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話題になるラッキンとクーディーのカフェ競争。その裏で、疲弊をするスタッフたち

クーディーが8.8元、ラッキンが9.9元という大幅割引をするカフェ競争が話題になっている。しかし、その背後で、加盟店オーナーは利益がでず、店舗スタッフたちは疲弊をしているとIT時報が報じた。

 

競争するラッキンとクーディーの因縁

カフェ競争が熾烈になっている。今年2023年10月の段階で、瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin)は1万2000店舗を突破、新興の庫迪珈琲(クーディー、COTTI)が5600店舗突破と、両社の競争が激化をしている。店舗数だけではなく、クーディーが8.8元のキャンペーンを始めると、ラッキンは9.9元のキャンペーンを始め、価格競争にもなっている。

ラッキンとクーディーには浅からぬ因縁がある。ラッキンを創業したのは、陸正耀(ルー・ジャンヤオ)と銭治亜(チエン・ジーヤー)の二人で、わずか2年でスターバックスの店舗数を上回り、米ナスダックに上場するという大成功をした。しかし、2020年に一部の取締役と株主が株価を釣り上げるために不正会計を行なった。これにより、上場廃止になるという危機を迎えた。

利用客はラッキンのモバイルオーダー+テイクアウトという利便性やコーヒーの味に惹かれていたため、業績としては小さな停滞程度で済んだが、創業者の二人は責任をとってラッキンを辞職し離れることになった。

しかし、2022年10月に、創業者の二人は新しいカフェチェーンを立ち上げる。それがクーディーであり、スタッフはラッキンの創業チームを再結集した。そのため、ネットでは「クーディーはラッキンに復讐をしようとしている」と面白おかしく取り上げられ、クーディーもそれを肯定はしないものの否定はせず、一気にクーディーの名前は知れ渡った。クーディーがラッキンにどこまで迫れるのか、ネット民たちは注目をしている。

▲クーディー(左)とラッキン(右)の激しい競争が続いている。クーディーには「ラッキンの創業者が8.8元でコーヒーをごちそうします」と書かれている。

 

急速拡大の武器はフランチャイズ展開

その武器となっているのが、フランチャイズと優待キャンペーンだ。両社ともにフランチャイズを大々的に募集をし、高速での店舗展開を行なっている。また、10元以下になるクーポンを大量に販売し、優待価格で顧客を惹きつけようとしている。

しかし、この戦術は、フランチャイズ加盟店に大きな負担となる。多くのカフェで、販売数が1日500杯を超える。1時間あたり50杯近くなる。つまり、1分+αの時間で1杯のコーヒーを完成させて、販売しなければならない。スタッフは、話をする暇もなく、食事どころか、休憩をする暇もなくなってしまう。

▲クーディーもスタンド店が中心で、モバイルオーダー+テイクアウト/デリバリーというスタイルは、ラッキンと同じだ。

 

負担が小さくない加盟店オーナー

また、収入の点でも加盟店は大きく圧迫をされている。雲南省昆明市の李さん(仮名)は、資金に余裕があったため、クーディーのフランチャイズに加盟することを考えた。クーディーのフランチャイズになるには、標準店で30万元(約610万円)、スタンド店で23.5万元の初期費用がかかる。しかし、ここには家賃と人件費は含まれていない。クーディーからは、李さんの店舗は12ヶ月で投資資金が回収できると見積もられたが、それは初期費用の回収であり、毎月2万元の家賃と人件費が必要であるため、李さんは2年から3年は最低でも営業を続けないと資金は回収できないと見ている。

▲クーディーの加盟条件。標準店では30万元(約610万円)の初期費用が必要になる。

 

低価格キャンペーンがさらに加盟店の負担に

その中で、8.8元や9.9元という優待価格のキャンペーンは、加盟店にとって非常に厳しい試練となる。その価格で販売をした場合、本部から補助が出るが、正規価格との差額をすべて補助してくれるわけではなく、優待価格で何杯売っても損失は出ないものの利益もない。一方、大量に売れるため、人は増やさなければならず、人件費は上昇をする。

さらに恐れているのが、このキャンペーンの終了後だ。正規価格に戻れば客流が大幅に減少をするのは明らかだが、どのくらいの顧客が正規価格でも購入してくれるのか見通しが立たない。加盟店オーナーは、不安の中で、忙しい日々を送っている。

 

店舗スタッフも疲弊をしている

その皺寄せは、店舗スタッフに押し付けられることになる。上海市のラッキンの直営店で店長をしていた何さん(仮名)が、IT時報の取材に応えた。店長と副店長は、ラッキンに直接雇用される。「時給契約で1時間29元、最低保証月給は167時間分ですが、最大でも200時間を超えることはできません」。つまり、月200時間働いた場合の月収は5800元(約11.8万円)となり、上海では決していい給料とは言えない。むしろ、低い方だ。しかも、200時間(月25日稼働で1日8時間)以上は、仕事をしても給与が出ず、実際はかなりのサービス残業を強いられている。

もっと厳しいのは、店舗スタッフだ。店舗スタッフの時給は、経験にもよるが、店長の2/3程度であり、しかも直接雇用ではなく、自営業者として店舗と契約をして働いているという建て付けであるため、「五険三金」(社会保障費や手当て)などもない。中国の法律では、被雇用者には五険一金を提供することが定められているが、これを回避するために、自営業者としての契約になっている。

この店舗は、午前7時開店で午後9時まで営業をするが、朝シフトのスタッフは6時半までに出勤しなければならない。また、スタッフは1日12時間以上働くことは許されず、8時間勤務となっている。しかし、多くのスタッフが不満に感じているのは、1日1時間から2時間程度の休憩時間が必要であるのに、本部はこの休憩時間をまったく考慮していない。

優待キャンペーンの時期は行列ができるほど忙しくなり、多くのスタッフが食事も裏で立ったままとる程度で、毎日12時間働いている。

 

終わりが見えないチキンレースになっている

クーディーに関しても、店舗スタッフに五険一金が提供されていないという報道があり話題になった。ラッキンもクーディーも店舗スタッフは同じような状況に置かれている。本部も資金を消耗し、加盟店は初期投資の回収期間が伸び、店舗スタッフは疲弊をしている。このような戦いがいつまでも続けられるはずはない。どこかで優待キャンペーンをやめて、通常の営業に戻す必要があるが、ラッキンとクーディーは一騎打ちの状況となり、先に引いた方が負けというチキンレースとなり、引くに引けなくなっている。

この戦いの影響で、近隣のカフェやインスタントコーヒーの売上は大きく下がり、同業者も疲弊し始めている。しかし、出口はまったく見えない状況が続いている。