中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

あらゆる商品が1時間で届けられる時代。デリバリー経済がさらに進化する中国社会

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今回は、「即時零售」についてご紹介します。

 

即時はリアルタイム、零售は小売のことで、オンラインで購入したものを30分から1時間程度で配達してくれる小売モデルのことです。配達を行うのは、美団(メイトワン)、ウーラマなどのフードデリバリー企業で、2018年頃から、飲食以外の分野に積極的に対応をし、現在では、店舗や倉庫、スーパー、コンビニからさまざまな商品を届けてくれるようになっています。また、ここに商機を見て、順豊(シュンフォン、SF Express)などの宅配企業も参入するようになっています。

フードデリバリーも飲食品に特化をした即時零售であり、おなじみのアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の宅配部分だけを取り出せば即時零售になります。さらに、他のスーパー、コンビニ、店舗なども宅配に対応しているところが増え、これも即時零售です。

2021年の即時小売では、8割が飲食品、2割が一般商品ですが、東呉証券研究所のレポートでは、2025年には飲食品割合は60%から70%程度になると予測しています。

即時零售には訳語がまだ定まったものがないようです。英文では一応Real Time Commerce、日本語ではリアルタイム小売という言葉が使われ始めていますが、まだまだ言葉の揺らぎがあるようです。このメルマガでは「即時小売」という言葉を使いたいと思います。

 

即時小売が使われることが多くなっているのが薬品です。急な発熱、腹痛などの時に薬局に薬を買い行くというのはつらいことです。また、一般的な薬局には営業時間があるため、深夜などでは買うことができません。しかし、即時小売であれば、24時間営業の薬局や倉庫から商品をピックアップするため、24時間いつでも30分で持ってきてくれます。配達料はかかりますが、薬の単価は高いのであまり気になりません。それよりも、必要な時にすぐに持ってきてくれる利便性が勝ります。

また、今年は新発売のスマートフォンを即時小売で買う人が増えました。即時小売側がサービスを普及させるため、配送料無料キャンペーンを行ったこともありますが、新しいスマホは誰でも早く使ってみたいものです。宅配便の翌日配送より早く持ってきてもらえる即時小売が人気となりました。

また、単身者は昼間、家にいないために、宅配便の受取りが意外に面倒です。そのため、自宅配送よりも、公共宅配ロッカーや配送拠点留めにして、都合のいい時間に自分で取りに行くという人も少なくありません。これが即時小売であれば、30分配送ですから、会社で受け取ることもできるわけです。即時小売のいいところは、受取が30分後ですから、自分がどこにいるかがはっきりとし、待っていられる時間であるという点です。どのくらいそういう指定をする人がいるかは分かりませんが、カフェを指定して、そこに持ってきてもらうこともできます。

 

さらに、ショートムービーと組み合わせることで、即時小売が大きく広がり始めています。

山東省済南市の食材卸「魯海于家海鮮」は、ショートムービー「抖音」(ドウイン)のライブコマースで販売をした新鮮な海産物を市内に2時間以内に配送するサービスを始めています。当初はライブコマース後、紹介したエビやカニをクール宅配便で配送するというやり方をとっていました。宅配便の場合は、当日から翌日配送になります。これがコロナ禍の人手不足により、遅延が発生するようになりました。すると、鮮度が落ちて、食材としては問題はないものの、いやな臭いが発生するという苦情が出るようになります。

この問題を解決するため、魯海于家海鮮と抖音、そして市内短時間配送サービスを始めていた順豊の3社が協力して、市内に2時間で配達する仕組みを構築しました。

しかし、正式営業までは簡単ではありませんでした。いちばん大きな問題は配達コストです。配達コストは1件につき60元ほどになることもありますが、魯海于家海鮮がライブコマースで売る商品の中で最も単価が安いものは98元です。これでは、価格の中に配達コストを吸収することができません。

魯海于家海鮮の倉庫は、済南市の西側にあり、人口が密集している住宅地は東側にあるため、すべての配達が済南市を横断するような長距離配送になっていました。そこで、抖音は住宅地のある東側に共同倉庫を設置します。魯海于家海鮮は商品をこちらの共同倉庫に納入するようにし、ライブコマースもこの共同倉庫から行いました。これにより、平均配送コストは20元まで下がり、平均客単価が300元であるため、じゅうぶん価格で吸収することができ、「配送料無料で採れたてのカニをお届け」というサービスが完成をします。

