がらなくなるのも仕方がないのでは?と言う声もある。 

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アリババという企業は成熟期に入るのか?

また、別のアリババのエンジニアが、P6の地位にいるが、4年間毎年ベースアップ率が12%以下で、株式ももらえない。新しく入ってきた同じP6のエンジニアは、自分よりも6000元も給与が多い。これが嫌なら辞職するしかないのだろうか?と発言している。こちらもネットに流出している待遇一覧の範囲内に収まっているので、法外に冷遇されているということでもない。

この二人の言いたいことは、「こんなに頑張ったのに」「勤務評定も悪くないのに」思ったほど報酬が増えなかったということなのだろう。

こういう声が少数だとは言え、ネットで見られるようになるということは、アリババも成長期を終えて、成熟期に入ろうとしていることなのかもしれない。外から見ている限り、「仕事はつらいけど、やりがいのある企業」に見えるが、社内の空気は微妙に変わりつつあるのかもしれない。

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▲別のアリババエンジニアも不満を述べている。給与の上昇幅が4年も12%以下であることと、新しく入ってきた同じ階級の社員の方が給与が多いことに不満を述べている。

ラキュー (LaQ) ボーナスセット 2017

ラキュー (LaQ) ボーナスセット 2017

 

 

 

タオバオ15周年で、中年の危機に

5月10日で、アリババのECサイトタオバオ」が15周年を迎えた。しかし、アリババはこれといったお祝いごともせず、ひっそりとした誕生日になった。開設から15年、中国のEコマースを変えてきたタオバオにも曲がり角がきていると新芽が報じた。

 

タオバオが変えてきた中国のECビジネス

ECサイトタオバオ」がスタートしたのは、2003年5月10日。アリババは、電子部品などのBtoBマッチングサイト「Alibaba.com」で急成長をし、そのノウハウを活かして、CtoC商品取引サイト「タオバオ」をスタートした。

当初は、企業でも個人でも緩い審査で出店することができるBtoCとCtoCを兼ねあわせたようなサイトだった。「タオバオ」とは中国語で、宝探し、宝掘りといった意味。大量の商品の中から、安くて質のいい掘り出し物を見つけることが面白く、ゲーム感覚で買い物ができると、多くの中国人を夢中にさせた。


[ENG SUB] 淘宝开箱(上)3000块RMB买了好多好多....l 首饰 l 零食 l 家居装饰品 l 收纳

動画共有サイトには「タオバオアンボックス」という動画が無数に投稿される。タオバオでまとめ買いをした箱を開けるところを動画にしたものだ。何が出てくるかわからない。そんな福袋的な買い方が楽しまれている。

tamakino.hatenablog.com

 

アリババECサイトは62%の伸び

アリババの2017年度第四四半期(2018年の1月から3月)の財務報告書によると、アリババの総収入は619.32億元(約1兆円)で昨年同時期の61%増となった。その中で、ECサイト事業は512.87億元(約8800億円)で、昨年同時期の62%増となっている。

また、ECサイトの流通総額は45%増で、特に服飾品、日用消費財(飲料、食品、化粧品など)、家電製品、電子製品などが好調だった。

しかし、アリババは、運営する2つのECサイト「Tmall」「タオバオ」個別の流通総額は公開していない。

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▲Tmallのサイト。出店できるのは業者のみ。いわゆる正統的なECサイトだ。11月11日の独身の日セールで、会員数と売上を倍増させるように成長してきた。

 

偽物出品を防ぐために生まれたアリペイとTmall

当初、タオバオが悩まされたのは、偽物商品や詐欺出品だった。この問題を解決するために、タオバオ内で使えるサイト内通貨を導入した。出品者に問題があった場合は、サイト内通貨の口座を凍結することで、偽物商品や詐欺の出品を防ごうとしたのだ。これが後に、サイト外の実体店舗でも使えるようになり、アリペイとなっていく。

もうひとつがBtoCとCtoCを分離したことだ。サイト内に「タオバオ商城」を作り、ここに出店できるのは、原則企業のみにして、消費者が安心をして買い物ができるようにした。

2009年から、11月11日の独身の日セールを始め、これが大当たりをし、タオバオ商城が急成長をしていく。そして、2012年、タオバオ商城を「Tmall」と改名し、別サイトにして完全分離をした。

また、タオバオに出店している個人業者も、Tmall小店として順次Tmallに移動させていった。

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タオバオのサイト。現在は、個人間取引サイトになっている。品質やサービスの点では不安も残るが、その代わり低価格で購入できたり、普通のECサイトでは手に入らないものが手に入る。

 

成長の鈍化が明らかになったタオバオ

外部の調査機関の観測によると、Tmallとタオバオの売上の比率は、Tmall45%、タオバオ55%程度で、まだまだタオバオの方が多い。しかし、問題は伸び率で、ECサイト全体の流通総額が45%も伸びているのに、タオバオの伸び率はわずか18%だと推定されている。

タオバオとTmallの歴史を考えれば、Tmallがタオバオのマーケットを食べて成長しているというカニバリズムの関係になっているので、タオバオの成長が頭打ちになるのは仕方のないことだし、アリババもそこは当然織り込み済みのはずだ。

 

地方都市で大ブレイクしている拼多多

しかし、想定内だと安穏とはしていられない状況が生まれてきている。新興のECサービス「拼多多」(ビンドードー、たくさん寄せ集めるの意味)の成長だ。

拼多多は、SNS「WeChat」を利用し、知り合いあるいは募集をして、多人数でまとめ買いをするサービス。日用品が低価格で購入できることから、地方都市の低所得者層を中心に大ブレイクしている。

現在、毎月の流通総額は400億元(約6900億円)とも言われ、それが正しければ、タオバオの半年分にもあたることになる。

タオバオは大都市から普及をし、地方都市に波及をしていっていた。しかし、地方都市での普及の途上で、拼多多という伏兵に、地方都市市場をさらわれてしまった。現在のタオバオは「成長の鈍化」で収まっているが、拼多多が大都市へ波及するようになると、タオバオも「成長の鈍化」では収まらず、「衰退」を始める危険性がある。

タオバオも、さまざまなセールや優待施策で対抗しているが、今のところ、これといった反撃ができないままでいるようだ。

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▲地方都市を中心に大ブレイクしている拼多多。同じ商品を買う人をSNSで集め、まとめ買いをすることで、驚くほどの低価格で商品を購入することができる。

 

タオバオは寿命が終わったのか、それとも第二の人生があるのか

タオバオは、アリペイを生み出し、Tmallを生み出したことで、歴史の役割を終わったと見る向きもある。一方で、むしろ今からこそCtoCの取引が盛り上がるのだから、タオバオはまだまだやれることがあり、成長空間はたっぷりと残されていると見る向きもある。

アリババが今後どのような戦略を打ち出してくるかはわからないが、タオバオは中年の危機を迎えていて、第二の人生を考えなければならない時期にきていることは確かだ。