大都市で仕事を得て暮らすというのは多くの若者の憧れだ。しかし、給料もまだ安い中でマンションを借りるということが大きな負担になっている。ピンドードー式マンションなど劣悪な環境で暮らさざるを得ない若者が多いと五環外OUTSIDEが報じた。
新社会人には高い都市の家賃
中国の不動産価格は天井を打ち、下落する傾向が始まっているが、大都市ではまだまだ高止まりをしている。その中で、苦しんでいるのが新社会人たちだ。地方から大都市の大学に合格をし、そのままその都市で就職をする。学生の間は学生寮に住むことができるが、卒業をしたらどこかに賃貸で住む場所を確保しなければならない。新社会人ではまだまだ給料も安く、それに対して賃貸住宅の家賃は高い。
58同城と安居客の2023年の調査によると、8割の学生が家賃は給料の30%以下に抑えたいと考えている結果になった。しかし、現実にはその理想とはほど遠い。
上海で2000元以下の物件を発見
林さん(仮名)は、今年、大学を卒業し、上海市で最も繁栄している地域である陸家嘴で仕事を見つけた。通勤時間をできるだけ短くしたいが、高級マンションが建ち並ぶ陸家嘴で適切な住居を見つけるのは簡単なことではない。林さんはある程度の貯金も持っているが、家賃として出せるのは2000元(約4万1000円)が限界だった。
林さんが、賃貸不動産仲介プラットフォームで探してみると、家賃が1600元から1800元の物件が見つかった。ワンルームだが、狭くはなく、古くはあるがリフォームされており、満足のいく物件だった。同級生たちが羨ましがるほどだった。
堂々と嘘だと暴露する不動産屋
林さんは、「朝が部屋を見るのに最適な時間帯」というネットで得た知識をもとに、土曜の朝に内見を予約した。現地で仲介エージェントと落ち合うと、あの1600元から1800元の部屋の情報は嘘だったと告げられた。エージェントは言う。「そうでもしないとあなたはここにこないでしょう?あなたが希望する部屋はこの辺りでは3000元は出さないと見つからない。女性専用マンションは最低でもそのぐらいの家賃になります。内見に行ってみますか?」と言って、3000元の部屋のビデオを林さんのスマートフォンに転送してきた。
しかし、林さんさんは家賃は2000元以下でないと厳しいと考え、陸家嘴から少し離れた場所のマンションを紹介してもらうことにした。そして、エージェントの電動バイクの後ろに乗って、中心地から離れた場所のマンションを見に行った。
そこは拼多多式マンションだった
そこは、ネットで「拼多多式賃貸住宅」と呼ばれているマンションだった。拼多多(ピンドードー)は、激安ソーシャルECで、多くの人が同じ商品をグループ購入すると価格が安くなるというものだ。
拼多多式賃貸住宅は、部屋をパーティションで仕切って、4つまたは6つのワンルームをつくりだすというものだ。玄関を開けると、1人しか通れない細い廊下があり、その左右に6つのドアが並んでいる。ドアは全開することができず、ドアを半分開けて、体を滑り込ますように出入りをしなければならない。
部屋は狭いが、ベッドがあり、小さなキッチンとシャワールーム、トイレはついている。今まで住んでいた学生寮を考えれば、一人の独立した部屋になっているだけマシだった。
それから何件かの物件を見て回ったが、2000元の予算では、どこもこのような拼多多式しかなく、林さんはあきらめて、その中でもまともに感じる部屋を契約した。
隣の生活音がすべて聞こえる
しかし、数日住んでみて、とても暮らせないことがわかった。仕切られている壁は簡単なパーティションであるため、隣の音がまるまる聞こえるのだ。左のお隣さんは毎日夜12時からシャワーを使い、それから20分近くドライヤーを使う。その音が、壁があるとは思えないほどよく聞こえる。その音が収まり、ようやく眠れると思った瞬間、今度は右のお隣がシャワーを使い、ドライヤーを使う。右のお隣は、それから夜食をつくるようで、中華鍋を振る音が聞こえてくる。林さんは密閉式ヘッドフォンを購入し、寝る時はヘッドフォンで音楽を聴くようにした。
シェアルームに憧れる新社会人
同じように大学を卒業した桜さんは、独立した部屋を借りることをあきらめ、シェアルームを探した。ドラマなどの影響で、社会人になってシェアルームで暮らすことに憧れのような気持ちもあった。SNS「小紅書」(シャオホンシュー)では、シェアルームの募集の記事が山ほど見つかり、おしゃれな部屋の写真が掲載されている。
桜さんは、不動産仲介エージェントは人を騙そうとしてばかりいると感じ、自力でSNSでルームメイトを見つけ、シェアルームを見つけた。相手も女性で、部屋はとても素敵で清潔に保たれている。周囲の環境も申し分がなかった。唯一の不安は、二人のベッドが並べられていて仕切りもないことだった。見知らぬ人と同じ部屋で暮らすことはできるだろうか。そこだけが心配だった。
ルームメイトとの生活感覚が合わない
実際にルームメイトに会って、部屋を見せてもらうと、桜さんはここが自分の居場所だと感じた。ルームメイトもすごくいい人で仲良くなれそうだった。部屋のバルコニーからは上海の近代的な街並みが見える。新しい生活に期待が膨らんだ。
しかし、その期待は住んでみるとすぐに失望に変わった。ルームメイトは朝5時に目覚ましをかけているが、起きない。小さな音が鳴り、それから大きな音になる。そこで起きてくれればいいのだが起きない。5分後にスヌーズされて再び目覚ましが鳴る。それでも彼女は起きない。起きてしまうのは桜さんの方だった。
ルームメイトは性格のいい人だったが、フランクすぎる人だった。シャワーを浴びる時、桜さんのシャンプーやリンスを勝手に使ってしまい、桜さんのドライヤーを使う。冷蔵庫に入れておいた桜さんのスイーツなどはしばしば勝手に食べられてしまう。文句を言うと、ルームメイトはそれぐらいのことでどうして怒るのかと言う顔をしている。悪気はないのだが、生活感覚が桜さんとはまったく合わない。桜さんは独立した部屋を探しているが、なかなか同程度の家賃負担では見つからない。できるだけ外で過ごし、部屋には寝るだけのために帰る生活を送っている。
カフェにいる居場所のない若者たち
大都市では多くの若者が夜遅くまで、カフェや飲食店、公園などにいる。それは一見、大都市の繁栄を表しているように見えるが、実態は、家に帰っても居場所がないということでもある。狭い部屋にいると、鬱々としてきてしまうために、外で過ごす時間を多くしているのだ。若者たちは、大都市に根をおろすことができず、みな漂流しているような気分で大都市で生きている。