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スマート化する自動車にとって、重要になるコクピットパネルのUI/UX

自動車が高度にスマートする中で、コクピットパネルのUI/UX(操作性)が重要になってきている。ファーウェイは、スマートコクピットのUI/UX基準を定め、使いやすいコクピットを目指しているとHarmonyOS開発者が報じた。

 

ファーウェイの3通りの自動車との関わり方

中国の通信機器大手「華為」(ファーウェイ)は、3つの方向で自動車分野に参入をしている。

ひとつはファーウェイが開発をしたソリューションを提供するというものだ。その多くが「スマート○○」と呼ばれるもので、スマート機能を備えている。例えば、スマートヘッドライトでは、自動で光量を調整し、対向車が来ると光軸をずらす、カーブでも光軸をずらしてより遠くまで照らすなどの機能が備わっている。いわば部品サプライヤーとしての参入だ。

次のレイヤーが「HI」(Huawei Inside)と呼ばれるもので、自動車メーカーとソリューションの共同開発を行うというもの。ソリューション提供である点は変わらないが、開発部分までより積極的に踏み込むというもの。その目玉となっているのが、ADS(Advanced intelligent Driving System)の「レベル2.9」自動運転だ。

もうひとつが「ファーウェイ智選」と呼ばれるもので、自動車メーカーがファーウェイのスマートコクピットなどを採用するというもの。また、この智選の自動車は、ファーウェイの携帯電話などを販売しているショップでも展示と販売が行われる。ファーウェイはHarmonyOSを開発し、スマホやPC、タブレットだけでなく、家電製品などにも搭載をして、機器間の連携という利便性を提供しようとしている。自動車もこのHarmonyOS機器のひとつだという考え方だ。

 

自動車と連携し、外に開いているスマートコクピット

中国のこの10年の自動車産業の進化ぶりは目覚ましく、電気自動車(EV)を中心にしたバッテリー技術、自動運転技術が特に大きく進歩をした。それだけではなく、地味で目立たないが、スマートコクピット技術も大きく進化をしている。見た目はタブレットを車の中に設置したようにしか見えず、大画面カーナビに見えてしまうが、もはやこれを「カーナビ」と呼ぶのは不適切だ。

自動車のさまざまな設定がタッチパネルから変えられるだけでなく、車内の照明を制御したり、通話を行えたり、アプリを利用することができる。一般的なカーナビは閉じている機器だが、スマートコクピットは自動車のハードウェアと連携することができ、通信機能により外部の資源を利用することができる。

例えば、自動車がアシスト機能を搭載しているのであれば、指定位置に駐車をするというような自動運転もワンタップで利用できる。

また、アプリを利用することで、到着時刻を予測して、その時間にレストランの予約を入れる、思わぬ渋滞に遭遇すれば遅延時間を予測し、予約時間を変更するなどということがワンタップで行えるようになる。

▲スマートコクピットは、自動車に搭載されている大きめのタブレットに見えるが、自動車のハードウェアと連動し、さまざまな設定、機能が利用できる。

 

車載であるからこそUI/UXが重要になる

2022年に開催されたファーウェイの開発者コンファレンスで、ファーウェイのUXデザイナーがファーウェイのスマートコクピットのUI/UXデザインについての講演を行なった。その内容をWeChat公式アカウントで公開されている。

まず何よりも重要なのは、スマートコクピットは、見た目は「自動車ハードウェアと連携ができるタブレット」だが、一般のタブレットとは大きな違いがあるということだ。それは、操作が自動車のハードウェア、運転戦略に関わるものがあるため、素早く操作ができなければならない。タブレットの反応が早くなければならないのはもちろん、ボタンを何回も押さなければ目的の操作ボタンが見つからないなどというUI/UXの悪さも致命的になる。場合によっては、命に関わる事故を呼び込んでしまうことになる。

▲運転手がある情報を得て、それに対応するまでの操作時間が、2秒を超えると危険度が急激に増加する。そのため、すべての操作を2秒以内に完結するという設計思想が採用された。

 

すべての操作が2秒以内に完結する

そのため、チームはまず、自動車の運転者が外界情報を取得して、それに対応する運転操作をするまでにどのくらいの時間が必要かを人間工学の研究から割り出し、安全時間を2秒と定めた。つまり、運転者が操作が必要と感じてから、2秒以内にスマートコクピットの操作ができないとならないという安全基準を定めた。

