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経営の厳しいショッピングモールに秘策。ライブハウスと夜間経済で若者を集客

経営が厳しいと言われるショッピングモールに一筋の光明が見えてきた。ライブハウスを併設することにより、これまでモールにこなかった若い層の集客に成功をした。また、夜間イベントを行うことで新たな集客に成功するモールもある。夜間経済がショッピングモールの秘策になり始めていると新零售商業評論が報じた。

 

衰退するショッピングモールに一筋の光明

衰退が叫ばれているショッピングモールに一筋の光明が見えてきた。調査プラットフォーム「彙客雲データ」によると、今年2023年の春節期間の全国のショッピングモールの来客数は延べ7.1億人、1日1ヶ所あたりの平均が1.95万人となり、昨年2022年の同時期から6.9%増加をした。また、ショッピングモールを運営する万達集団は、春節期間中の販売収入が126億元を突破し、コロナ禍以前の2019年と比べて29%増加したと発表している。

2020年の年末に、人気のある経済評論家の呉暁波氏が「ショッピングモールは消滅する。コロナ禍があろうとなかろうと彼らはみな消滅する。変化の時がきている。サービス消費(体験消費)が物質消費に取って代わる」と発言して大きな話題になったが、ショッピングモールは消滅しないための努力を続け、その成果が実り始めている。

▲上海のショッピングモール「環貿iapm」。典型的なショッピングモールの姿で、週末はともかく、平日は人がまばら。これがショッピングモールの常態になっている。

 

複数の消費者層に時間差で対応

その秘策のひとつが夜間経済だ。たとえば上海市のショッピングモール「環球港」はライブハウス「枚」(ホワメイ)をオープンした。営業時間は午後7時半から午前4時までになる。また、長沙市の「保利国際広場」もライブハウスをオープンし、好評になっているという。

環球港は、上海の中心街から30分ほど西北に離れた普陀区にある48万平米の大型ショッピングモール。ライブハウス「枚」は5階の屋上庭園にあり、その他にはスケート場や展望台、飲食屋台などがある。4階から下は通常のショッピングモールとなり、ファッションなどの店舗が入居をしている。

面白いのは、このライブハウスがある屋上庭園とその下のモールでは明らかに客層が異なることだ。ライブハウスにくるのは若者層で、服装も個性的な人が多い。しかし、4階から下のモールはごくごく一般的な家族づれやカップルなどが多い。

このまったく違う客層を時間をずらすことで集客するというのが、現在のショッピングモールのトレンドになっている。昼間から夕食までの時間は一般のホワイトカラー、家族づれ、単身者を買い物や飲食で集客をし、夜から明け方まではライブハウスで若者を集客する。ショッピングモールが多面性を持つようになっている。

上海市普陀区にあるショッピングモール「環球港」では、屋上庭園にライブハウスをオープンした。これにより、今までショッピングモールにこなかった客層が集められるようになった。

 

近隣住民が夜のお散歩を楽しめるモール

2021年12月に上海市の長寧区にオープンした「アートパーク大融城」もユニークな試みをしている。長寧区は住宅街として知られ、日本人も多く住んでいる地域だ。そのため、近隣のホワイトカラー住民のために、夜間イベントを企画をした。子ども連れでもこられるように、静かな音楽を演奏するバンドをいれ、3Dマッピングによるライトアップをし、家族で楽しめるイベントを開催した。近隣の住民が夕食を食べた後に、気軽にぶらぶらできる感覚だ。

アートパーク大融城ではこのイベントに強い感触を得て、夜間に近隣住民を対象にした飲食関連の展開を強化していくという。

ショッピングモールが夜の経済に注目を始め、その成果があがり始めている。

上海市長寧区の「アートパーク大融城」。近隣が住宅地のショッピングモール。夜間に子連れでも安心て散歩ができるイベントを開催したところ、好評となった。

上海市静安区のケリーセンター。マンション、ショッピングモール、オフィスなどの複合施設。夜間に「安義夜港」のライトアップを行い、多くの人の訪れた。

 

コロナで中断していた夜間経済が再始動

2019年、国務院は「流通の発展を加速させ、商業消費を促進する意見」を公開し、この中で夜間経済を奨励した。その後、北京、上海、重慶西安などの大都市では、夜市を出店できる場所を増やすなどして、夜間経済は軌道に乗り始めた。しかし、その後、コロナ禍が始まってしまったため、中断をした形だ。

中国は夏は暑く、冬は寒く、気候の変化が大きい。夏の昼間は多くの人が外に出なくなり、夜、涼しくなってから外出をするようになる。夏の繁華街は夕方以降から人手が多くなるため、終わりの時間を延ばす夜間経済は理にかなっている。

 

営業時間を午前3時まで延長

上海市の中心街にある商業地「新天地」では、営業時間を午前3時までに延長をし、夜遅くまで、お酒を出す飲食店が賑わっている。

新天地は、ショッピングモールといってもブロック型で、アウトレットモールのように店舗が集合しているスタイルだ。消費者は、小さな街を散策する感覚で、各店舗を回る。そのため、1階のオープンテラス席のある飲食店に入りやすい。1階の飲食店が賑わっている様子は、施設全体の賑やかな雰囲気となり、人を惹きつけるため、店舗の売上にもいい影響を与える。夜間経済には適したスタイルになっている。

▲上海の「新天地」は老舗のショッピングモール。郊外型アウトレットモールのようなブロック型で、小さな町のようになっている。営業時間を午前3時まで延長したところ、飲食店を中心に人が集まった。

 

ライブハウスで若者を呼び込む

一方、一般的なショッピングモールは、大型の建物の中にあり、1階はラグジュアリー品のショップ、2階、3階が女性アパレル、4階が男性アパレルというボックス型構成になっていることが多い。このため、飲食や映画館、娯楽などの体験施設は5階以上に設置されることが多い。

ショッピングモールは小売業だけでは、呉暁波氏のように消滅をしていく他ない。そうならないように、飲食と体験施設が必要になるが、ショッピングモールは飲食と体験施設が上階にあるということがネックになっている。

新天地のようなブロック型モールであれば、買い物をした後に、1階広場の飲食や体験施設が目に入り、ついでに食事をしていくという導線が描けるが、ボックス型のモールの場合、買い物をした人はそのまま1階に降りてしまい、用がなければ5階以上の飲食や体験施設によってもらえない。飲食や体験施設の集客に問題を抱えていた。

ここに、ライブハウスが起爆剤となった。ライブハウスにくる若者たちは、これまでショッピングモールにはあまりこなかった層だが、ライブハウスをきっかけにきてくれるようになる。これをきっかけにショッピングモールにも興味を持ってくれるかもしれない。異なる客層に異なる時間に異なる施設を提供することで、ショッピングモールは来客数を増やすことができている。

 

ライブハウスもすでに競争に

しかし、ライブハウスを開けばうまく行くという簡単な話でもない。上海の「TX淮海年軽力センター」では、2018年に最上階にクラブを開設し、若者を惹きつけたが、周辺部にクラブが増え始めると業績は下降をしていき、結局閉鎖してしまった。周辺のクラブとの差別化ができてなかったため、わざわざショッピングモールの最上階まで行かなければならないクラブは不利だったのだ。

しかし、厳しさが増すショッピングモールにとって、夜間経済による新たな顧客層の獲得という光明が見えてきたことは確かだ。ショッピングモールが24時間稼働をするという時代がやってくるかもしれない。