中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中高年にも広がる「テレビよりショートムービー」の波。1日8時間見続ける高齢者も

中国人は1日に1.39時間スマホでショートムービーを楽しむ。以前のテレビ視聴がショートムービーに置き換わろうとしている。この習慣は、中高年、高齢者にも広がり、あまりの依存ぶりに心配をする家族も出てきていると么感科技が報じた。

 

スマホが変えた映像との付き合い方

QuestMobileが公開した「2022中国モバイルインターネット春季大報告」によると、中国のモバイルインターネットの月間アクティブユーザー数は11.83億人になった。約14億人の人口の中国で、子どもや高齢者を除けば、ほとんどの人がスマートフォンを利用しているということになる。

スマートフォンの登場は人々の生活を大きく変えたが、最も大きな変化をもたらしたのが、映像の視聴方法だ。以前は、映像はテレビかPCで見るのが当たり前だった。しかし、テレビは固定されたデバイスで持ち歩くことはできない。PCは持ち歩くことはできるかもしれないが、映像を見るにはネット回線の確保や電源の確保の問題がある。

映像はスマホで見られるようになって、初めて「いつでもどこでも見られる」状態になった。これにより、スマホは「電話をするデバイス」から「映像を見るデバイス」になっていき、特にショートムービーが人気となり、多くの人が見るようになっている。

 

ショートムービーがテレビ番組に取って代わっている

中国インターネット情報センターが公開した第49回「中国インターネット発展状況統計」によると、2021年12月時点でのショートムービー利用者は9.34億人になっている。これはネット利用者の90.5%の人が使っていることになる。

ショートムービーは1本あたりは15秒程度で短いが、リコメンドエンジンの性能などが競われるようになり、利用者の嗜好に合わせたムービーが次から次へと出てくるようになっている。これで気がついたら数時間も見ていたという人が多い。ショートムービーは非常に粘性が高いコンテンツになっている。

▲今や高齢者だからスマホが使えないということはなくなりつつある。さまざまなアプリを使いこなすことハードルが高くても、ひとつのアプリを使うことならできる。テレビや新聞ではなく、ショートムービーを見る高齢者が増えてきている。

 

ショートムービーの利用時間は1日1.39時間

QuestMobileが公開した「2021中国モバイルインターネット年度大報告」によると、ショートムービーの利用時間は全体の利用時間の25.7%を占めるようになっている。2022年Q1のネット利用者1人あたりの月平均利用時間は162.3時間なので、ショートムービーを見ている時間は月41.71時間となり、1日あたりにすると1.39時間となる。

 

中高年にも広がるショートムービー視聴

これはショートムービー利用者の若者が利用時間を伸ばしているだけでなく、中高年もショートムービーを見るようになっている結果だ。

中商産業研究院が公開したデータによると、バイトダンスの「抖音」の利用者の中で50歳以上の利用者は8%前後であり、60歳以上の投稿者は累計で6億本のショートムービーを投稿している。全体の割合から見ればまだ小さいものの、中高年が視聴者としても投稿者としても一定の存在感を示すようになってきている。

それだけでなく、ショートムービー中毒になる高齢者が話題になりつつある。Q&Aサイト「知乎」(ジーフー)で、「親がスマホに夢中になりすぎているのですが、どうしたらいいでしょうか?」と質問が投稿され、256の回答が寄せられ、92万回閲覧された。

83歳の高齢者が転倒して病院に運ばれた。彼が息子に最初に頼んだのは自分のスマホを持ってきて欲しいということだった。入院中、指に心拍モニターを付けられた。すると、スマホが使えないので外しれくれないかと頼んだという。

ある65歳の高齢者がショートムービーに夢中になってしまって、毎日8時間以上も見ている。寝る時間も遅くなり、深夜の1時頃までスマホを使っている。家族がいさめても、「スマホを買う前は、同じぐらいの時間を新聞を読んだり、テレビを見たりしてすごしていた。何が違うのだ」と反論されたという。

このような高齢者のスマホ中毒に、同居する息子、娘たちが悩みを打ち明ける投稿が増えてきている。

▲58歳の王秀梅さんは、趣味の手芸で作った作品をライブ配信で紹介をしている。売るつもりはなく、若い人たちから「いいね」をされることが何よりも楽しみになっているという。

 

孤独感を忘れさせてくれるショートムービー

このようなショートムービーの流行に対して批判的な意見を持っている人は多い。まったく生産的でなく、時間を無駄にしている。中高年の場合は視力だけでなく、健康にも悪い影響を与えている。

このような意見には一定程度の真理がある。ショートムービーに夢中になるあまり、仕事が疎かになり、仮想の世界に慰めを求め、現実の生活を困難にしてしまうこともある。

もちろん、過度に依存をすることは問題だが、若者も中高年も、多くの人は適度な利用をしており、ショートムービーに慰めを求め、現実の仕事に臨むという、一種の精神安定剤のように使っている。

特に、多くの中高年は孤独だ。子どもたちは独立をし、一人かあるいは同年代の連れ合いと暮らしている。生活にはほとんど変化がない。そこにショートムービーが登場をして、自分が好きなジャンルのムービーを見つけることで、孤独感を排除し、生活に潤いを与えている。

 

世間を知るための窓にもなっている

さらに重要なのが、中高年にとって、ショートムービーは世界を知る、若者の世界を知るための窓になっていることだ。現代の現実の世界、ネットの世界は、多くの中高年にとって未知のものであり、以前はこのような新しい世界に触れる窓が存在しなかったため、中高年はより孤独になっていった。しかし、現在はショートムービーを通じて知ることができ、それがきっかけで現実の世界で現実の現象に触れようとする中高年も増えている。以前の中高年は、時代に取り残されていく世代だったが、今では自分次第で時代に伴奏できる世代になっている。