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利便性の陰で、解決策が見えない「シェアリング自転車の墓場」

メディアでたびたび報道される「シェアリング自転車の墓場」。違法駐輪自転車を行政が回収したもので、原則、運営企業が引き取りをしなければならない。しかし、その費用が膨大すぎて、一向に処理が進まない。いったい、いくらぐらいの費用がかかるのか。好奇心日報が試算した。

 

自転車の墓場の処理費用はいったいいくらかかるのか?

シェアリング自転車が市民生活に定着する一方で、「シェアリング自転車の墓場」の写真や映像が、昨年からメディアでたびたび紹介されている。大量の自転車が打ち捨てられた場所で、その数は数万台規模だ。

これは、地方政府が、市民からの苦情を受けて回収した違法駐輪自転車。原則として、運営企業が引き取りをしなければならないが、激しいシェアリング自転車ビジネスの競争の中で倒産した企業もあり、引き取り手がない自転車も多い。

この違法駐輪自転車の山を処理するのに、いったいいくらぐらいの費用がかかるのか。好奇心日報は、シェアリング自転車大手であるofoとMobikeに取材を申し込んだが拒否された。そこで、公開情報を使って、試算をしてみることにした。


Over 10,000 confiscated shared bikes piled up like a mountain in east China

安徽省合肥市で撮影された自転車の墓場。1万台が保管されているという。

 

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上海市海寧路にある自転車の墓場。このような墓場が各都市に残されてままになっている。

 

1台あたり、行政は9.6元、運営企業は53.3元の負担

昨年7月、杭州市の都市管理委員がシェアリング自転車各社と協議をした席で、2.3万台の違法駐輪自転車の回収に22万元(約380万円)以上がかかったと話している。つまり、1台あたり9.6元の回収費用がかかるということだ。

一方で、引き取りをしなければならないシェアリング自転車企業の負担はどのくらいか。都市によって額は異なるが、違法駐輪は1台50元から100元の罰金を持ち主から徴収することになっている。この罰金を支払ってもらえば、そこから、行政は回収費用を賄うことができる。

また、行政が回収、保管をする際に、自転車が破損をすることがある。引き取りをしたシェアリング自転車企業は、市場に再投入する前に、点検と修理を行わなければならない。この作業は、好奇心日報の調べによると、1人の作業員が1日で30台から60台の自転車を点検、整備できる。作業員が週休1日で、月の報酬が5000元だとすると、1台あたりの点検、整備に必要な額は3.3元から6.7元ということになる。

 

罰金を払うよりは、新しい自転車を投入したい

つまり、行政は1台あたり9.6元の費用負担をし、シェアリング自転車企業は1台あたり最低でも53.3元程度の負担をしなければならないことになる。

これが問題になっている。揚子晩報の取材に、南京市の都市管理局職員が応えている。「南京市の規定では罰金は1台50元です。いくつかの企業は、すでに引取りの準備を進めていたのですが、罰金の額を通知すると、どの企業も音沙汰がなくなってしまいました」。

ofoは、自転車の製造を天津飛鴿に委託をしているが、効率的な生産が行われていて、15秒で1台生産できるという。Mobikeもフォクスコンと提携をし、生産能力は年に1000万台だと発表している。

1台の製造コストは数百元だが、それでも53.3元の負担をして古い自転車を引き取り、点検修理をして市場に再投入するよりも、新型の新車を製造して市場に投入したほうがいいと考えてしまうのかもしれない。

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過剰な自転車は主要都市だけで360万台

最大の問題は、その数だ。交通部の統計によると、昨年9月時点で、主要都市の北京では235万台、上海では150万台、深圳では89万台、広州では80万台が投入されている。

しかし、これは明らかに多すぎるのだ。各研究機関によると、最適なシェアリング自転車の台数は、人口50人に1台というのが目安になっていて、この計算でいくと、北京市はわずか43.4万台が適切な車両数ということになる。今、235万台が投入されているのだから、191.6万台が過剰ということになる。この過剰である191.6万台は、いずれ自転車の墓場に行く可能性がある。

同様に、他の都市も合算してみると、主要都市だけで、過剰な自転車数は360.7万台ということになる。

各行政は、この360.7万台の回収費用に、3500万元(約6億円)が必要で、運営企業は、この過剰な自転車を処理するのに、1台53.3元として、1億9000万元(約33億円)の費用が必要になる。

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▲赤い丸が実際の投入車両数。黄色い丸が最適な車両数。最適車両数は、人口50人に1台だと言われている。

 

解決策が見えてこない自転車の墓場問題

過剰に自転車が投入されてしまうのは、競争があるからだ。どの企業も、1社で市民の需要を満たす台数を投入したいと考える。各社ともそう考えるので、結果として過剰な台数が市場に投入されてしまう。

もちろん、過剰分すべてが違法駐輪自転車になるわけではないが、いずれにせよ、相当な費用を準備しておく必要がある。

また、すでに倒産してしまった企業のシェアリング自転車は引き取り手がないのだから、行政側で処理をしなければならない。この費用も必要だ。

すでに主要都市では、新車の投入を禁じていて、これ以上の過剰自転車を産まないように、そして、回収した自転車の再利用を促すようにしているが、自転車の墓場の処理の問題は一向に前に進まない。最終的には、罰金を減免して、行政が支出した実費をシェアリング企業側が負担をするというところで折り合うしかないが、ofoやMobikeからしてみれば、なぜ他企業の分まで負担しなければならないのかということもあるだろう。

シェアリング自転車は、間違いなく市民から歓迎され、短距離移動の「最後の1km」を補う交通機関として定着している。しかし、その陰で、解決の難しい問題が積み残されたままになっている。

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