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カード式有料エレベーターが集合住宅に普及。その理由は、管理費の公平な受益者負担

都市部の古い住宅を再生するリノベーション作戦が進んでいる。その中で、カード式有料エレベーターの設置が進んでいる。乗るときには料金が必要というものだ。管理費の公平な受益者負担が可能になると採用される例が増えていると財料が報じた。

 

高騰し続ける住宅価格

多くの中国人の悩みは、住宅価格の高騰だ。家を買うにしても、借りるにしても、普通の稼ぎでは無理な価格帯に入り始めている。メディア「網易」の住宅価格情報によると、2021年10月の北京市の平均価格が平米あたり50286元(約90万円)となっている。しかも、その生活習慣から中国の住宅は日本より広いのが一般的で、1LDKで60平米、2LDKで90平米、3LDKで130平米以上になるのが普通だ。夫婦+子ども1人が北京市2LDKを購入しようとしたら、約8100万円になる。しかも、これは北京市の平均値なので、利便性の高い中心部では1億円を超えるケースも少なくない。これが、現在でも上昇をし続けている。

同時に、中古住宅の価格も上昇をし続けている。利便性の良い立地で築年数が浅い場合、新築住宅よりも高い価格で取引されることもある。

そのため、築年数が古い中古住宅を探す人が増えている。リノベーションがされていれば、住むのに困るようなことはないし、このような中古住宅の価格は安定をし、さらにはやや減少傾向すらあるためだ。

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▲外付けエレベーターの工事。中国政府は、古い住宅を再生して提供することで、住宅価格の高騰を抑えようとしている。

 

中国政府が始めた中古住宅リノベーション作戦

中国政府は住宅価格の上昇を食い止めようと必死だ。住建部を中心に毎月平均して50もの通知、意見を出して、住宅価格の高騰を食い止めようとしている。その中で、大きなものが2021年8月に住建部が出した「大量撤去、大量建設問題を防止するための都市活動に関する通知」だ。

この中で、古い集合住宅の撤去、建て替えができる面積を全体の20%に制限することを通知した。つまり、どんどん建て替える今までのやり方を抑え、古い住宅をリノベーションして再利用することを促したものだ。

同時に、築年数20年以上の集合住宅で、安全性などの問題がない21.9万棟をリノベーションする計画も打ち出した。2021年には5.3万棟をリノベーションする計画で、7月末ですでに4.22万棟のリノベーションが完了したことを発表した。764万戸がリノベーションされた部屋に住んでいることになる。

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▲設置が進む外付けエレベーター。古い住宅にエレベーターを設置することで、再利用を促し、住宅価格の高騰を抑えようというものだ。

 

リノベの主眼は外付けエレベーターの設置

このリノベーションで大きな改造が、外付けエレベーターの導入だ。都市部の古い集合住宅は6階建てが基本だが、古い集合住宅にはエレベーターがない。建設された20年以上前は都市住民の平均年齢も若く問題はなかったが、高齢化が進み、エレベーターなしの高層階に住むのは無理な高齢者もたくさん出てきている。

また、フードデリバリーや宅配便では、エレベーターなしの集合住宅が鬼門になっていて、荷物を持って高層階にあがったら不在であると配送効率が著しく低下をする。そのため、下から一度電話をして在宅であることを確かめる、宅配ボックスを設置するということが行われている。

古い集合住宅のリノベーションでは、外付けエレベーターの設置が必須になっている。

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▲都市部の築年数が古い住宅には高齢者世帯も増えている。高齢者からも外付けエレベーターは歓迎されている。

 

負担の公平性をめぐって難航する外付けエレベーター

しかし、このエレベーターの導入が難航をしている。住民の中には反対をする人もいるからだ。特に反対が強いのは1階の住民だ。1階の部屋は、出入りが楽というとことで、購入価格は高くなるというのが以前の常識だった。エレベーターなしの集合住宅では、低層階ほど高く、高層階ほど安くなる。購入するときに、高い価格で買ったのに、エレベーターができてしまうと、1階の優位性がなくなってしまい、転売価格に影響が出るという主張だ。

さらに、エレベーターを導入することで、その分の管理費が上乗せされる。これを各戸均等に割り振ると、1階の住人は反対をする。自分はエレベーターなど使わないのに、なぜ管理費が多くなるのかと、高層階ほど負担分が多くなる傾斜配分すべきだと主張をする。しかし、そうなると、今後は高層階の住人が反対する。よく出入りをする住人、ほとんど出入りをしない住人でも同じ負担というのは不公平だと主張する。

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▲カード式有料エレベーター。乗るときに専用カード、スマホなどをタッチし、1元以下程度の料金を支払う。使った人が管理費を負担する受益者負担の考え方に基づいている。外部の人が簡単に中に入れないため、防犯効果もある。

 

受益者負担のカード式有料エレベーター

そこで、最近導入が進んでいるのが、カード式エレベーターだ。地下鉄の交通カードと同じ方式で、エレベーターに乗るにはカードやスマホをタッチさせる必要がある。そして、1回乗るたびに1元程度の料金が徴収される。つまり、究極の受益者負担であり、低層階の住人は使わなければ負担はなく、高層階の住人は使った分だけの負担になる。また、カードを住人専用にすることで、防犯にも役に立つ。

このカード式有料エレベーターであれば、住民の意見がまとまり、リノベーションが進むと、各地方政府ではカード式エレベーターの設置補助金を出すようになっている。これにより、古い住宅のリノベーションが進むことになり、住宅価格の高騰を抑えるひとつの策になると期待されている。