アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)が新機能「淘宝問問」(ウェンウェン)のテスト公開を始めた。ChatGPTに代表されるLLM(大規模言語モデル)を応用したもので、対話型で買い物のアドバイスをしてくれるというものだと周口広電融媒が報じた。
対話型AIを使ってお買い物「淘宝問問」
「淘宝問問」(ウェンウェン)は、ECのショッピング体験を大きく変えることになるかもしれない。現状では、まだ精度などは低く、利用者から称賛の声は聞こえてきてはいない。しかし、そう感じる理由は、すでに多くの人がChatGPTなどの対話型AIに触れているため、新鮮な驚きとまではいかないからだ。一方、逆に言えば、利用方法はすでに理解をされているため、多くの人が淘宝問問を戸惑うことなく利用している。
例えば、「休日を過ごす男性にはどのようなファッションが適切ですか」という質問をすると、問問は「スポーツファッション」「シンプルファッション」「民族ファッション」など6つの提案をしてくれる。そのうちのひとつのカテゴリーを選んで、「具体的な商品を紹介して」と尋ねると、具体的な商品を紹介してくれる。それをタップするだけで購入ページに進むことができる。
基本知識を尋ねて、適切な商品を紹介してもらう
現在の一般的な使い方は、2ステップで商品に到達する使い方が多いようだ。例えば口紅であれば、「自分に合う口紅はどう選べばいいか」と質問をすると、選び方の基本知識を出してくれる。それを見た上で「100元以内の口紅をお勧めして」などと具体的な商品を紹介してもらうというものだ。現在、旅行、シルバー商品、生活日用品、食品などをカバーしているという。
広告が不要になるかもしれない世界
現在の問問の実力は、アリババが開発した対話型AI「通義」(トンイー)をタオバオ向けにカスタマイズしたというだけで特筆すべきことはない。しかし、それでいて、すでにベーシックなショッピングガイドとして機能をしていることに業界は青ざめている。なぜなら、これまでの広告モデルが不要になってしまうかもしれないからだ。
広告の最も重大な役割は、消費者に商品を認知させ、それを購入時まで維持をすることだ。マスメディア広告しかない時代は、商品名の連呼が有効だった。商品名を記憶させ、店頭で「○○をください」と言わせることが広告の最大の役割だった。
それはEC時代になってもさほど変わっていない。多くのECでは商品名を検索しなければならないので、商品名を記憶させる必要があるからだ。
それがSNSの登場により、広告の役割が変わってきた。SNS「小紅書」などでは、複数の商品を比較し、どの商品にどのような特性があるのかをわかりやすく解説する投稿が無数にある。そのような解説記事を読んで、自分に適切なものを選び、タップをすると直接購入ページに飛ぶことができる。そこでは商品名を連呼して記憶させるということはほぼ意味がなくなっている。それよりは、インフルエンサーや独自のイメージを記憶させ、そのインフルエンサーとイメージを使って商品に接続させる方が有効になっている。
課題解決型ショッピングへ
ところが、問問の性能と機能があがって、ショッピングコンシェルジュとして機能をするようになると、極論をすればすべての広告は必要がなくなる。タオバオは会員制であり過去の購入履歴のデータも持っている。すると、買い物ではなく、日常の相談をするだけで商品を紹介してくれる世界が実現される可能性がある。
例えば、「頭が痒いんだけど、どうしたらいい?」と尋ねると、過去の購入履歴を参照して、適切なシャンプーを紹介してくれるかもしれないし、スキンケア商品を紹介してくれるかもしれない。肌にいい食品やサプリメントを紹介してくれるかもしれない。消費者は広告を無視するようになり、直接ECにアクセスをし、対話型AIに生活上の相談をし、商品を買うようになるかもしれない。
AIは人間の代わりをするのではなく、不要な仕事をなくしていく
今まで、「AIが人間の仕事を奪う」ということが言われていて、それは人間の仕事がAIにより代替されることを想定していた。しかし、AIを活用することで、人間のウォンツやニーズとECが直結できるようになり、広告というジャンルそのものが不要になるとまではいわなくても、社会的な役割が後退することにより、多くの人の職が奪われるということが起きてくるかもしれない。業界関係者は、問問の性能や機能がどのように進化をしていくのか、注目をしている。