いくら面白い、ユニークなUI/UXであっても、2秒以内に操作できない要素はすべて却下されることになる。

 

重要なボタンは操作しやすい左上に配置をする

チームは、まずタブレットのどの場所であれば操作がしやすいかのユーザーテストを行なった。中国は右側通行であるため、左ハンドルで、運転者は右手を使って、右方にあるタブレットを操作することになる。

図で、左は操作が容易な部分と困難な部分だ。いわばボタンを押しやすい場所。右は表示が見やすい場所と困難部分。つまり、ボタンは一部を除いて、スクリーン全体に配置をしてかまわないが、重要な情報は左上の狭い場所に配置をしなければならない。

チームは、このマップを頭に入れて、UI/UXを設計する。

▲左は操作をするのにやりやすい領域。右は情報表示が認識しやすい領域。意外なことに、情報の認識がしやすい領域は思ったよりも狭いことが明らかになった。

 

ナビ情報は常時表示、アプリは分割画面で表示

スマートコクピットで重要なのは、ナビゲーション情報だ。また、アプリ類で最も使われるのは、ラジオや音楽などで、その次が通信系のサービスとなる。

そこで、通常はナビゲーション画面が全面表示をされ、アプリを開くと、画面が分割される基本画面が設計された。アプリ一覧には、最もよく使われるラジオ、音楽が視認をしやすい左上に配置され、その下に、利用頻度に合わせて、アプリがリコメンドされる。

▲ナビ情報は重要であるため、常時表示をするのが基本。アプリは分割表示され、より使う可能性の高いアプリが左上に配置される。

 

アプリのUI/UXには厳しいレギュレーション

このようなアプリは、サードパーティーも開発ができるが、このアプリのレギュレーションを細かく設定した。

ひとつは解像度の問題で、チームは320DPIでアプリを設計してもらうと視認性がよくなることを発見し、この解像度を標準にしてもらう。

また、画面分割などさまざまな表示スタイルにできるように、アプリの画面は「16:9」「1:1」「21:9」「24:9」の4つの縦横比の表示に対応することが求められる。

また、昼間は明るい昼間モード、夜間は暗い夜間モードに対応する必要がある。

さらに、操作性を悪くするという理由からポップアップ広告は使用ができない。さらに重複確認ダイアログ(「ほんとうに終了しますか?」など)も使用ができない。

さらに、文字サイズや色の使い方などのガイドラインを定め、これをファーウェイが提供するメディアキットに反映をさせた。つまり、ファーウェイが提供する開発環境でアプリ開発を行えば、難しいことを考えなくても、ファーウェイのガイドラインに従ったアプリが開発できる。

▲開発チームは、320dpiの解像度が最も見やすいことを発見し、320dpiを基本にして、フォントのサイズなどのガイドラインを定めていった。

▲夜間モードと昼間モード。夜の運転は周囲が暗いために、夜間モードは必須。昼間モードの画面を見た後は、しばらくの間、環境の認知度が下がってしまう。

アプリ開発企業には、分割画面表示をすることを考え、4種類の画面サイズに対応することを求めた。

 

空間オートメーションがしやすい自動車という空間

このようなスマートコクピットを利用するとさまざまなことができる。例えば仮眠モードだ。パーキングエリアなどで仮眠をしたい時は、仮眠モードにするだけで、静かな音楽が流れ、シートが倒れ、照明が周囲の光量に合わせて落とされ、エアコンが仮眠に最適な温度に設定し直され、静かな音楽が流れる。

自宅の照明や電子デバイススマートスピーカーで操作するホームオートメーションは素晴らしいアイディアだが、電子デバイスを自分で対応のものに買い揃えなければならないという課題がある。しかし、自動車であれば、スマートコクピットに対応をするように設計ができるため、室内空間をスマート化しやすい。すでに自動車は、スマートフォンタブレットと同列の電子デバイスになろうとしている。ファーウェイが自社のショップで自動車を販売するというのも不思議なことではないのだ。

▲情報の表示には、重要情報の強調と不要な情報の排除の2つを同時に成立させる必要がある。左はスマートフォンの考え方で、できるだけ多くの情報を表示し、重要度に応じて強調をするというもの。しかし、車載では、不要な情報を省き、整理をすることがより重要になる。