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あえてデリバリーに対応しない。店舗体験を重視し、リピート客の養成に成功をしたカフェ「Butalso Coffee」

カフェ競争が激化をし、今ではデリバリーに対応していないカフェはほとんど存在しない。しかし、蘇州市のButalso Coffeeは、デリバリーを放棄して、店舗でのテイクアウトにシフトをして成功している。店舗体験を重視することで、リピーターを養成するという戦略が功を奏したと咖門が報じた。

 

激化をするカフェ競争

中国のカフェ業界の競争が厳しくなってきている。2018年頃までは、カフェ業界はスターバックスの独壇場だったが、モバイルオーダーを強みにした「瑞幸珈琲」(ルイシン、ラッキンコーヒー)が店舗数でスターバックスを抜くなど、国内系のカフェチェーンが急成長をしてきた。

さらに大都市では、特定の農園と契約をしたスペシャルティコーヒーを出すカフェが続々と登場している。価格も高いが、味の評価はスターバックスを上回る。室内空間も考えられており、サードプレイス戦略を取るスターバックスの顧客を奪い続けている。

このような高級カフェの他に、上質なコーヒーをリーズナブルな価格で提供するというスタンド店も登場してきている。店舗を小さくし、出店費用を抑え、その分をコーヒー豆の品質に回すことで顧客の心をつかもうという戦略だ。

 

デリバリーではなくテイクアウトで成功するButalso Coffee

このような戦略の典型がラッキンコーヒーで、安いから、便利だからという理由だけでなく、美味しいからという理由でラッキンのファンになっている人も多い。

このようなスタンド店にとって重要なのがフードデリバリーだ。近隣のオフィスなどからの注文に応え、美団(メイトワン)、ウーラマなどのデリバリー企業に委託をしデリバリーをする。

ところが、蘇州を拠点とするカフェチェーン「Butalso Coffee」(バットオールソー)は、このデリバリーから店舗のテイクアウトに軸足を移すという、ある意味、時代に逆行する戦略で成功をしている。

▲バットオールソーはスタンド店であるため、コーヒー関連の器具には魅力的な映えるものを揃えている。

 

スペシャルティコーヒーをスタンドカフェで提供

バットオールソーは、2021年に創業し、現在、江蘇省蘇州市を中心に7店舗を展開している。すでに、グルメガイドサービス「大衆点評」のカフェ人気ランキングでは、上位3位に入るほどの人気を得ている。コメント欄には「高くないのに、美味しい」という内容のものが多い。

メニューはハンドドリップとエスプレッソ、スペシャルティコーヒー、非コーヒードリンクという構成になっている。また、エスプレッソは、オリジナルブレンドエチオピア・シダモ、雲南紅酒の3種類の産地の豆を選ぶことができる。ハンドドリップも、インドネシア・マンデリン、エチオピア・イルガチェフェ、雲南・橙意、コスタリカ・ビラトリウィンフォード農園の4種類から豆を選ぶことができる。

価格帯は18ー34元で、平均して25元前後と安い。スターバックスより一段安い価格帯だ。店舗は70-80平米と狭く、サードプレイスではなく、スタンドカフェの形式だ。

▲バットオールソーの店舗。デザインを各店舗ごとに変えている。その地域の顧客の記憶に残すことをねらっている。

 

リピート率が高い秘密はテイクアウト

バットオールソーの特徴は、リピート率が高いということだ。毎週2000人ほどの会員が2回から3回購入するというのが、バットオールソーの収入の柱となっている。

2021年は新型コロナの感染拡大が収まり、店舗ビジネスも回復をしたが、2022年に入り、再び感染が拡大をし、飲食業は大きな影響を受けた。しかし、リピート客が多く、店舗に短時間しか滞在しないバットオールソーは打撃が小さく、売上が10%から20%程度下落しただけで済んだ。

しかし、20%の下落というのは経営にとって決して小さな打撃ではない。そこで、創業者の余岱璟(ユー・ダイジン)氏は、3つの施策を実行した。いずれもリピート客を養成することを目的としたものだ。

 

1:デリバリーを減らし、店舗割引を強化する

バットオールソーは1店舗あたり月に2500件のデリバリー注文があり、重要な売上となっていたが、大胆にもこのデリバリー売上を放棄して、店舗売上に注力をすることにした。

デリバリーは対応をすれば利用してもらえるというものではない。特にバットオールソーのような小さなカフェチェーンは、検索をしても上位にくることはなく、デリバリー注文を増やすためには、広告を出すか、大幅割引をするなどして、消費者の関心をつかまなければならない。これにより、デリバリー注文の利益率は非常に悪くなる。

余岱璟氏が問題に感じたのは、デリバリー注文を多くすると、ブランドイメージが曖昧になっていってしまうということだった。デリバリーのお客は、「大幅割引されているから買ってみた」というきっかけで注文することが多く、店舗にもこないため、どこのカフェで買ったのかも記憶に残らない。デリバリーは常に広告や割引などの費用を投入する必要があり、なおかつリピーターになってもらえる確率は非常に低い。

そこで、デリバリーにかけるプロモーション費用を削減して、その代わりに店舗での販売の割引などに転換をした。店舗にきてくれる、近所のオフィス客、住民に割引をすることでリピーターになってもらうというものだ。

これにより、販売数はそのままで、コーヒーの利益率が25%上昇をした。

 

2:顔の見えるカフェにする

リピーターを養成するには、そのカフェのスタッフを「古い友人」にする必要がある。そこで、スタッフに研修を行い、すべての来店客に挨拶をすることを励行させた。さらに、スタッフに顧客の顔と注文メニューを覚えるように奨励した。挨拶も「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」「ハーイ」という友人ライクなものであり、さらにその後に「いつものコーヒーでよろしいですか?」と続く。

また、ハンドドリップコーヒーの店は、コーヒーを淹れる所作そのものが商品になる。コーヒーの好きな人にとって、プロフェッショナルがコーヒーを入れている姿を見るのは楽しいことであり、コーヒーの香りも一気に店内に広がる。来店客と親しみのある人間関係をつくることで、このようなパフォーマンスにも興味を持ってもらう。

また、無料のコーヒー教室を開催し、顧客との距離をさらに縮め、コーヒーに関心を持ってもらう活動も始めた。

▲コーヒーを入れる作業も重要な商品のひとつ。その姿、広がるコーヒーの香りを楽しんでもらう。

 

3:店長には売上連動のインセンティブ

店長の報酬には、売上に連動をするインセンティブを与えることにした。過去半年から1年の店舗の平均利益を計算し、その平均利益を超えた部分の60%から70%が、店長の報酬に上乗せされる。これにより、店長が自発的に店舗経営を考えるようになり、また、カフェ業界の悩みである離職率の高さも抑えることができるようになった。

▲顧客を対象にした無料のコーヒー教室を開催している。リピート客を養成するための施策のひとつだ。

 

店舗体験を提供し、リピートしてもらう

特に重要なのがデリバリーから店舗テイクアウトに軸足を移したことだ。確かにデリバリーに投資をすれば数を得ることはできるようになる。しかし、デリバリー客にリピーターになってもらうことはとても難しい。一方、店舗客にリピーターになってもらうことはできる。店舗体験が記憶に刻まれるからだ。好ましい店舗体験を提供することができれば、来店客はまたきてくれるようになる。

店舗中心にすると、商圏が限定をされ、市場をせばめてしまうことになるが、リピート客を養成することで経営を安定させることはできる。企業としての成長は、新規出店に求める。バットオールソーは、そのような戦略で、自社ブランドを確立させ、小さいながらも、蘇州市のカフェ業界で一定の地位を確保している。