中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

インドネシアでTikTok Shoppingが禁止。浮かび上がった国内産業vs中国のせめぎ合い

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今回は、東南アジアのECついてご紹介します。

 

インドネシアTikTok Shoppingが禁止になるという事態が発生しました。TikTok Shoppingについては、このメルマガの読者のみなさんには説明不要ですが、ショートムービープラットフォームのTikTokの中で買い物ができる仕組みです。商品を紹介したムービーには商品タグが表示され、タップすることで購入画面が現れ購入することができます。また、ライブ配信でも商品タグを表示することができライブコマースも盛んに行われています。

ライブコマースは中国以外では流行らないと言われていましたが、インドネシアでは定着をしようとしています。現地人の司会を使い、バラエティー番組のようなつくりにすることで、テレビ代わりに楽しむ人が増え、その中で商品を購入します。

また、本家の「抖音」(ドウイン)では、どんなムービーであっても、スキャンボタンを押すことで、ムービー中の商品をAIが認識をし、TikTok Shoppingの中にある類似の商品をリストする機能が搭載され、この機能も順次TikTokにも搭載されていく予定です。芸能人やインフルエンサーが着ている服や持っている小物を検索して購入するという使われ方が始まるかもしれません。

インドネシア政府が禁止をしたねらいは国内製造業、国内小売業の保護です。TikTok Shoppingで販売されているのは、その多くが中国製品です。今や、中国製品は安くて品質がよくなっています。インドネシアは成長を続けていますが、それでも国内製造業は中国企業には品質の点でも価格の点でも太刀打ちができません。

TikTok Shoppingが始まって2年、多くの人がTikTokで日用品を購入するようになり、国内小売業、製造業が苦しめられているというのがその理由です。

 

2023年8月、インドネシアの小規模企業大臣のテテン・マスドゥキ氏がTikTokインドネシアの責任者と会談をし、優待クーポンなどの低価格販売に一定の配慮をするように申し入れをしました。そして、9月にはTikTok Shoppingが実質的な独占状態にあるとして、禁止をする検討を始めましたが、9月23日に禁止はしないという結論をいったんは出しました。

ところが、9月25日には一転をして、TikTok Shoppingを禁止にする発表をします。その後、他のECでも、輸入品の販売は150万ルピア(約1500円)以下の商品に限るという新たな規制を発表します。

TikTok Shoppingの禁止は解かれることなく、10月4日に営業を停止することになりました。また、インドネシア政府は輸入品の検査を強化し、関税も高くする方針であることを発表しています。

つまり、中国の輸入品がTikTok Shoppingで売れ始め、それを脅威に感じた国内製造業、小売業を守るためにTikTok Shoppingを禁止にしたのです。

ところが、この処置はほとんど効果がなかったと言われています。なぜなら、多くの人が、LazadaやShoppeeといったECサイトで中国製品を買い求め、TikTok Shoppingを禁止しても、国内製品の売上はほとんど変わらなかったからです。消費者は安くていいものを求めており、国内産業を守るには国内産業の質を高める以外にないのです。

未確定情報ですが、11月11日のビッグセールに合わせて、再開するとの話もあります。その根拠となっているのは、TikTokインドネシアが、EC関係のスタッフの採用募集を進めていることです。

 

インドネシアTikTok Shoppingは、廃止ではなく、一時停止で済みそうですが、バイトダンスが懸念をしているのが、東南アジア各国への影響です。中国製品に押されて国内産業が苦しんでいる状況は、東南アジアのどの国でも同じです。そのため、インドネシアのようにTikTok Shoppingを禁止しようという動きが起きてもおかしくありません。

特にマレーシアは、禁止措置を検討していると報道されています。ネットでもさまざまな議論が起きています。禁止をすれば、マレーシアの企業を守ることができると言われているが、インドネシアの状況を見ると、結局、消費者は国内製品には目を向けてくれない。一方、TikTok Shoppingで仕事を得ている輸入業者、創作者、映像制作会社もたくさんある。TikTok Shoppingを禁止をすると、このような人たちの職を奪うだけで、国内製造業にポジティブな効果は生まれない。だったら、意味がないのではないかという議論が起きています。

マレーシア政府では、インドネシアの状況をよく調査し、その後、TikTokマレーシアの責任者と会談をするということになっています。

 

ベトナムでは、すでにTikTokに対する調査を始めています。ただし、ベトナムの場合はTikTok Shoppingの問題よりも、TikTokそのもののコンテンツ内容に問題を感じているようです。不適切なコンテンツが多く、特に未成年のプライバシーが守られていないことを問題にしています。ベトナム政府は、TikTokに対し、国内の児童保護基準を遵守するように要請し、そのような不適切なコンテンツが公開されないようにする処置をTikTokに求める予定です。

