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コロナ禍で日のあたる場所に出てきた屋台経済。屋台はどのくらい設けているのか?

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今回は、今回は、屋台に関する地攤経済(屋台経済)についてご紹介します。

 

地攤(ディータン)とは屋台のことです。「vol.187:若年失業率21.3%の衝撃。副業に走る若者たちはどのくらい稼げているのか?」で、若年失業率が21.3%になったことをめぐる、国家統計局と経済評論家たちの論争についてお伝えしました。

ポイントを復習しておくと、

・若年失業率(調査失業率)は、調査方法が、多くの国の失業率とは異なっている。

・一般的な失業率は「仕事を探しているのに見つからない人の割合」だが、調査失業率は「調査時点に仕事をしていない人の割合」であり、7月期には大学進学予定者を失業者としてカウントしてしまう。

・雇用状況を見る指標ではなく、労働力の余力を見るための指標

というものでした。

しかし、なぜか、日本では「中国では若者の5人に1人が失業をしている。それだけでなく、専門家はほんとうの若年失業率は46.5%だと試算した」ということになっています。

 

この46.5%という数字を出したのは、北京大学国家発展研究院の張丹丹准教授です。国家統計局との議論の中で、「若年失業率は低く見積もられているかもしれない」という文章を発表し、若年失業率に対して新たな視点を提出しました。それはニート(Not in Education, Employment or Training)の存在です。学校にも通わず、仕事もしていない若者のことです。

張丹丹氏は、若年人口が9600万人であり、そのうち就業人口2570万人、失業人口630万人であることから、残りの非労働人口を算出しました。人口から就業者と失業者を引けば、労働に関与をしてない非労働人口が計算できます。

9600-(2570+630)=6400(万人)

ただし、この中には学生も含まれています。そこで学生数の4800万人を引きます。

6400-4800=1600(万人)

この1600万人はどういう人たちでしょうか。学校に通わず、仕事もしていない人です。もちろん、全部がニートではありません。持病などで働くことができない人や専業主婦、家事手伝い、民間のスクールに通っている人もいます。さらに多いと思われるのが、「何の仕事をしているのかよくわからない人」です。普段ぶらぶらしていて、遊び仲間のリーダーから声をかけられると仕事をして、その場で報酬をもらうという人や、さらにはSNSやショートムービーで情報発信をしてセルフメディア運営をしている人もかなり増えているはずです。このような人たちは、大半は収入が低いため、申告もせず、所得税を払っていない可能性が高いと思われます。このような人も1600万人の中に含まれます。

 

しかし、1600万人のうちのどれだけがニートであるかどうかはわかりません。張丹丹氏は公開が予定されている中国家庭追跡調査(CFPS)を分析することにより、ある程度のニート人口の推計ができるものの、ニートの実態把握が急務だと訴えました。

そして、仮に1600万人全員がニートだとすると、実質の若年失業率がどうなるかを計算しました。

(1600+630)/(1600+630+2570)=46.5%

これは、張丹丹氏による警告でした。中国ではニートの問題はあまり注目されてきませんでしたが、ニートは高年齢化してもニートである可能性が高く、非常に深刻な労働力負債だと訴えたのです。

張丹丹氏は百度財経のインタビューにこう答えています。「あの文章は、国家統計局が公表したデータを使って、仕事もなく学校にも行っていない失業状態にある人が1600万人だと仮定をして失業率の上限を試算したものです。この数字を強調する意図はなく、最大1600万人にもなるニートあるいはぶらぶらしながら暮らしている膨大な若者群がいることに関心を持っていただきたかったのです」。

実際のニート人口がどれくらいなのかはわかりません。しかし、最大1600万人で、そのうちの一定割合だとしても膨大な人数になります。若年失業率21.3%は、数字は大きく見えますが、そもそもが雇用状況を表した指標ではなく、さらには、政府がリスキリング支援を行い、若者を学校に戻せば数字を下げることができます。それは表面的な数字の操作ではなく、若者は新たなスキルを身につけて労働市場に再参加することが可能になります。ある意味、解決が可能な「良性の失業」です。

しかし、ニートの問題は深刻です。メンタル面の問題を抱えている可能性もありますから、カウンセリングから始めていかなければなりません。若年失業率よりもはるかに解決の難しい問題です。

 

そして、もうひとつの問題が登記失業率が上昇していることでした。こちらの登記失業率は、国際労働機関(ILO)の調査ガイドラインに沿ったもので、「仕事を探しているのに見つからない人の割合」で、他国の失業率とほぼ同じ指標です。

