ECが成長をしていくると、商品を販売する小売店は厳しくなり、体験を提供する店舗しか生き残れないと言われる。ところが、ECにも強いと言われる理髪店が苦境に瀕している。体験消費をもECが蚕食し始めていると社会輯録が報じた。
強いはずの理髪店が苦境に瀕している
ECが浸透をすれにつれ、実店舗の小売店は打撃を受け、路面店が減少をしている。残るのは理髪店やマッサージ、歯科医など、自分の身体を持っていかなければならない店舗ばかりだと言われる。
ところが、中国の理髪店は大きな打撃を受けているという。一体どういうことなのだろうか。
新規参入が30%近く、競争が激しい美容利用産業
統計によると、2021年の美容理容産業の市場規模は3863億元(約7.74兆円)で、年々数%の成長をしてきている。急成長ではないが、着実に業界全体は成長をしている。しかし、新規参入が多すぎる。2022年1月時点での美容理容企業数は約84万社。しかし、2021年は24.23万社も新規登録があった。この新規登録数は年々増え続けている。特に2019年あたりから急速に増え始めた。路面店のビジネスが厳しくなり、小売店の空き物件が出回るようになり、EC時代でも影響を受けない店舗として、美容理容店が人気となっているためだ。
一方で、登録企業数はほぼ変わっていない。つまり、新規登録数の分だけ倒産する美容店、理容店があるということだ。なぜ、理容店は厳しい状況になっているのだろうか。
初期投資が大きくなってきた理髪店
20年ほど前の床屋と言えば、初期投資の少ない技術を売る店だった。必要なのは洗髪ができる椅子、鏡、ドライヤー、ハサミ程度。その程度で済むために、自転車などに積んで、歩道などの外で散髪をする露店の床屋もよく見られた。
しかし、今は違う。椅子にはマッサージ機能がつき、ドライヤーはダイソンを使い、パーマ液や白髪染め、髪染め液などさまざまな道具を使う。内装も工夫をする必要があり、理髪店を開店するには設備だけで10万元(約200万円)以上は必要になると言われている。これ以外に、家賃が必要になる。場所にもよるが、客流のある程度確保できる場所となると、年に30万元から40万元は必要になる。
このような新しく快適な理髪店が参入をしてくるために、伝統的な理髪店は客を取られて経営が苦しくなり、閉店、倒産が相次ぐことになっている。
多くの理髪店が導入した会員マネーカード
これだけであれば、業界が新陳代謝をしているわけなので自然の理かも知れないが、新規参入をする理髪店も経営が厳しい。
昔の理髪店であれば、価格は20元から30元というのが一般的だった。しかし、この価格では、新しい理髪店は利益がまったく出ない。髪染めやパーマなどのオプションを使ってもらうことでようやく利益になる。
このような事情から、多くの理髪店が導入しているのが店舗専用の電子マネーカードだ。会員証代わりになるとともに、事前に現金をチャージしておき、理髪店での支払いに使える。例えば、髪染めは一般には888元だが、会員マネーカードに1000元以上チャージすると、300元で髪染めができるなどという特典がある。
理容師は、来店客とコミュニケーションを取り、オプションを進め、会員マネーカードに申し込みをさせるというのが重要な仕事のひとつになっている。
店舗としても、チャージをしてもらった時点で収入が得られるため、初期投資を早く回収できることから、多くの理髪店で会員マネーカードが導入されている。
行く回数を減らす利用者
しかし、消費者からすると、会員割引の価格であっても高く感じる。さらに一度会員マネーカードをつくってしまうと、残高が残っている限り、他の理容店に行きづらくなる。
このようなことから理容店離れが起こり始めている。理容店にいく頻度を少なくしている人もいる。2ヶ月に1回だったものを3ヶ月に1回にすると、年間回数では6回が4回になるわけで、理容店から見ると、年間の客数が33%減少することになる。
セルフ散髪もブームに
また、近年増えてきているのがセルフ散髪だ。淘宝網(タオバオ)などでは、自分で散髪ができるグッズがさまざま販売され、抖音(ドウイン)などでは自分で散髪をするための解説映像などもふんだんにある。また、家庭では奥さんが夫と子どもの散髪をするという習慣も広がっている。散髪をすることが、夫や子どもとの愛情の確認になり、浮いた散髪代で奥さんは美容院に行く。
体験提供型店舗もECに蚕食される時代に
ECの拡大により、商品を販売する小売店は厳しくなり、サービスを販売する店舗だけが生き残るとよく言われる。理容店、マッサージ店、歯科医などだ。しかし、セルフ散髪の神機と呼ばれるグッズがECでよく売れている。マッサージ器具なども売れている。さらには、差し歯や欠け歯のセルフリペアキットまでタオバオでは販売されている。
もちろんセルフでできることには限界があるものの、簡単なことであればECでグッズを購入して、セルフで済ませてしまうという流れが起きるかもしれない。そうなると、体験型店舗、サービスが商品の店舗も「ECの影響は受けない」と安穏とはしていられなくなる。