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ロケットは電磁力で打ち上げる。中国が電磁カタパルトの試験に成功。打上コストの大幅削減に期待

中国航天科学工業院三院は、電磁カタパルトの動作試験に成功した。ロケットを電磁力の力で打ち上げるというもので、実用化されれば、ロケットの打ち上げコストが大幅に削減でき、衛星などの商業打ち上げに大きな強みを持つことになると科普大世界が報じた。

 

電磁力でロケットを打ち上げる

中国航天科学工業院三院が成功したのは、長さ380mの試験電磁カタパルトで、ロケットに見立てた物体を時速234kmまで加速をしたというもの。これは秒速65mにあたり、実際のロケットを打ち上げるのには速度がまったく足らないが、今後、速度をあげる改良を行い、電磁カタパルトによるロケット打ち上げを目指す。

▲中国航天科学工業院三院が開発した試験用電磁カタパルト。長さ380mで、時速234kmにまで加速をしただけだが、今後、本格的な開発が始まる。

 

コスト競争に入っているロケット打ち上げ

ロケットの打ち上げにかかるコストの大半は、地上から宇宙空間までの間にかかる。地球の引力を振り切るのに大きなエネルギーが必要となるからだ。そのため、打ち上げコストを下げるには、この打ち上げ時のコストをいかに抑えるかが重要になっている。

米スペースXのスターシップでは、2段目ロケットに点火した後、不要になった1段目ロケットを地上に戻す技術を開発し、再利用することでコストを抑えようとしている。ファルコン9の回収のための着陸回数は200回以上に達していて、回収技術はすでに確立をしている。

この電磁カタパルトもコストを抑える技術のひとつで、宇宙船を直接、電磁の力で打ち上げようというものだ。

▲米スペースXは、ブースターなどを地上に自動帰還させ、回収して再利用することでコストを大きく下げる技術を確立している。

 

電磁カタパルトとエンジンを併用する

地球の周回軌道に乗るのに必要な第一宇宙速度は秒速7.9km、地球の引力を振り切るのに必要な第二宇宙速度は秒速11.2kmであり、今回の試験では秒速0.065kmでしかなく、まったく速度が足りない。今後、この速度をあげていく必要がある。

と言っても、第一宇宙速度である秒速7.9kmを目指す必要はない。この電磁カタパルトは従来の1段目ロケットの代わりとなるもので、電磁カタパルトで打ち上げ、必要な高度に達したら、宇宙船の独自のエンジンに点火をし、徐々に速度を上げていけば軌道に乗ったり、地球の引力圏を離れることができる速度に達することができる。

つまり、電磁カタパルトは、1段目ロケットを不要にし、打ち上げコストを大幅に下げるための技術だ。

▲長大な電磁カタパルトを設置して、直接、宇宙船を宇宙空間に打ち出すというアイディアも出されている。

 

電磁砲とも共通する技術

この技術は、リニアモーターカーや電磁砲と同じものだ。リニアモーターカーでは時速600km、秒速0.167km程度だが、真空のパイプの中を走行させる超高速鉄道では時速4000km、秒速1.1111kmに達することが可能だ。

電磁砲では、音速の10倍程度の速度が必要とされ、ロケットの電磁カタパルトも同程度の速度が必要になると見られている。つまり、電磁カタパルトは大型の砲弾とみなし、電磁砲と共通した研究開発が可能になる。

 

すでに宇宙への定期航路が確立する時代に

スペースXのファルコン9の打ち上げ回数はすでに278回に達している。2024年からは月12回程度の打ち上げペースにする予定で、3日に1回は打ち上げが行われることになる。すでに遠方地への直行航空便並みに、人類は宇宙空間に衛星などの機器を送り込む時代になっている。米国でも電磁カタパルトによる打ち上げは研究開発が行われていて、これが実用化されると、1日に数回の打ち上げを行う時代がやってくることになる。

1865年に発表されたジュール・ベルヌの「月世界旅行」では、長さ900フィート(約270m)の大砲を使って、宇宙船を打ち上げるという内容になっている。電磁カタパルトが実用化されると、まさにジュール・ベルヌの描いたロケット打ち上げ風景が見られるようになる。