各地で公共バスの経営が苦しくなり、運休せざるを得ない事態が起き始めている。コロナ禍による乗客減が原因で、感染状況が落ち着いても乗客数が戻らない。公共交通の中でのバスの位置付けを考え直す必要が出てきていると南方都市報が報じた。
資金難で運行できない公共バスも
コロナ禍の影響で、各都市の公共バスの経営が厳しくなっている。
6月13日、広東省陽江市でバスの運行が一時停止されたことが大きな話題となった。陽江市交通局では、資金の手当がつかなくなり、バスの運行が維持できないとして、6月17日からバスの運行を一時見合わせることを告知した。運行再開は状況を見て改めて告知するとした。陽江市民によると、この告知以前から、一部の路線で一時的な運行停止は起きていたのだという。幸いなことに、17日午後には運行が再開され、大きな混乱には至らなかった。
この他にも、四川省江油市、陝西省西安市、天津市、河南省周口市、福建省永安市、湖南省新化県、山西省呂梁市、広西省玉林市などでバスの運行の一時的な休止が行われている。
各地で起きている公共バスの経営難
7月27日、湖北省武漢市で、全国公共バスのイベント「私のバス、私の街」が開催され、国内100以上のバス運営企業の管理担当者が集まった。ここで話題になったのは、やはりバス運営企業のコロナ禍による経営難問題だった。
「去年と今年の営業収入は、例年の1/3にまで落ち込んでいます」と、海南島三亜市のバス集団党支部副書紀の陳伝偉氏は語った。三亜市はリゾート都市で観光収入でもっている。住民人口は100万人+だが、ハイシーズンには観光客で2000万人に膨れ上がる。公共バスもこの観光客人口に合わせて運行されているが、現在は一人も乗っていないバスが目立つようになっているという。
河南省平頂山市では、給料の支払いができなくなり、最大で8ヶ月分の給料が未払いになっている運転手がいる。コロナ禍により、2020年上半期の営業収入が965万元にまで落ち込んだ。これは前年比で85%もの減少になる。さらに、バス利用を促すため、数年前からバス料金を値下げし、クーポン配布なども行なっていたため、運営企業の資金が回らなくなってしまったことが原因だ。
乗客数が回復をしない公共バス
利用者数も2020年に大きく減少した。36%減少をし、2021年になってもほとんど回復をしていない。
交通運輸部科学研究院都市センターのスマート交通部の劉向龍主任は、南方都市報の取材に応えた。「公共バスの乗客数減少は、不可逆的な現象です。心理面の影響が長期化をしており、元に戻すのは簡単なことではありません」。
最も大きい理由は、バスのような密室タイプの公共交通は、多くの人が感染リスクが高いと考えていることだ。その不安を解消するため、バス企業では乗車時に健康コードの提示や陰性証明の提示を求めるようになっている。また、乗客を密にしないために、状況に合わせてバス停の通過、迂回をするようになっている。
バスは地下鉄のようにエスカレーターを上がり下がりをすることなくすぐに乗れる身近な公共交通だったが、コロナ禍ではその手軽さが失われてしまっている。
公共交通から個別交通へシフト
このようなことから、多くの人がマイカーや電動自転車での移動を好むようになっている。ライドシェアは300以上の都市でサービスが提供され、1日に2000万人が利用している。シェアリング自転車も360以上の都市で提供され、1日に4500万人以上が利用をしている。
地下鉄は50以上の都市で提供され、バスと同じように健康コードや陰性証明が必要だが、バスと比べれば渋滞がなく、時間通りに移動することができる。また、バスよりも車内空間が広いため、感染リスクについてもバスよりは安心感がある。
このようなことから、一部では都市公共交通の中でのバスの位置付けを考え直す必要があるのではないかという声も起きている。
地方政府も補助金を増やすことができない
バスは公共性の高いサービスであるため、政府による補助が行われている。広東省博羅県では、2022年7月に資金不足から運行を一時休止したが、県政府が緊急の補助金を出すことが決まり、運行を再開した。
また、この数年は、バスを新エネルギー車に切り替えるために地方政府が補助金を出している。これにより、新エネルギー車バスは48万台となり、全体の70%が新エネルギー車になった。すでに100%EVになった都市も多い。
このような各種補助金は、バス運営企業の収入に20%から25%になる。コロナ禍による補助金を望む声も日増しに大きくなっている。
しかし、地方政府もない袖は触れない状況になっている。コロナ禍により経済が沈滞をし、税収が大きく下がり、コロナ予防対策で支出は大きく増えている。地方政府も深刻な財政難になっており、バス運行の維持どころか、より重要なインフラの維持にすら四苦八苦する状況になっている。
さまざまな努力をするバス運行企業
バス運行企業も工夫をし始めている。広州市では、路線の大幅な見直しを行い、利用者数の少ない路線を廃止し、輸送力を10%落とし、1000台のバスを削減した。これにより、2022年上半期には4800万元のコストを削減した。
また、バス駐車場や運転手の保養施設も削減し、他企業に貸出を行なった。これにより毎年7億元から8億元の収入が得られる見込みだという。
武漢市では、バス運営のリソースを活かしたビジネスを手がけ始めている。広告、物件管理、自動車検査、修理、チャーター便の運営などだ。特に、一般のマイカーの検査と修理ビジネスが好調で、将来大きな収入源になる可能性があるという。
また、武漢市では電気も売り始めている。バスの充電設備に一般乗用車でも利用できる設備を入れ、一般開放している。
福州市では、バスの主な乗客が高齢者であることを考慮し、低床車を263台導入し、来年までに合計363台を導入する。高齢者は通常のバスだとステップが高く、乗り降りがしづらい。これを改善して利用者の拡大を図り、さらに中型車に変え、運行コストを抑えようというものだ。
議論される公共バスのあり方
現在のバス運行企業は「大から小へ。低床化」がトレンドになっている。ただし、小型化があまりに進みすぎると、大都市の幹線路線ではラッシュ時の輸送力に問題が生じる。そこで、公共バスの位置付けについても議論が始まっている。幹線部分は渋滞のない地下鉄や都市軌道交通に任せ、バスは小型化をして、軌道交通の駅から近隣の商業地区や住宅地を結ぶシャトル便として再構成するべきではないかというものだ。
コロナ禍で、公共バスは存続の危機に陥った。しかし、それが次の時代のバスのあり方を議論するきっかけになろうとしている。