 

また、抖音はウーラマと提携して、ショートムービーからフードデリバリーを注文できる仕組みを始めています。例えば、バーガーキングの店舗が抖音に商品を紹介するショートムービーを投稿します。そのムービーには商品タグがついていて、それをタップすることでハンバーガーを配達してもらえるというものです。

これは2つの点で、画期的なサービスです。ひとつは飯テロ効果がねらえることです。人はお腹が空くと食べ物のことを考え始めますが、それとは別に食べ物を見ると満腹であっても食べたくなる習性を持っています。深夜のお腹が空いている時間帯に、食べ物がフューチャーされたドラマや番組を見ると、食べたくて仕方がなくなってしまいます。これは通称「飯テロ」と呼ばれています。店舗は、このような飯テロ効果が高い時間帯をねらってショートムービーを配信することで、大量の注文を獲得することが期待できます。

もうひとつは、店舗のマインドシェアを高めることができることです。抖音は、拡散すべきショートムービーを決定するのにAIによる評価を使っています。そのやり方は、まず数百人の視聴者をランダムに選んで配信をしてみて、そのリアクション(スキップやリピート再生など)を測定し、高い評価をした視聴者と属性が似ている視聴者を新たに選び出し、拡散をしていくというものです。誰からも高い評価を得られない場合は、新たな視聴者は選び出されずに、配信は止まってしまいます。高い評価をする視聴者がたくさんいる場合は、同じ属性を持ったたくさんの人に配信されるようになります。このようにして、優れたムービーは大量拡散するように、つまらないムービーは拡散が止まるアルゴリズムになっています。

この最初の数百人を選ぶときに、配信者の位置情報から近い位置にいる視聴者を優先的に選ぶということが行われます。つまり、店舗がムービーを発信したら、その近辺にいる人には高い確率で配信されることになります。これにより、店舗は商圏である近隣の消費者にムービーを見てもらうことができます。

視聴者から見ると、近所の店舗が発信したムービーがたくさん入ってくることになります。これにより、デリバリー注文をすることができ、なおかつ近所の店舗が意識をされ、別の機会に店舗を訪れるきっかけにもなります。

 

このような即時小売の重要なインフラとなっているのが、美団とウーラマのデリバリー企業です。配達スタッフは「騎手」(ライダー)と呼ばれ、電動自転車や電動スクーターでデリバリー業務を行います。日本のウーバーイーツや出前館、ピザ宅配と基本的には同じです。しかし、中国の場合、規模が異なります。美団だけで2021年は527万人が騎手として収入を得ました。ウーラマにもほぼ同規模の騎手がいるので、1000万人程度が騎手として働いていることになります。ウーバーイーツは全国で10万人程度と言われ、それでも配達スタッフが多すぎて、一人あたりの収入が増えないという問題を抱えています。中国の場合は人口が10倍ですが、騎手は100倍いるのです。

この即時小売に必要な騎手というインフラの密度が高いことが、即時小売という新しい小売手法を可能にしています。

今回は、なぜ中国のデリバリー企業は即時小売に業務を拡大できるのか、その理由をご紹介します。また、その答えは、日本でよく言われる「中国の人件費は安いから」が間違いであることを統計情報を使ってご紹介します。中国の賃金は、もはや日本とそう変わらなくなっています。少なくとも倍の違いはもはやありません。デリバリー企業が業務を拡大できる理由は、テクノロジーを使ってデリバリー効率を高めているからなのですが、そのために使われているアルゴリズムやドローン配送についてもご紹介します。

 

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今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.153:SHEINは、なぜ中国市場ではなく、米国市場で成功したのか。持続的イノベーションのお手本にすべき企業

vol.154:中国に本気を出すスターバックス。3000店の新規出店。地方都市の下沈市場で、スタバは受け入れられるのか

vol.155:変わりつつある日本製品に対するイメージ。浸透する日系風格とは何か