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甲骨文がプチブームに。きっかけはショートムービー。スタンプやアイコンにも使われる

甲骨文がちょっとしたブームになっている。きっかけは、李右渓さんが始めたショートムービーだ。内容が面白く、しかも中国の最初の文字と呼ばれる甲骨文の知識も身につくということから40万人以上のファンがいると歴史快探が報じた。

 

プチブームになっている甲骨文

甲骨文がちょっとした人気になっている。甲骨文とは殷(商)の時代に使われた漢字の原型で、亀の甲らや牛の肩甲骨に刻んで記録に使われたものだ。その多くが、わかりやすい象形文字であり、現在の漢字とのつながりもわかるものになっている。漢字の歴史をたどるという知的な楽しみもあり、甲骨文をアイコンなどの素材と使うという現代的な楽しみ方もある。

▲甲骨文は殷の時代に使われた文字で、亀の甲羅や牛の肩甲骨に刻まれた。約4000文字が知られているが、解読されているのはそのうちの1/3にすぎない。

 

解説ムービーがきっかけに広がる人気

甲骨文が人気になったのは、李右渓(リ・ヨウシー)さんという女性が、ショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン、TikTok)で、甲骨文を1文字ずつ解説するムービーを公開したことがきっかけだ。決して難しくなく、かといってエンターテイメントだけでもなく、楽しみながら甲骨文や漢字に成り立ちについて知識が増えていくことから、子どもから中高年まで幅広いファンがいる。

▲李右渓さんのショートムービー。毎回、親しみやすいテーマを定めて甲骨文について紹介をしている。

 

甲骨文で書かれたラブレター

例えば、「甲骨文で書かれたラブレターはあるのか」というテーマで、甲骨文に頻繁に登場する商王の武丁の妃「婦好」について解説をする。そして、武丁の言葉として「婦好は帰ってきたのか?」「婦好は健やかか?」「婦好は災害に遭っていないか?」と気遣う言葉がたくさん残されていることを示し、武丁は婦好をとても愛していたと紹介する。さらに、「婦」という文字は、「ほうき」が元になっており、当時の女性の役割は家にいて掃除をすることだったからだと漢字の成り立ちについて解説する。

▲李右渓さんは、甲骨文に頻繁に登場する「婦好」という女性ついて解説する。

 

甲骨文で最も可愛い文字は「歯」

また、「甲骨文でいちばん可愛い文字は?」というテーマでは、「歯」の甲骨文を紹介する。甲骨文に「歯」がよく登場するのは、当時は虫歯になる人が多く、亀の甲羅に歯痛のことを刻んで、歯痛が治ることを祈願したからだと解説する。そして、「虫歯」を表す甲骨文を紹介する。それは「歯」という文字に「虫」が入っている文字が、「虫歯」を表す甲骨文なのだ。

このような面白く、なおかつためになるムービーを配信し、現在では40万人以上のファンがついている。

▲甲骨文でいちばん可愛い文字は「歯」だという。

▲当時は虫歯も多く、虫歯という文字が存在した。口の中に虫がいる。



甲骨文解読プロジェクトの入賞者だった

李右渓さんのムービーに人気があるのは、内容がわかりやすて楽しいというだけでなく、しっかりとした学術的な裏付けがあることが感じられるからだ。事実、李右渓さんは大学や研究機関に属する研究者ではないものの、立派な民間研究者と言っていいほどの実績を持っている。

李右渓さんは、浙江師範大学人文学院に入学をして甲骨文を専攻した。しかし、昔の文字である甲骨文に興味を持つ学生など当時はいなかった。そんなものを研究しても、報酬の高い企業に就職などできないからだ。李右渓さんのクラスは3人しか学生がいなく、教室ではなく、教授の家で授業を受けていたという。

李右渓さんはそのまま甲骨文を専攻して大学院に進んだ。その頃、中国文字博物館が未解読の甲骨文字を解読したら1文字10万元(約200万円)の報奨金を出すというプロジェクトを行なった。甲骨文は発掘調査から約4000文字が収集されているが、それがどの漢字に相当するのか明らかになっているのは1/3程度でしかないのだ。

李右渓さんはこのプロジェクトに応募をし、見事に10万元の報奨金を獲得した。

▲中国文字博物館が主催した甲骨文解読プロジェクト。このプロジェクトで報奨金を獲得したのが李右渓さんだった。

▲大学時代は、甲骨文を学ぶ学生が少なかったため、教室ではなく、教授の家で授業が行われた(左端が李右渓さん)。

 

自分の好きなことをSNSで実現した李右渓さん

大学を卒業後、案の定、適切な仕事が見つからないという困難に直面した。この世に甲骨文の知識を活かせる仕事などない。そこで、メディア企業に就職をし、ディレクター候補として働くことになった。しかし、それは甲骨文とはまったく関係のない仕事だ。甲骨文は趣味として続ければいいと思う時期もあったが、思い切って仕事を辞めて、甲骨文ブロガーとなり、幸いにも成功して今がある。

甲骨文は、中国の重要な文化遺産であるものの、甲骨文ではお金が稼げないということから専攻する人が減り、研究の継承も途絶えようとしていた。李右渓さんは、それをショートムービーという現代のツールを使って、甲骨文の種を多くの人に蒔いている。李右渓さんの成功は、他の伝統文化の研究者からも注目されている。

▲主要な甲骨文。人気になったのは4行目最後の「屎」と「尿」。誰でもわかる象形文字ぶりだ。