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フードデリバリー、ライドシェア、屋台は人材の貯水池。それがあふれ始めた。深刻な若年失業率の上昇

若年失業者が増え、フードデリバリー、ライドシェア、屋台を始める人が大量に増えている。しかし、増えすぎて、就業者全員の収入が低下をし、”食えなく”なっている。失業のセーフティー装置が決壊をし始めていると財経狐頭条が報じた。

 

若年失業率が20%を突破

中国の失業率の悪化が止まらない。2023年5月の失業率は5.2%と、コロナ禍以降最悪の22年4月の6.1%よりはかなり改善されたものの、問題になっているのは16歳から24歳までの若年失業率だ。23年5月はコロナ禍以降最悪の20.8%となった。全体の傾向としても上昇トレンドにあり、改善の兆しが見えないのが現状だ。

▲中国の失業率は落ち着いているが、16歳から24歳までの若年層失業率は上昇を続け、危険水域の20%を突破してしまった。

 

セーフティネットになっていたデリバリー、ライドシェア、屋台

この失業のセーフティーネットとなっているのが、フードデリバリー騎手、ライドシェア運転手、屋台の3つで、国家発展改革委員会もこの3つの職業を「人材貯水池」と呼び、支援策を打ってきた。

この3つの職業は、高度なスキルは必要がなく、すぐにでも始められる。そのため、失業をした人はこの3つの職業についてもらい、働きながら生活を支え、余裕ができたところで就職活動をしてもらうというものだ。発展改革委員会の言う「貯水池」には、洪水を防止するための貯水施設の含みがある。実際の失業者が増えても、この3つの職業に就いてもらうことで失業率の上昇は抑えられ、失業者の生活も守ることができる。

しかし、この貯水施設が満杯となり、水が溢れはじめようとしている。

 

失業者が続々とデリバリー騎手に参入

コロナ禍前、フードデリバリーは安定した職業になっていた。平均収入は7000元から8000元(約16万円)で、大都市では厳しいものの、地方都市であればじゅうぶんに平均的な生活を送ることができる。特に2019年は各社とも直接雇用を増やすなど、労働環境を改善したため、参入する人が大きく増えた。ところが、コロナ禍に入って、増加が止まらなくなった。2022年末で美団(メイトワン)だけで624万人、ライバルのウーラマは114万人、合計738万人になっている。職を失った人が続々と入ってきているのだ。

▲フードデリバリー美団の騎手(配達スタッフ)数。労働環境が整備された2019年に大きく増加をしたが、コロナ禍に入り、失業者が流入をし、増加が止まらない。全員の収入が低下をする共倒れが起き始めている。

 

増えすぎて、全員共倒れになりかねない

これがデリバリー騎手全体の収入低下を招いている。需要は増えていないのに、騎手が増えているのだから、一人あたりの配達件数は当然小さくなる。デリバリー騎手の報酬は運んだ件数が基本となるため、収入は下がる。

さらに、デリバリー各社は、1日の配達件数や月間での配達件数に目標設定をし、その目標を達成することで報奨金をつける報酬体系を採用している。一人あたりの担当件数が下がっているため、このような目標達成率も下がることになる。このため、報酬が大きく下がり、生活に差し障りが出ている騎手も出てきている。

新たな参入者が大量に増えたために、全員が共倒れになる現象が起きようとしている。

▲フードデリバリー市場の成長率。コロナ禍に入って成長率が低迷している。コロナ禍で冷凍食品が一気に広がり、温めるだけで食事がつくれるため、内食をする人が増えたからだ。

 

地方政府はライセンス発行を一時停止

この状況は、ライドシェア運転手も同じだ。中国では網約車(ネット予約車)と呼ばれ、自家用車があれば簡単な登録でタクシー事業を始めることができる。滴滴(ディディ)などのプラットフォームを利用し、ネットで呼び出され、乗客を乗せるというものだ。

このライドシェア運転手も急増をし、生活が成り立つ「1日10件」が達成できない運転手が増えている。ライドシェアでも、目標達成による報奨金があるため、既存の運転手もこの目標が達成できなくなり、報奨金が得られず、収入を下げている。全員共倒れ状態が起きようとしている。

4月には、山東省済南市交通局が異例の発表を行った。ライドシェア市場の運転手は飽和状態になり、平均件数が10件を割り込んだという内容だ。つまり、「もう稼げなくなっているので、参入しないで」と言っている。同様の発表を四川省遂寧市交通局も行い、明確に「業界に参入することは慎重に考えるべきだ」との忠告をしている。

このような忠告だけでなく、行動に出ている地方政府もある。海南省三亜市、湖南省長沙市では、ライドシェア運転手業務をするためのライセンス発行業務を一時的に休止した。この他にも多くの地方政府で、ライセンスの発行業務が一時休止となっており、現在はライドシェア運転手を始めることもできなくなっている。

 

屋台も場所が確保できなくなった

もうひとつの屋台も、簡単な設備で、営業許可証などを取得するだけでできる簡単な商売だ。しかし、多くの地方政府が出店場所を厳しく制限しており、すでに飽和状態になっている。

そのため、夜間に空いている駐車場などを利用して、自動車のトランクをそのまま店舗にするというトランク夜市なども開催され、若者の間では人気になっているが、生活費を稼ぎ出すのは簡単ではないようだ。

▲失業をした若者の中には屋台を出す人もいる。飲食品は不況知らずであり、日銭が稼げるからだ。しかし、どの都市も屋台の出店場所が満杯になっている。

▲屋台を出す場所は厳しく制限されているため、夜間は空いている施設の駐車場をし利用して、自動車のトランクを店舗にするトランク夜市も行われている。若者の文化として定着はしてきたが、生活できるだけの売上をあげるのは簡単ではない。

 

若年失業率の改善材料が見あたらない現状

中国の失業率がこれまで低く抑えられてきたのは、民間の知恵が大きかった。仕事がなくなって困ったら、どこからか鍋と食材を借りてきて、揚げ小籠包の屋台でもやり日銭を稼ぐ。フードデリバリー騎手とライドシェア運転手は、現代の人材貯水池として機能をしてきた。しかし、あまりに失業者が増えてしまったため、この貯水池が満杯となり、溢れようとしている。

この問題を解決するのは簡単ではなく、中国は重い問題を抱えてしまった。