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30年値上げをしていない1元ライター。それでも利益が出る理由

1元で販売される使い捨てライターの価格は30年間値上げされていない。それでも利益が出ている。世界の使い捨てライターの7割は、湖南省韶東市で生産され、地域産業がひとつの企業であるかのように支え合っているからだと上観新聞が報じた。

 

物価の優等生、1元ライター

世界的な喫煙者の減少により、見かけなくなっているのが百円ライターだ。中国では1元(約20円)の価格で販売されていて、発売から30年、値上がりはせず、今でも1元で販売されている。

この使い捨てライターは湖南省韶東市で生産されており、世界の使い捨てライターの70%がここで生産されている。その中での大手企業になる湖南東億電気では、半年先まで納入先が決まっておりフル生産を続けている。しかも、納入価格は20年変わっていない。人件費も上昇する中で、どうやって使い捨てライターは価格を維持しているのだろうか。

▲世界の百円ライターの7割は、湖南省韶東市で生産されている。地場産業だから強い。

 

見様見真似で始まったライター生産

このような日用品を生産する軽工業は、放浪産業とも呼ばれる。高い技術力も必要なく、生産設備も簡易であることから、人件費の安いところであればどこにでも移っていくからだ。

1992年、東億電気の創業者となる夫婦が、友人と話をしている時に起業のヒントを得た。それは「ライターを買おうと思ったけど、行列に並ぶことになった」というものだった。そんなに人気のある商品なのかと気づいたことがきっかけだった。

当時、使い捨てライターは広東省で生産されていた。夫婦は数十個のライターを手に入れて、分解をし、組み立てる方法を学んだ。そして、すぐに韶東市で最初のライター工場「順発工業」を設立した。製品は順調に売れ、工場はすぐに成長を始めた。

それから30年、韶東市のライター関連企業は114社となり、年間生産額150億元となり、120の国に輸出され、世界のライター生産の70%を占めるようになっている。

▲使い捨てライターは30年間1元で販売されている。それでもちゃんと利益が出ている。生産の合理化が進んでいるからだ。

 

ライターの生産地、湖南省韶東市

ライターは、製品は小さいがサプライチェーンは大きい。20以上の部品からできているからだ。そのため、114社のうち、製造は30社だけであり、そのうちの12社は輸出専門だ。84社はさまざまなパーツや原材料を生産している。

このすべての企業が韶東市の中にあり、コンパクトなチェーンを形成している。これにより、物流コストが大幅に下がり、生産コストが抑えられている。また、2022年にはライター産業協会が設立された。この業界団体は、民間会社を設立し、輸送車両の購入、製品試験、税関申告手続きなどを業務とした。つまり、コストのかかる設備、業務などを韶東市の企業が共有をすることで、さらにコストを下げようという試みだった。

▲ライブコマースも行われている。喫煙者は減っているものの、キャンプ需要が増えている。

 

地域産業であることが低価格の理由

これが中国の軽工業が低コストで標準品質の製品をつくれる理由のひとつになっている。地域産業となっているために、コストのかかることは全員で共有をし、投資額を抑えることができ、なおかつ、効率的に行えるのだ。

また、地域産業内では悪質な競争が起きない。同業者は戦うべき敵ではなく、一緒に戦うべき同志だからだ。新しい技術が登場しても、それはすぐに産業協会を通じて全員に共有される。一方、他地域とは厳しい競争をしなければならない。

つまり、韶東市の114社は、外から見れば1つの大きな企業になる。そのため、ひとつひとつの企業の規模は小さいものの、全体の規模は決して小さくなく、思い切った研究投資も行える。

同様の形態は、ライター以外でも、中国の全国の地方都市に地場産業があり、世界の生産量の半分以上を生産しているという地域がいくつもある。地域の家内制手工業のような状況を、賢く組織化している。これが中国の軽工業を支えている。