テック企業が運営する社区団購が調整の時期を迎えている。不採算地区でのサービスを停止するだけでなく、現場の報酬カットなども始まっている。現場の待遇が悪化することにより、モラル低下が起き始めている懸念があると淮河雨が報じた。
業績低迷でも従業員の待遇は悪化をしていないテック企業
アリババ、テンセント、京東(ジンドン)、美団(メイトワン)、拼多多(ピンドードー)など、中国テック企業の停滞が報じられている。株価は下落をし、リストラの報道も続いている。
しかし、就活サービス「脉脉」によると、2021年のアリババの平均月収は3.35万元(約68.2万円)で、テンセント、バイトダンスも3万元を超えている。さらに、テンセントの年末ボーナスの平均額はは20万元(約407万円)、アリババも17万元になっている。従業員たちの待遇は悪化をしていない。
問題となる現場の派遣労働
しかし、社区団購など、近年のテック企業はO2O、OMOビジネスに進出をしている。このようなビジネスの現場では、低賃金労働を強いられている労働者がいて、テック企業の本体の待遇と比べると天と地ほどの開きがある。
社区団購で注文が入ると、倉庫に納入された生鮮食料品を規定の量に小分けしなければならない。このような現場の労働者は、労働者に必要な保険、手当すら支給されないような環境で働いている。大手テック企業の社区団購の仕事をしているのに、テック企業の社員ではなく、派遣会社に所属をし、テック企業子会社に派遣をされているという体裁であるため、本体とはまったく異なる報酬体系になっている。
個人事業主であるため労働者保護の対象外
派遣会社に所属をするといっても、個人事業主が業務を請け負うという体裁であるため、労働者保護の法律の適用もされない。そのため、12時間労働というのが当たり前になっている。コロナ禍で社区団購の需要が高まると、13時間から15時間勤務ということも珍しくなかった。
それでも多くの人が不満を言わなかったのは、肉体労働としては報酬がよかったからだ。時給は24元から28元(約570円)で、長時間労働もあって、月収は1万元(約20.4万円)を超える。贅沢はできないものの暮らしていくにはじゅうぶんな額だ。特に物価の安い地方都市では、庶民としては余裕のある生活が送れる額になる。
短期契約であるために更改のたびに条件が悪化
しかし、本体のテック企業の株価が下落をし、社区団購の整理淘汰という調整の時期に入ると、この現場の労働者たちの報酬が真っ先にカットされ始めた。労働契約は短期契約であり、頻繁に契約更改が行われる。そのたびに条件が下げられ、現在は時給で14元から16元程度にまで低下をしており、月収は4000元から6000元(約12.2万円)程度になっている。
決して悪い賃金とは言えないものの、12時間以上も働くことを考えると、「割のいい仕事」ではなくなっている。それでも、コロナ禍により他の仕事も少なくなっており、多くの人が社区団購の仕事にしがみつかざるを得なくなっている。
報酬は下がっても労働強度は変わらない
確かにスキルを必要としない単純労働であるため、報酬が低いのはしかたのないことだ。しかし、ビジネス全体が苦しくなっているのに、本体のテック企業の報酬は影響を受けず、末端の労働者の待遇がまず切り捨てられる。
また、賃金は下げられたが、労働時間やノルマなどの労働強度は変わらない。労働者にしてみれば以前と変わらない厳しい仕事をしながら、単価だけが下げられる。モチベーションは大きく低下をしている。
1日12時間以上も立ちっぱなしの仕事で、食事の時間とトイレに行く時間しか自由がない。しかも、食事時間は1日30分しか取られていない。
問われるテック企業の社会的責任
このような格差があるのは、社会の定めのようなもので仕方がないと言えば仕方のないことかもしれない。しかし、いったん待遇が悪化をし始めると、現場のモチベーションは急速に低下をする。つまりは、仕事に対するモラルも急速に低下をするということで、さまざまな事故が起こり始める。食品を扱っているビジネスである以上、大きな事故につながる可能性も否定ができない。
テック企業は、新しいビジネスを興している時は、社会を変え、生活を便利にし、大きな雇用を生み、社会に大きな貢献をする。しかし、そのビジネスを維持をすることができず、撤退モードに入ると、従来の安定した仕組みを破壊しただけになり、後には何も残らないことになってしまう。
テック企業の成長時代が終わり、安定成長にいかにギアチェンジをするかが課題になっている現在、テック企業の社会的責任が改めて問われようとしている。