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生産者と消費者を直結させ小売価格を再定義した拼多多。アリババは「タオバオ特価版」で対抗

急成長してきたソーシャルEC「拼多多」が、MAUでは上位のタオバオや京東に肩を並べ、上位3つのECは明確な順位がつけづらくなってきている。拼多多の躍進の鍵は、地方生産者と地方消費者を直結させ、小売価格の概念を一変させてしまったことだ。この勢いに、アリババは「タオバオ特価版」を新設して対抗しようとしていると人人都是産品経理が報じた。

 

急成長したソーシャルEC「拼多多」の天地人

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の2020年の年間アクティブユーザー数が7.884億人に達した。これは人口14億人、有効消費者数10億人と言われる中国市場で、天井に到達しようという数字だ。

都市部の経済的に余裕のある消費者を主なターゲットにしたアリババの淘宝網タオバオ)、京東(ジンドン)などが成長の限界を迎える中で、ECの第三極にまで急成長した拼多多には「天の時、地の利、人の和」の3つが会ったことが成功の要因だと言われている。

天の時はタイミング。都市部でECが浸透し、成長に限界が生じていた頃、地方都市や農村の消費者は、都市部のECを指を加えて眺めているしかなかった。そのタイミングで、拼多多は激安商品ながら、地方都市や農村の下沈市場に「ECで買い物をする楽しみ」を提供した。

地の利は、地方の企業と地方の消費者を結びつけたこと。地方の企業は、都市部の企業と比べて製品の品質が大きく劣るわけではない。しかし、全国展開をするリソースやノウハウを欠いているため、地方市場に甘んじており、ビジネスが拡大できないため、品質向上にも手が回らない。拼多多は全国の地方企業の製品を、全国の地方の消費者に提供する仕組みを構築した。これにより、地方企業のビジネスが大きく拡大をし、品質も向上してきている。

人の和は、SNSでの商品情報の拡散だ。拼多多はSNS「WeChat」と密接に連動するようになっており、また、購入者が増えれば増えるほど安くなるまとめ買いの仕組みをフックにして、消費者自身が商品情報を拡散してくれる。これにより、地方企業は広告宣伝費の大幅削減と商品が大量に売れるというメリットを享受できる。

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▲激安価格で地方から都市へと利用者を広げてきた拼多多。多くの商品が10元(約160円)という値段。

 

拼多多と成長過程が似ているタオバオ

拼多多の成長に最も怯えているのはタオバオではないかと見られている。なぜなら、タオバオと拼多多は、その成長過程が似ているからだ。拼多多は現在でも、低品質商品や場合によっては偽物商品と戦っている。そこから、「貧乏人のEC」などと悪口を言われることもあるが、実はタオバオも同じような歴史をたどってきた。タオバオは劣悪商品や偽物商品を販売する業者に厳しく対処し、次第に大規模業者にリソースを集中させることで、この問題を克服してきた。このことにより、次第にタオバオの居心地が悪くなっていった地方の小規模業者は、成長株の拼多多に乗り換える事例が増えていった。それにより、タオバオ(淘宝とは宝探しの意味)本来の「こんな商品まで売っているのか」という楽しみは小さくなっていった。それが成長の限界を迎える原因になっている。

タオバオは、2016年Q2以降、流通総額(GMV)というECとしては、最も重要な経営数字の公表をやめている。成長が止まっているというイメージが消費者の間に広がるのを避けるためではないかとも言われている。

 

大規模キャンペーンで、一気に大都市に進出した拼多多

一方、拼多多はこの問題をうまく切り抜けている。2019年から「百億補助」キャンペーン、2020年からは「9.9元搶購」キャンペーンを始めている。百億補助は数量限定、9.9元搶購はオークションと抽選で、激安価格で販売をするというものだが、その商品はiPhone 12や話題になっている五菱の宏光MINI EVなど、多くの人の目を惹く人気商品だ。

これにより、都市部の消費者も拼多多に注目するようになり、また、「安物の劣悪商品ばかり」という悪いイメージの払拭に成功している。

 

アリババはタオバオ特価版で対抗

ECトップのアリババが拼多多を意識するのは当然だ。第2位の京東は、家電製品の販売が主力であり、しかも、自社で仕入れをし、自社で配送するという品質重視のECであるため、拼多多と市場が重なっていないが、アリババのタオバオは、拼多多のキャンペーンによって、完全に市場が重なる正面衝突の状態になろうとしている。

そこで、アリババが打ち出したのが、「タオバオ特価版」だ。タオバオをTmallとタオバオに分割して、Tmallはブランド製品、タオバオは日用品という棲み分けをしたように、さらにタオバオ特価版を新設して、激安商品をこちらで販売し、拼多多に対抗しようというものだ。

販売業者の母体となっているのは、日用品の巨大卸売り市場が集中する浙江省義烏市で、義烏市から5000以上の業者が参加をし、さらに広東省東莞市の販売業者も加わり、7300以上の業者が参加をしている。

8.9元の保温マグカップ、4.9元の口紅、9.9元の電動歯ブラシなどが人気商品で、拼多多の「9.9元」(約160円)を意識した価格設定で、いずれも1日に1万個以上が売れている。

このタオバオ特価版の効果は大きかったと思われる。2020年3月に登場して、わずか90日間で月間アクティブユーザー数(MAU)4000万人を達成した。タオバオ利用者が流れ込んでくるとは言え、すさまじい立ち上がりだ。拼多多がMAU4000万人に達するのには21ヶ月かかっている。

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▲アリババが始めた「タオバオ特価版」。浙江省義烏市の卸売業者と協力して、激安価格の商品を販売をしている。

 

小売価格の再定義に成功した拼多多

拼多多が革命的だったのは、市場価格を再定義したことだ。例えば、一般的なサングラスは、中国の地方企業が製造をすると、出荷価格は20元から50元(約830円)程度になる。地方企業の利益は15%程度なので、20元の納入価格であれば3元程度になる。しかし、卸しや流通を経るうちに、このサングラスは2000元から5000元が市場での小売価格になる。価格は100倍にもなってしまう。

もちろん、現在は希望小売価格そのままで購入する人は稀になっている。何らかの割引セールやクーポンを使ったり、卸から枝分かれをするルートで安く買おうと考える。また、途中の業者は何もせずに中抜きだけをしているわけではなく、商品が全国に行き渡るように流通を制御する業務をしている。

このような中間卸を整理していく価格破壊が90年代から始まった。00年代にはECが登場し、価格破壊を加速した。しかし、拼多多は工場と消費者を直結させてしまう。サングラスは20元で売ることができ、工場は3元しか儲からないといっても、1日に1万個が売れるので、毎日3万元の利益が出ることになる。出荷価格=小売価格となり、卸売価格などの中間価格は存在しない世界だ。

これは歴史以前の、人類が商取引を始めた時の仕組みに近い。生産者が、市場で消費者と直接取引をする。それ以降、商品販売を拡大させるために、中間業者が必要となり、流通は複雑になり、価格は上昇し続けてきた。20世紀以降、テクノロジーを使って、この複雑な価格と流通の仕組みをシンプルにしようという大きな流れが始まっている。

拼多多は、そのトレンドを究極まで追求したECだ。そして、ここにタオバオ特価版が参入をした。中国製品の価格の安さには多くの人が驚いてきたが、中国の価格破壊はさらにもう一段進むことになる。