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驚異の1日25回転のタイレストラン「リトル・タイ」。体験記憶と視覚記憶でSNSを活用

タイ料理のファストフード店「リトル・タイ」が人気となっている。驚異の1日25回転を達成し、行列が絶えない。体験記憶と視覚記憶を用意することで、SNSで拡散しやすくするマーケティングが功を奏したと餐企老板内参が報じた。

 

中国で増え始めているタイ料理店

中国には中華料理店しかないと思っている人も多いが、近年はフレンチやアジア料理専門店も増え始めている。特にコロナ禍になってからは、海外に行くことが難しくなり、せめて料理だけでも楽しもうと考える人が増えている。

特に目立つようになったのがタイ料理店で、もはや老舗とも言える「荷花泰」(ロータス・タイ)、「暹羅泰」などが人気で、さらに2022年には「迷儞椰」(mini yeah)が60都市200店舗と急速に店舗を拡大した。

しかし、これ以上の成長はなかなか難しいとも見られている。タイ料理というのは多くの中国人にはなじみがなく、タイに行った経験がある人やタイに興味がある人に顧客層が限られることがある。さらに、客単価は60元から70元と、レストランとしては標準的であるため、一般の中華料理と競争をしなければならない。

▲60都市200店舗に拡大したタイ料理店「迷儞椰」。海外に行けない分、料理だけでも楽しもうという人が増え、海外料理店が人気になっている。

 

ファストフード化する中華

一方、中華料理の方はコロナ禍以降ファストフード化が進んでいる。麺や鍋といった単品料理を出し、30元以下でさっと食べられる。そんな中華ファストフードが広がっている。客単価は低く、利益率は低いものの、朝、昼、午後、夜、深夜と1日5回転が可能であるため、一般の飲食店よりも利益を出しやすいからだ。

 

タイ料理のファストフード化に成功した「リトル・タイ」

そのような状況の中で、タイ料理のファストフード化を成功させたタイ料理店が登場した。「小泰造」(リトル・タイ)だ。現在、河南省鄭州市で最も人が集まるショッピングモール「国貿360」にオープンし、連日、女性客を中心に行列ができるほどになっている。

店舗面積は60平米と小さいが、月間の売り上げは30万元から35万元(約700万円)、週末には1日2万元となり、何より驚くのが1日25回転するという効率のよさだ。昨2022年8月というコロナ禍の難しい時期にオープンしながら、連日盛況で、9月にはグルメガイドサービス「大衆点評」の東南アジア料理店ランキングで1位に選ばれた。

▲リトル・タイの行列。ファストフードであるので、1人30分程度で入れ替わる。そのため行列が思ったよりも早く進む。行列が絶えることはなく、1日25回転するという。

 

メニューは14種類に絞り込む

このリトル・タイは、ファストフード化を徹底している。メニューは飲み物まで含めてわずか14種類にまで絞り込んでいる。主菜は「ビーフン」「トムヤム海鮮ビーフン」「カレー海鮮ビーフン」の3種類しかない。「タイの味は、この一皿で味わえる」というスローガンを打ち出し、いずれも18元または22元で、これにサイドメニューやタイ式ミルクティーなどが加わって、客単価は30元前後になる。

さらに、外に面した場所に屋台風の販売口を設け、「チキンカレー」「ビーフカレー」「トムヤムチキン」のレトルトパックを販売している。内食と外販の2つの収入源を確保している。

単品料理であるために、来店客の滞在時間は長くても30分。多くの人が15分程度で食べ終わり入れ替わっていく。そのため、行列ができても前に進むため、行列に並ぶことがさほど苦にならない。これで驚異の1日25回転を実現している。

▲リトル・タイのメニュー。主菜は3つに絞り、調理オペレーションを効率化している。「タイの味は、この一皿で味わえる」というスローガンを打ち出している。

 

ボクシングイベントでマーケティング

さらに、リトル・タイでは面白い仕掛けを用意している。店舗のキャラクターは虎であり、ボクシンググローブをはめている。虎のキックボクサーがキャラクターになっている。

そこで、店舗横にボクシング用のサンドバックを設置した。グローブをはめて殴ることができ、その強さを計測し、毎日、毎週、毎月のチャンピオンを決定する。チャンピオンになると、飲食品の無料クーポンや最新型のiPhoneなどが賞品として渡される。

この活動に参加をできるのは女性のみだが、参加をするためにはWeChatで店舗の公式アカウントをフォローする必要がある(賞品の連絡に必要)。これによりすでに2万人以上の登録者を獲得した。女性客のストレス発散のツールとして好評であるだけでなく、マーケティングツールとしても活用しているのだ。

▲店舗外にはサンドバックを置き、パンチ力に応じてクーポンがもらえるイベントを実施。この体験記憶もSNSで拡散する要因となった。

 

視覚記憶+体験記憶でSNSへの投稿率があがる

このようなサンドバックだけでなく、店内のインテリアも、ボクシング会場を抽象化し、記憶に残りやすいものになっている。これもマーケティング戦略として専門家からは高く評価された。店内インテリアなどの視覚記憶、そしてサンドバッグを殴るという体験記憶の2つを重ね合わせることで、SNSへの投稿率が上昇することが知られているからだ。サンドバッグを叩き、ボクシングのリングのようなインテリアの中で食事をし、タイのカレーやトムヤムといった強い味覚記憶のある料理を食べた女性は、小紅書(シャオホンシュー)などのSNSに写真などを投稿することになる。これがプロモーションとなり、新しい顧客を惹きつけることになる。

▲リトル・タイの店内。ボクシングがテーマになっており、来店客に視覚記憶を与える。これがSNSで拡散する要因のひとつになった。

 

SNSと親和性のある女性をターゲットに

リトル・タイは、女性客をターゲットにした店舗になっているが、創業者の趙衛光(ジャオ・ウェイグワン)氏によると、意識的に女性客をターゲットにしたのだという。タイという国に興味を持つのは圧倒的に女性が多く、主菜のビーフンはダイエット食品としても知られている。さらに、視覚記憶、体験記憶、味覚記憶などを女性はSNSに投稿する傾向がある。女性を中心にすることで、来店とSNSのループが構築でき、少ない予算と人員の中で大きなマーケティングができると考えたのだという。

リトル・タイは次のステップである男性客の獲得を始めている。メニューに満腹感のある「チキンカレー」「ビーフカレー」「パイナップルライス」などの米飯ものを追加した。これにより、今まで男性客は女性客に付き添って来店をしていたものが、男性だけの客も増え始めている。

リトル・タイでは、加盟店開放の準備を進めている。そこで一気に店舗数が増え、これまで中国になかったタイ料理ファストフードとして広がる可能性が大いにある。