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今回は、若者から注目されている新職業についてご紹介します。
中国の失業率が下がり始めています。2022年は、感染再拡大やリベンジ消費の不発が重なり、失業率は22年4月に6.1%という高いものになりましたが、それ以降下がり始め、現在は5.0%で落ち着きを見せています。
▲全国の失業率と31大都市の失業率の推移。失業は大都市で起きていた。国家統計局のデータより作成。
全国の失業率と31大都市(直轄市と省都級都市)の失業率を比較すると、22年5月には31大都市失業率が6.9%になるという危機的状況になりましたが、これも下がり始め、現在は全国失業率と同じ5.0%に落ち着いています。まだまだ予断は許さないものの、当面の危機は過ぎ去ったと言っていいかもしれません。
このグラフからわかるのは、これまでの高い失業率が大都市由来のものであったことです。
別の角度からも同じような状況が見えてきます。次は、本地戸籍失業率と外来戸籍失業率の比較です。
▲本地戸籍の失業率と外来戸籍の失業率の比較。失業は外来戸籍人口で起きていた。国家統計局のデータより作成。
本地戸籍とはその都市の戸籍を持っている人がその都市で働いていることです。一方、外来戸籍とはその都市以外の戸籍を持っている人が働いている場合です。北京の人が上海で働いている場合も含まれますが、多くは農村や地方都市の生まれの人が、大都市に上京をして働いている場合です。農民工がこのような外来戸籍組の中心で、多くの場合、デリバリーやライドシェアなどのプラットフォームビジネスで働くことになります。
本地戸籍の失業率はそう大きくは変化していません。外来戸籍の失業率は22年は高止まりをしていましたが、23年に入って減少をし始めました。現在は、本地戸籍の失業率も外来戸籍の失業率もほぼ同じ5.0%前後で落ち着いています。
つまり、中国の失業問題の中心は、「大都市に出てきた農民工、地方出身者が職を得られなかった」ということにあったということができます。
これが落ち着きを見せたのにはさまざまな要因があります。ひとつは、現在の中国の経済状況は好況でないのは明白ですが、不況と言えるほどまで深刻な状態ではなく、落ち着きを見せて始めているということがあります。「vol.203:コロナ禍、物価高騰、消費不況が連続して襲う飲食業。火鍋チェーン「海底撈」はどうやってV字回復に成功できたのか」では、飲食店がファストフード以外軒並み厳しい状況になっているという状況をご紹介し、その理由は住宅価格の低迷にあるという見方もご紹介しました。その一方で、個人消費である社会消費品小売総額、ネット小売総額が、2021年、2022年と比較して落ちていないということもご紹介しました。
▲社会消費品小売総額とネット小売総額の推移。社会消費品小売総額は、1月と2月は発表されないため、グラフが途切れている。
この辺りの状況もデータで裏付けをしてご紹介したいと思い、資料を集めている最中ですが、「消費のダウングレード」が起こり、無駄なものは買わない、同じものであれば安いものを買うという節約志向が進む一方で、若者の趣味消費や国内旅行、娯楽といった体験消費は伸びています。これにより、全体の小売総額は現状維持ができている状況です。
つまり、「お金を使わなくなる=支出を抑える」タイプの節約ではなく、「コスパを考える」タイプの節約が起きているのではないかと思われます。
失業率が低下をしたもうひとつの理由は、新職業へ人を移動させる政策が徐々に効果をあげてきていることがあります。
例えば、人工知能訓練師という新しい職業が注目をされています。前回の「vol.204:進む生成AIのビジネス応用。対話型AIが嘘をつく問題にもさまざまな解決策が」でもご紹介しましたが、中国は自動運転と生成AIの分野でビジネス応用が非常に進んでいます。百度はすでに北京市など複数都市で無人運転タクシーの営業運転を始め、華為(ファーウェイ)はAITO(アイト)の乗用車「問界」(ウェンジエ)「智界」(ジージエ)にL2+の自動運転機能を搭載しています。L2自動運転は、人間が運転主体となり、必要があると感じたら自動運転に介入する必要がある部分運転自動化ですが、都市部の一般的なシーンでは、ほぼ人間が操作をする必要がなくなっています。テスラのFull Self Driving(FSD)の強力なライバルになっています。
つい最近、智界のオートパーキング機能の様子がSNSで拡散をして大きな話題になりました。オートパーキングといっても、駐車スペースのすぐそばからオートパーキングさせるものではありません。オフィスビルの100台以上は駐車ができる大きな駐車場で、人間用の通用門のあたりで、人間は下りてしまい、オートパーキングを命令します。すると、車は駐車場を巡回し、空いているスペースを自分で探して、そこに駐車をするというものです。通用門のところで、サーモン機能で召喚をすれば、車の方からやってきてくれます。もはや、どこに駐車をしたかも覚えておく必要はなくなります。
