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未来の貧困に苦しむ香港の若者たち。世界一住宅コストが高い都市で、人生設計が描けない

香港の若者たちが潜在する貧困に苦しめられている。一見、若者たちは今の生活を楽しんでいるように見えるが、それは親と同居をし、住宅費の負担が少なく済んでいるからだ。一方で、住宅を得て独立をするという人生設計が描けないと澎湃新聞が報じた。

 

低賃金の仕事は人手不足、高待遇の仕事は見つからない

コロナ禍後、どこの国の経済も傷んでいるが、その痛みは社会に出たばかりの若者に集中をしている。企業は自分自身を守るためスタッフ候補生の採用を絞り、一方ラインスタッフは人手不足が深刻で採用に苦慮をするという事態になっている。これは応募をする若者から見れば、目の前の生活を成立させるための低賃金の仕事であればすぐに見つけられる一方で、将来性があり長期で生活を安定させられる高待遇の仕事は常識外の競争率となり、なかなか見つけられないという状態だ。

生活のために低賃金労働につくしかないが、体力的に疲労し、自分の時間を持つことはできず、金銭的にも余裕がないため人生設計を描くことができない。これは、程度の差こそあれ、ほぼ世界的に起きている現象だ。

▲香港の街並みは繁栄をし、若者たちは人生を楽しんでいる。しかし、若者たちは未来の貧困に苦しめられている。

 

住宅費負担が小さく、食品に支出をする若者たち

香港嶺南大学政策研究院と文化研究発展センター、非営利団体「香港楽施会」(OXFAM)は、香港の若者の雇用と消費に関する調査を行い、その結果を発表した。対象は18歳から29歳までの仕事経験がある若者で、月収が2万香港ドル(約36万円)以下の人。合計31人の聞き取り調査と253件のアンケート調査の有効回答を得た。

若者の消費生活は一見豊かなもののように見える。香港の政府統計処のデータによると、2019/2020年の一月の平均支出は10708香港ドル(約19万円)で、大きい支出は住宅(40.25%)、食品(27.41%)となっている。

一方、この研究による若者の平均支出は、16789香港ドルと香港市民全体の平均よりも高く、最も多い支出は食品(内食、外食)で40.7%に達し、次が交通、通信、娯楽が27.0%となった。つまり、若者は住宅費負担が非常に小さい。

▲香港市民の支出の内訳。住宅費が40.3%にもなる。若者は親と同居をすることでこの住宅費負担を減らすことで、現在の生活を楽しむことができている。

 

若者は支出のジレンマに陥っている

香港の居住空間が狭いことは有名で、住宅価格と収入の比率は、ニューヨーク、東京、ソウルなどの大都市を上回り、世界一住宅費負担が大きい都市になっている。2021年の香港の国勢調査によると、市民1人あたりの住宅面積は15.9平米しかない。上海市の1人あたりの住宅面積は32.28平米で、上海のほぼ半分となっている。

このため、多くの香港市民は住宅負担が重くのしかかるが、若者層はその負担が小さく、外食や交通、通信、娯楽に多くの支出ができ、人生を楽しんでいるかのように見える。しかし、実態はそうではない。若者は支出のジレンマに陥っている。

▲香港では自分の部屋がある子どもはほとんどいない。家族で狭い部屋を共有するしかない。日本ではほとんど見かけなくなった二段ベッドも香港では普通のことだ。

 

親と同居せざるを得ない若者たち

問題は、住宅価格があまりに高すぎて、親と同居をせざるを得ないということだ。「香港青年発展ブルーブック」(香港政府)によると、25歳以下の若者の93.5%が両親と同居をしている。25歳から39歳の青年も52.7%が親と同居をしている。2016年は48.8%であったため、同居率が上がってきている。

つまり、若者は独立をして住居を構えることが難しく、親と同居をせざるを得ない。そのため住宅費の負担が少ないために、飲食や娯楽に支出できる余裕が生まれるという状態になっている。

香港の若者の日々の生活は、楽しそうに見える。しかし問題は多い。ひとつは居住環境だ。阿娟さん(仮名)のインタビューによると、姉と部屋を共有していて、2段ベッドで寝ているという。部屋にデスクは1つしかなく、それは姉が仕事のために使っているため、阿娟さんは勉強をする時はリビングのテーブルを使うしかない。しかし、その横では両親がテレビを見ており、家族は部屋が狭いことによる争いが絶えないという。

▲子どもたちは勉強するためのデスクもなく、家族の使っていない時間に食卓で勉強するしかない。部屋が狭いことによる諍いが絶えない。

 

将来の生活設計か、今の楽しさか。狭間で悩む若者たち

もうひとつの問題は、人生設計が描けないことだ。両親と同居をする若者もいつか恋愛をし、結婚をし、家庭を持たなければならない。そのためには賃貸であるにしても購入するにしても新しい家が必要となる。しかし、現在の収入ではいくら節約をしても実現するのに何年かかるかわからない状態になっている。

そこを考えて、貯蓄をしている若者もいるが、多くの若者は日々の楽しみに流れてしまう。住宅費の負担が小さく、お金を楽しみにために使ってしまう。楽しめば楽しむほど、将来の人生設計が描けなくなるが、それでも目先の楽しさを優先してしまう。香港は刺激的な都市であり、お金を消費すればさまざまな楽しみが得られる。貯蓄をせずに、得た収入を楽しみのために使ってしまう若者を、無計画だと言って責めるのは酷な話だ。若者はこのジレンマに陥っている。

 

未来が困窮している香港の若者たち

しかし、香港政府に打てる手は少ない。根本は住宅問題だが、限られた土地に多くの人が暮らす香港では、これ以上住宅を拡大することは簡単ではない。香港政府は、就職や起業などの分野で若者を支援する策を打ち出しているが、その支援が届く若者は全体の一部でしかない。

この問題が深刻なのは、若者の生活の「今」が困窮しているわけではないということだ。若者たちは、スマートフォンを使い、外食に行き、映画を見て、フィギュアを買い、タピオカミルクティーを飲んでいる。しかし、若者たちの「未来」は困窮をしている。そのため、政府も、そして若者自身も、この問題を軽視したり、場合によっては「考えたくない」と逃げてしまう傾向がある。香港の将来にとって、大きな問題がのしかかってきている。