 

タイ工業連盟(FTI)は、タイ産業省に対して、製品と販売の基準を監督する機関を設立するように求めています。中国製品が大量に流入しないようにするためです。特に、すでにタイの国内産業は、中国製品と価格競争をしても太刀打ちをすることができず、中国の過度に低い価格設定を調査し、不適切な低価格製品は輸入をさせないようにすることが必要だと訴えています。

 

TikTok Shoppingの禁止は、インドネシアだけのことでなく、東南アジア各国に共通する課題になっています。

この問題が難しいのは、どの国の政府も、TikTokにとっては理不尽な処置であることは重々わかっていることです。消費者は圧倒的に安くて性能のいい中国製品を求めています。しかし、だからと言って、市場原理に任せていたら、国内産業は成り立たず、すべての企業が中国企業の下請けになってしまいます。せっかく、経済成長が始まったのに、利益はすべて中国に吸い取られてしまうことになります。東南アジアとしても、将来を決める重要な時期に差し掛かっています。表面的な経済成長を手に入れる代わりに中国の属国になってしまうか、それとも苦しくとも国内産業を成長させて中国に対峙できる力をつける道を選ぶかの選択をしなければなりません。

 

コロナ禍が始まった時、中国の投資家たちの動きは非常に機敏なものでした。2020年の武漢封鎖を見れば、中国経済が大きな落とし穴に落ちたことは明らかでした。楽観論では半年で終息をすることになっていましたが、数年にわたる可能性もありました。そこで投資家たちはすぐに東南アジアに目を向け、一時期は盲目的とも言える投資を行いました。中国から東南アジアにヘッジをするためです。

2022年の後半には、ほぼ投資を完了し、今では東南アジアの成長する企業のほとんどに中国資本が入っています。政治的にはまた話が別になりますが、経済的にはすでに東南アジアは中国の衛星国といってもいい状況になっていて、他国が今から参入するのはきわめて難しい状況になっています。

そして、今、中国の影響力に屈服をするのか、それとも独自性を維持するかのせめぎ合いが始まっています。それが具体的に現れたのがTikTok Shoppingの禁止事件です。TikTokそのものに問題があるというよりも、急速に利用者数と流通総額(GMV)を伸ばしているTikTokが中国ECの象徴として扱われました。

 

以前、「vol.035:新中華圏が構築されつつある東南アジアITビジネス」「vol.069:インドネシア苦戦をするアリババ。発想力で抵抗する地元系スタートアップ」「vol.135:急速に変化する東南アジア消費者の意識。アジアの食品市場で起きている6つの変化」などでも東南アジアのことを扱い、私を含めてですが、私たちの東南アジアのイメージは昔のままであり、アップデートされていないということをお伝えしました。もちろん、郊外や農村は、昔のイメージそのままの「癒しの東南アジア」ですが、都市部はさま変わりをしています。ライドシェアはもはや日常のものとなり、デリバリーも都市によりますが、食品だけでなく、ECで購入した商品も30分から1時間で配達してれます。銀行口座保有率やクレジットカード保有率は低いのに、スマホ決済が普及をし、多くの人がキャッシュレス決済を使っています。

生活の利便性だけを見ると、日本よりも進んでいるのではないかとすら思えるほどです。もちろん、旧インフラ=水道、電気などのようなものはまだまだ遅れていて、東南アジアの都市の方が日本よりも先進的だとは言えませんが、スマホ周りのサービスでは先にどんどん進んでいってしまっています。

そこで、今回は、東南アジアのさまざまな統計データを使って、東南アジア各国がどのくらい進んでいるのかをご紹介し、みなさんにびっくりしてもらい、私たちの中にある古い東南アジアのイメージを払拭し、アップデートしていただくというのがねらいです。東南アジアは、銀行口座、クレジットカード、光ファイバー、PCといった「旧IT」に関しては遅れていますが、スマホ決済、デジタルウォレット、モバイル通信、スマートフォンといった「新IT」に関しては、ものすごい勢いで普及をし、日本を超えている部分も少なくありません。特に、SNSの利用が中心になっており、SNSからさまざまなサービスに分岐をするという流れができあがっていて、それが東南アジアのITサービスの特徴になっています。

今回は、東南アジアのECとSNSの現状についてご紹介します。

 

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今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.197:マインドシェアの高い生活ブランドはどこか?中国に定着できている海外ブランドは?

vol.198:中国ECの過剰な消費者保護施策。消費者を守ることがECを成長させた

vol.199:映画、ドラマはスマホで撮影されネットで公開される。中国の優れた映像コンテンツ