この映像で衝撃的だったのは、他車への対応も可能であることです。駐車スペースを探していた智界が、細い通路で対向車とかち合いました。人間同士であれば、どちらが下がるかで意地の張り合いが起きかねない状況です。すると、智界は自分から先に下がり、しかも、対向車がすれ違うだけのスペースが空くところで、相手の出方を待ったのです。対向車がすれ違うと、智界は再び前進をし、空きスペースの探索に戻りました。相手の運転手が、無人運転であることに気づいたかどうかはわかりませんが、きっと「ずいぶんとマナーのいい運転手だな」と思ったことでしょう。
https://www.douyin.com/video/7304898853373758720
▲智界S7のオートパーキングの様子。大きな地下駐車場で、自分で空きスペースを探して駐車をしてくれる。さまざまな自動車メディアが検証動画を公開している。
このような決め細いAIの判断を裏から支えているのかが人工知能訓練師の存在です。開発直後のAIは赤ちゃんの頭脳のようなもので、学習をさせなければ何もできません。しかし、AI開発で大きな課題になっているのが、この学習素材の不足問題です。特に自動運転では、大量の道路映像情報が必要で、しかも道路幅や見える物体のラベリングがされていなければなりません。このラベリングもいずれAIが行うことになりますが、現状では人間が判断をしてラベリングをしてやる必要があるのです。
例えば、対象物が移動物であるか設置物であるかを判断することは自動運転にとってきわめて重要です。郵便ポストや配電盤などの設置物であれば自動運転車は無視をして走行できますが、人や自転車などの移動物である場合は、移動予測を行い、運転戦略を更新する必要があります。特に、移動物を設置物だと間違って判別してしまった場合は、悲惨な事故につながりかねません。2018年3月に、ウーバーの自動運転車がアリゾナ州で起こした死亡事故は、自転車を押して歩いていた人を動かない設置物だと誤判別したことから起きたものです。
このようなことが起こらないために、人がラベリングをした学習素材が大量に必要になります。百度(バイドゥ)では、このようなラベリングをするAI訓練センターを山東省済南市、山西省臨汾、重慶市鳳凰、四川省大州、甘粛省酒泉、江西省新宇など10ヶ所に設置し、ネットを介したクラウドソーシングも含め、5万人人工知能I訓練師が働いています。AIはこれまで人が判断していた作業を自動化する仕組みですが、そのAIを開発するためには膨大な人手が必要になるのです。
中国は、この大量の非構造型学習素材を必要とするAI開発に強みを持っています。前回ご紹介した漢服などのアパレルのデザイン生成AIなどは、ネットで無尽蔵に学習素材を集めることはできません。特殊な領域に特化をした学習素材はネットを使っても簡単には収集できませんし、すでに権利を所有する人は勝手に学習素材に利用されないように対抗策を取り始めています。このような分野では、学習素材を用意するのに大量の人手によるラベリングが必要となり、この点で、中国は米国よりも有利なのです。一方、ChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)など、ネットから比較的容易に学習素材が集められる分野においては、米国が圧倒的に強みを持っています。米国と中国のAI開発競争は、次第に異なる方向性を目指すことになります。
中国の人力資源・社会保障部(人社部)では、2015年に「中国職業分類大典」を発行をしました。これは中国の職業を集めた事典のようなものです。この分類大典には1481の職業が登録され、それぞれの職業にどのような技能と知識が必要であるかが定義をされています。
この職業分類は適宜追加が行われています。もちろん、削除も行われています。1999年に発行された職業分類大典と比べて、2015年版では347の新しい職業が追加をされ、894の職業が削除されました。さらに2019年以降、新たな職業の追加がほぼ毎年行われています。先ほど触れた人工知能I訓練師も2000年に新たに追加された職業のひとつです。
この職業分類大典は、単なる職業カタログであり、強制力のあるものではありませんが、それでも新しい職業が追加されるとそれが報道をされ興味を持つ人が増えます。一方、削除をされると、その職業の人は真剣にリスキリングをして別の職業に就くことを考えます。2015年版では、レコード製造工、映画フィルム複写工、皿洗い員などの職業が削除されました。削除されたからといって、その職業の仕事をしていけないわけではありませんが、後進の育成は行われなくなります。
このように国が職業カタログを示すことで、人材の流動性を高めるきっかけになっているのです。
今回は、1999年以降に追加をされた新たな職業のうち、若い世代から注目を浴びている職業についてご紹介をします。
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