中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

現金決済が復活?現金決済を広める杭州市の工商銀行。ターゲットは外国人観光客

中国でもインバウンド旅行客が復活をし始め、スマホ決済が大きな課題になっている。外国人には使いづらいのだ。そこで、杭州市の工商銀行では、インバウンド旅行客が訪れる地域を中心に現金決済の普及活動を行なっていると潮新聞が報じた。

 

もはや現金が使いづらくなっている中国社会

中国のインバウンド旅行客も徐々にだが復活をし始めている。しかし、中国を旅行する外国人旅行者の頭痛の種が決済だ。地方都市にまでWeChatペイ、アリペイのスマートフォン決済が普及をし、特に大都市では現金での支払いがほぼできない状況になっている。法律上は商店は現金決済を拒むことができないが、お釣りの用意ができないために断られることが増えているのだ。

代金ぴったりで出せば受け取ってもらえるが、お釣りが必要な場合は、現金をくずそうにも近隣の店舗も釣り銭が不足をしているため断られる。さらに、スマホ決済が主流になり、従来は商品の販売価格が10元とか9.8元という現金のお釣りを出しやすい価格に設定されていいたが、スマホ決済時代になり釣り銭のことを考慮する必要がなくなり、価格競争により7.68元や8.12元など半端な価格設定が増えている。用意すべき釣り銭が以前よりも増えている。

 

外国人には使いづらいスマホ決済

すでにWeChatペイ、アリペイは国際クレジットカードに対応していて、クレジットカードを登録すればポストペイ決済ができるのだが、そのことが外国人にはまだじゅうぶんに周知をされていない。さらに、決済アプリの中からタクシー配車やシェアリング自転車、高鉄のチケット購入などをするときは、身分証の登録が必要で、これも対応国であればパスポート登録で利用できるようになっているが、どのサービスで身分証明が必要なのか、どの国のパスポートが利用できるのかがわかりづらく、困惑をしてしまう外国人が多い。

つまり、インバウンド観光客のことを考慮せずにキャッシュレス決済を推進してしまったために、外国人にとっては決済が非常に難しい国になってしまった。

シンガポールからの観光客も現金決済復活を歓迎している。外国人もスマホ決済を利用できるようにはなっているが、準備や設定が煩わしく、現金かクレジットカードを使うのが便利だからだ。

 

現金決済を復活させた杭州

この状況に問題を感じたのが、浙江省杭州市の工商銀行杭州支店のスタッフたちだった。2023年9月23日から16日間、杭州市ではアジア大会が開催された。その時は、選手関係者だけでなく、観客も海外からやってくる。これはコロナ後のインバウンド観光を復活させる大きなきっかけになる。

そこで思いついたのが、商店の現金決済復活だ。工商銀行では専用の釣り銭入れをつくり、これを商店に配布をした。商店に配布する時は、「現金の受け取り拒否は違法である」ことを説明し、「現金受け取りを拒否しません」という誓約書に署名をしてもらうことが条件になる。

さらに工商銀行では、1日1回巡回をして、現金の両替を行い釣り銭を補充するサービスまで行った。銀行のスタッフが間に合わない場合でも、近隣の商店の多くがこの釣り銭入れを持っているため、商店同士で小銭を融通し合うことも進んだ。

▲工商銀行では、釣り銭入れをつくり、商店に配布をした。巡回をして、釣り銭を補充するサービスも行っている。

 

外国人はやはりクレジットカードと現金

杭州市の商店で現金が使えるということが認知されると、外国人観光客の買い物が如実に増えたという。潮新聞は、シンガポールからきたという親子の観光客に取材をした。「アリペイやWeChatペイが便利なことはわかっていますが、登録が面倒なのであまり使いたくありません。杭州市ではクレジットカードが使えるところもあり、現金でも支払えるところがあるので、どちらかを使っています」。

▲現金決済に対応した商店では、外国人インバウンド旅行客の利用が明らかに増加をした。

 

中国の高齢者にも思わぬ効果が

また、杭州東駅の駅施設と接続しているショッピングモール「万象彙」でも、現金による効果が見られるようになった。人気のスイーツ店「汪保来」では、現金で支払う年配の客が増えたという。高鉄に乗って、杭州市に観光にきた高齢者が、帰る時にお土産にスイーツを買っていってくれるようになったのだ。スマホ決済に慣れていない高齢者もまだ多く、今までは買い物を躊躇してしまっていた人たちが、慣れている現金で支払えるならとお土産を買っていくようになった。

キャッシュレス決済が進む中国だが、インバウンド客の増加とともに、決済のあり方をもう一度考える空気が広がっている。

▲ショッピングモールのスイーツ店が現金決済に対応したところ、高齢者の購入が増えた。帰郷をする高齢者が帰り際にお土産を買ってくれるようになった。