中国の調査会社iiMedia Researchが公表した「2018中国高齢者ネット中毒スポット観測報告」によると、ネットに夢中になるのは若者だけではないことがわかった。60歳以上のネット利用者は、すでに5000万人を超え、そのうちの8.7%は、1日に4時間以上ネットを利用する「ネット中毒」とも言える状況であることがわかったと思企所思が報じた。
60歳以上のネット利用者は5800万人
中国インターネット情報センター(CNNIC)の統計によると、2019年6月時点でのの中国ネット利用者は約8.5億人。このうちの6.9%が60歳で、人数にすると5800万人を超えている。
ネットの高齢利用者が増えている理由のひとつは人口の高齢化だが、もうひとつの理由が「空巣老人」の増加だ。空巣老人とは、子どもたちが独立をして、家を出ていったため、親世代だけになった家のこと。独居老人の場合もあれば、高齢の夫婦で暮らしていることもある。子どもたちは、高収入の仕事を求めて、遠方の都市や海外にいく。そのため、子どもたちとSNSやビデオ通話をするために、ネットを使う高齢者が増えている。
▲中国のネット利用者はいまだに増え続けている。地方都市や農村で、スマホ経由で利用する人が増えているからだ。「第44回中国インターネット発展状況統計報告」(CNNIC)より作成。
▲ネット利用者を年齢別に見ると、60歳以上も6.9%いる。人数にすると5800万人を超えている。「第44回中国インターネット発展状況統計報告」(CNNIC)より作成。
スマホの進化で、ネット利用のハードルが下がっている
中国で、ほぼ誰もが使う基本アプリになっているSNS「WeChat」。WeChatペイのキャッシュレス決済機能もあり、さらにはミニプログラム(アプリ内アプリ)機能があるため、WeChatさえあれば、生活関連の用事のほとんどがすむ。
WeChatの月間アクティブユーザー数は10億人を超えているが、このうち、60歳以上の月間アクティブユーザー数は5097.56万人。全体の5.0%にあたる。
60歳以上の人全体に対するアンケート調査では、20.4%の人が「ネットを利用する」と答えている。若い世代では、ほぼ100%に近い数字になるので、高齢者の間でもネット利用が当たり前のことになったとまでは言えないまでも、少なくとも「お年寄りはネットが苦手」というイメージはもはや違ってきている。
高齢者がネットを使うようになった理由は、格安のスマホが普及をしたこと、大画面スマホが登場したこと、音声入力などのトレーニングがほとんど不要で使える入力方法が普及をしたことだ。敷居が低くなったことにより、スマホを使う高齢者が増えてきた。
▲高齢者にスマホの使い方を教えるボランティア、ヘルパーが増えている。高齢者もSNSを使って連絡をとったり、Tik TokやECでの買い物を楽しむようになっている。
半数以上の高齢者が「スマホは重要」
しかも、スマホの高齢利用者は今後急増するかもしれない。スマホを使っているいないにかかわらず、60歳以上の人の半数以上が、「スマホは重要」と考えている。「なくてもいい」と答えた人は、9.6%にしかすぎなかった。
高齢者の使いやすさを考えたUI/UXがこなれてくれば、さらに高齢の利用者が増えていくことが期待できる。
▲60歳以上の人に対するアンケート。「スマホが重要でない。なくてもいい」と答えたのは、わずか9.6%だけだった。「2018中国高齢者ネット中毒スポット観測報告」(iiMedia Research)より作成。
心配なのは、健康、交際、詐欺、デマ
一方で、高齢者は、スマホに対してネガティブな点も感じている。最も大きいのは健康面だ。肩こりや腰痛を悪化させるなどだ。次に多いのが対面交際が不足するのではないかという心配だ。さらに、気持ちの振れ幅が極端に大きくなるという精神への悪影響、詐欺に合うなどの経済問題、ネットのデマに踊らされるという生活問題などが不安視されている。
このような高齢者の不安を解消するサービスも今後多数登場している。スマホ決済アリペイでは、親子のアカウントを紐付けて、親が一定額以上の決済をしたときは、子どものスマホに通知が飛び、一定の手続きを取ることで、決済をキャンセルできる機能を提供している。
▲60歳以上は、ネット利用に対して不安も持っている。このような不安を解消する仕組みを導入することが求められている。「2018中国高齢者ネット中毒スポット観測報告」(iiMedia Research)より作成。
高齢者が使うアプリはWeChatとTik Tok、タオバオ
高齢者はいったい何にネットを使っているのか。最も多いのは、WeChatを使った連絡だが、次に多いのがTik Tokタイプのショートムービーだ。
「高齢者がTik Tokを使う」というと奇異な感じがするかもしれないが、本家中国のTik Tokや類似したショートムービー共有サービスは、すでに若者だけのものではなくなり、さまざまなムービーが共有されている。旅行やグルメ、生活情報などが多く、「若い女性のダンス映像」というのは一部でしかなくなっている。高齢者は、このようなショートムービーを見たり、動画配信サービスで、ドラマや映画を楽しんでいるようだ。
また、ECの利用も盛んで、CtoC型の「タオバオ」、低価格で購入できるまとめ買いEC「拼多多」(ピンドゥードゥー)も人気があり、タオバオでは月間アクティブユーザーの3.8%が60歳以上になっている。
朝早くから利用が上がる高齢者のネット利用
面白いのは利用時間の傾向だ。若い世代では、正午と夕食後に利用のピークがあり、利用は深夜まで続く。
一方で、高齢ネット民が朝が早い。朝6時前後から利用が始まり、正午にピークを迎える。しかし、午後の間、ずっと利用が下がらない。そして夕食後から利用が落ち始め、深夜0時をすぎると、利用は急速に減少をしていく。つまり、昼間の間、スマホを使って、買い物をしたり、ムービーを見たりしてすごすが、夕食後は本を読んだり、テレビを見たりする人も増えていく。そして、朝は早く、夜も早いということがわかる。
▲60歳上のネット利用者の1日の間の利用率。朝早くからネットを使い始め、午後の間はずっと高い。「2018中国高齢者ネット中毒スポット観測報告」(iiMedia Research)より引用。
今後も高齢者のネット利用率は上がっていく
都市部では、50歳以下の人は100%に近い人がスマホを使っている。農村部でも、スマホ利用者は半数を超え、全体では70%前後の人がスマホを利用している。このような若い世代が、将来、高齢になったらスマホを放棄するとは思えないので、高齢者のスマホ利用者は今後も右肩上がりに上がっていくことになる。中国では、スマホが国民インフラになろうとしている。