▲登記失業率の推移。2015年から2019年にかけて、失業率は大きく減少をした。

 

2021年の登記失業率は4.0%でしたが、2022年の登記失業率はまだ発表になっていません。しかし、失業人口は1203万人と発表されているため、労働人口が2021年と同じだとして計算すると4.6%となり、過去最高になります。労働人口は減少傾向にあるわけですから、これ以上の数字が出る可能性が高いと思われます。こちらの方が大きな問題です。

この登記失業率の推移を見ると、2015年から2019年にかけて失業率が大きく下がっていることがわかります。この頃、新たに誕生した職業「ライドシェア」「フードデリバリー」が失業者を吸収していったからです。いずれも、高度なスキルは必要なく、すぐに始めることができ、なおかつ自由な時間に働くことができます。そのため、失業をすると、とりあえずこのような職業につき、並行して就職活動をするということが可能になります。

この2つの職業と屋台を合わせた3つの職業は、政府から「人材貯水池」と呼ばれ、失業への最後の防波堤となってきました。ところが、この人材貯水池があふれ始めているのです。例えば、フードデリバリー企業「美団」(メイトワン)の騎手(配達スタッフ)数は、2018年には270万人であったものが、2022年には624万人と倍増以上になっています。しかし、デリバリー需要は頭打ちになっています。ということは、1人あたりの騎手の配達件数は小さくなり、収入も減り、騎手全員が共倒れになりかねない状況になっています。

ライドシェアも状況は深刻です。ライドシェアでは、1日10組の乗客を乗せれば生活していけると言われていますが、この10組が確保できなくなっています。4月には山東省済南市交通局が「ライドシェア市場は飽和をしており、平均乗客数が10件を割り込んでいる」という異例の告知を行いました。四川省遂寧市交通局では「現在、この業界に参入することは慎重に考えるべきだ」という告知を行っています。

ライドシェア運転手になるには、運転免許とは別に、地方政府の交通局でライセンスを発行してもらう必要があります。ところが、海南省三亜市、湖南省長沙市の交通局では、ライセンス発行業務を一時中止しました。運転手が増えすぎて、全員共倒れになりかねなくなっているのです。

中年の失業は、リスキリングも簡単ではなく、企業も採用を避ける傾向があります。中国の雇用の深刻な問題は、若年失業率ではなく、ニートと中年失業であることは疑いありません。解決が簡単ではない「悪性の失業」です。

 

もうひとつの人材貯水池である屋台はどうなっているのでしょうか。もっと直接的に言えば、「屋台ってどのくらい儲かるの?」という素朴な疑問があります。耳に入ってくる話では、「失業した中年が屋台で大当たりをして、マンションを買った」というような話が多く、それは嘘ではないのでしょうが、レアケースであり、それが全員だとは思えません。

ところが、屋台に関する調査レポートのようなものは意外に少ないのです。屋台が地攤経済と名付けられ、人材貯水池として注目されたのはコロナ禍になってからです。それ以前は、屋台は、都市から排除すべき存在だったのです。その任務を遂行するため、1997年5月に北京市宣武区に、城市管理監察大隊が設立されます。いわゆる「城管」(チャングワン)の誕生です。

城管は形式的には地方公務員ですが、給料は安く、これといったスキルも要求されず、最も簡単になれる公務員だとも言われています。城管の仕事は街の環境整備です。例えば、商店が商品陳列台を歩道にまではみ出させていると、巡回をしてそれを指摘し、直させます。

この城管の大きな仕事が、屋台の摘発でした。この当時は屋台に関する規定はなく、路上に商品を並べて販売すること自体は昔から行われていましたが、合法でもなく違法でもない状態でした(通行の妨げになる場合は違法となります)。

2002年8月に、夏の北京五輪を控え、海外の資本を中国に導入する政策を進めていた国務院は、「行政処罰権業務の集中をより一層進めるための決定について」という文章を公開し、城管が現場で処罰をすることを可能にし、屋台の取り締まりを始めました。この城管に処罰権を与えたことで、短期間で政策の効果はあがるようになりましたが、さまざまな問題を引き起こすことになります。城管は、この時に違法であることが明確化された屋台(地方政府などが認可した観光夜市、歩行者天国などを除く)を発見すると、注意をするだけでなく、商品を没収するようになりました。それだけでなく、二度と商売ができないようにするために、目の前で屋台や商品を破壊するということも行われました。

しかし、あまりに厳しい取締りに反発の声もあがりますし、処罰の対象となった商店主が反撃をすることもあります。そのため、城管は次第にガタイのいい若い人を採用するようになり、地方ではいわゆる裏社会的な強面の人を採用するなどして、城管対市民の諍いは次第に熾烈になっていきます。これは今でもまだ続いていて、お年寄りが小遣い稼ぎにやっているような屋台を、城管が破壊をするだけでなく、それを止めようとするお年寄りを投げ飛ばすなどの行為が、SNSで拡散し、批判の的になっています。「違法な行為をしたのはもちろんお年寄りに非がある。でも、そこまですることはないじゃないか」というものです。

 

この当時の物売りは、横断地下道で商売をしていることが一般的でした。地上の歩道で商売をすると、遠くから城管に見つかってしまうからです。地下道の入り口には見張りが立っていて、城管が近づいてくると大声で知らせます。物売りは、みな工夫をしていて、大きな薄い箱を2つ蝶番で組み合わせて、それを開いて商品を並べています。城管がきたという知らせを受けると、その箱は一瞬で閉じることができます。そのまま走って逃げてしまい、また別の場所で商売を始めるということを繰り返していました。

中国は、北京五輪に向けて、見た目が悪く、食品の場合は衛生問題も発生しかねない屋台を徹底排除しようとしてきました。しかし、市民からは、屋台、露店というのも中国の伝統文化のひとつだという反発があり、2007年3月に公布された「職業促進法」では、屋台経営が職業として認められました。地方政府が出店場所、出店時間などを管理し、営業免許を受ける形で屋台の営業ができるようになりました。徹底排除をしようとしても完全になくすことは難しく、市民からの反発も強い。それで、認めることにより管理下に置くという方向に転換をしたのです。それ以来、城管は屋台を巡回すると、まずは営業許可証の確認を行い、許可証がある場合はつまらなそうな顔をして去っていくようになりました。許可証がない場合は、屋台と商品の破壊を始めます。

 

この状況が大きく変わったのが2020年のコロナ禍です。この時期に中央政府から屋台に関する大きな通知、意見というものはありません。しかし、成都市や江西省などが屋台の許可範囲を大幅に緩和する政策を始め、これが他都市にも次々と波及をしていきました。通常、中国の政策は、中央政府が「○○に関する意見」という文章を発表します。それを見て、地方政府が具体的な政策に落とし込み実行をするという仕組みになっています。しかし、この時は、そういう中央から降りてくる政策ではなく、地方政府が自律的に屋台経済を促進していったようです。

理由は明らかです。コロナ禍で、飲食店が営業休止になり、多くの人が失業状態になってしまいました。その失業者を吸収する政策はなんでも打っていかなければ地方経済が破綻をするというところまで追い込まれていました。放っておいても、生活に困窮した市民は屋台や露店を始めます。これを違法行為だと言って、血の気の多い城管が従来の感覚で取り締まりを行うとトラブルが多発することは明らかで、中国が最も恐れている事態=市民暴動に発展しかねません。であれば、先手を打って、厳格な管理下で屋台を認めた方がいいという判断があったのだと思います。

 

屋台の実態はなかなかわかりません。証券会社系の調査会社も屋台経済に関してはそれまで注目をしてきませんでした。政府も原則は違法行為であるために、統計調査をしてきませんでした。

最初に屋台経済に踏み切った成都市では、2020年にその概要を発表していて、成都市内に2234ヶ所の屋台出店可能場所を開放し、2万0891人の屋台経営者が営業免許を取得したと発表しています。これにより、関連産業まで含めて10万人程度の失業を防いだと発表しています。このような状況を見て、中央政府の国務院も屋台を新型コロナ失業対策のひとつに位置付け、これにより、他都市でも屋台経済が進んでいくことになりました。

 

しかし、そもそも、屋台は儲かるのか、生活をしていけるのか、そこすらはっきりしません。そこで、今回は中国メディアの取材記事を拾い集めて、どのくらいの利益が出ているのかを探ってみようというのが主旨になります。もちろん、各社バラバラの取材記事ですから、統計的なデータとしての意味はありません。しかし、メディアも屋台の実態を少しでも把握をしようと丹念な取材をしているため、そこから得られる数字には、目安程度の意味はあるかと思います。

今回は、新浪財経、騰訊新聞、網易新聞、光明網などが屋台を取材した記事から、各種屋台の収支をランキング形式でご紹介します。

 

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