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荷物は8倍に増えても、業務負担は減った宅配便企業。鍵はクラウドとコラボツールによるリアルタイム状況把握

中国の宅配便件数は年々増加をしている。宅配便企業「申通」でも8年前と比べると扱い荷物量は8倍に増えている。しかし、スタッフの業務負担は軽くなっているという。鍵はクラウドシステムとコラボツールによる、リアルタイムの状況把握と自動化だと顕微故事が報じた。

 

宅配便企業はもうビッグセールも怖くない

アリババが主催をする11月11日のビッグセール「独身の日」。双十一(ダブルイレブン)は、宅配企業にとっては年に1回の大きな試験の日となる。毎年、この日のために設備投資をして、業務プロセスを見直し、大量の荷物を的確にさばかなければならない。スタッフは長時間の残業をすることになり、へとへとになるまで働くことになる。

しかし、昨2022年の双十一では様子が異なっていた。宅配便企業「申通」(シェントン)では、忙しいものの、例年のようなスタッフ全員が疲弊をするような事態にはなっていない。何が起きているのか。

▲申通の杭州市の中継センター。ビッグセール期には毎日200万個の荷物がここに搬入される。

 

物流拠点は1.6倍の増員で24時間体制

浙江省杭州市に申通の中継センターがある。ここには杭州市、紹興市、湖州市などへの宅配便がいったん集められるハブになっており、毎日200万個の荷物がこの中継センターに入ってくる。

双十一では、数年前から予約販売を進めている。11月11日の午前0時からセール販売を開始するとアクセスが集中をすることや、深夜に購入することを嫌う人が出始めているため、数日前から予約購入ができるようになった。このような予約販売された商品は、前日までに、中継センターに運び込まれ、11月11日に一斉に配達をされる。中継センターはこのような予約販売商品の一時保管所にもなっている。

この中継センターの責任者である胡日財さんは、10月の頭からセンターのスタッフを増強した。通常は900人の人が働いているが、双十一期間は600人の臨時スタッフを増やす。10月から双十一の期間まで、中継センターが消灯されることはなく、24時間稼働となる。ピーク時には1日1200台のトラックが出入りをし、荷物を上げ下ろししている。

▲ビッグセール時には1日に1200台のトラックが300万個の荷物を配送する。

 

大きく減少した業務負担とストレス

しかし、胡日財さんは例年ほどの殺人的な忙しさは感じていないという。「数年前、私が担当していた倉庫の面積は2000平米ほどで、双十一では毎日3万歩歩いていました。しかし、今年は35倍の面積の倉庫を担当し、毎日300万個の荷物を扱っていますが、歩くのは平均して1万歩になりました」と言う。

責任者としての精神的な負担も大きく減ったという。以前は、中継センターに出勤をしてみないと荷物の正確な量がわからなかったため、出勤前に、大型車両から小型車両まで、できるだけ手配をしてしまう。しかし、荷物の量によって、仕事にあぶれてしまう車両も出てくる。こうなると、運転手と口論になる。なぜなら、運転手は運んだ荷物の量に応じて報酬が決まるため、運ぶ荷物がないということは稼ぎがなくなるということだ。しかも、双十一という掻き入れ時に遊んでしまうのは痛い。運転手にも生活があるのだ。

▲中継センターの責任者、胡日財さん。最初は若くないとできない体力のいる仕事だと考えていたが、現在では体力よりも経験や判断力が求められる仕事だと感じている。

 

コラボツールで状況がリアルタイムでわかる

しかし、現在は、アリババのグループウェア「釘釘」(ディンディン)が導入され、スマートフォンで中継センターの荷物の量、その日に入る荷物の量がリアルタイムでわかるようになった。それを見て、適切な量の車両とスタッフを手配することができるようになった。

また、コロナ禍では日々「配達不可地域」が生まれる。陽性者が出ると、その地域がロックダウンされ、出入りが禁止になる。このような封鎖地域の情報は、公的機関が発表をするものの、その発表タイミングは遅い。胡日財さんは配送スタッフから封鎖地域情報を報告してもらい、釘釘のソフトウェアロボットで関係する配送スタッフに情報を共有する。

以前であれば、このような事態が起こると、複数の電話を使い、あちこちに電話をして確認をしたり、指示をしなければならなかったが、今では釘釘で情報を転送するだけでことが足りるようになった。

▲現在はコラボツール「釘釘」が導入され、どこにいてもリアルタイムで状況が把握でき、報告の多くが自動化されている。

 

荷物の量は8倍に増えても、定時配達率は97%

胡日財さんは入社8年目になる。仕分けスタッフから始まり、さまざまな宅配の業務をしながら、杭州中継センターの責任者になった。この8年、宅配便業界の進化ぶりを見てきた証人でもある。この8年で、宅配業界が扱う荷物の量は8倍にもなっている。2014年は、ほぼすべてを人手で捌いていた。しかし、今ではDXが進み、作業の多くが自動化をされ、スマホから情報を得て、指示が出せるようになっている。

申通では、2015年に書類の電子化と仕分けの自動化を行なった。さらに2019年には基幹システムをアリクラウドによるクラウド化を行い、国内初のクラウドシステムで業務を行う宅配便企業となった。さらに、2022年には業務ツールとして釘釘を採用し、100の中継センター、4700の支社、2.5万の営業所、合計30万人のスタッフが釘釘によりリアルタイムでつながることになった。

これにより、2022年の双十一では、定時配達率は97%に達した。

▲仕分けに関して完全自動化がされている。

▲破損、誤配達、忌避品などがあった場合も、今ではスマホからコードをスキャンし、内容を選択するだけで報告と処理が可能になった。

 

昔の宅配便は体力勝負、今は判断力勝負

胡日財さんは以前、印刷工場で働いていた。しかし、夏になると粉塵による湿疹が起きるようになり、2014年に友人から勧められて申通に転職をした。転職した当時は、破損、誤配達、忌避品などがあると、それを仕分け現場でノートにメモをし、ステーションまで戻ってメモを見ながらパソコンに入力をするというやり方だった。そのような作業が1時間あたり50件ほど発生する。

しかし、今では、現場でスマホを取り出し、送り状の二次元コードをスキャンして、問題の種別のボタンをタップするだけになっている。

以前は、宅配便の仕事は体力が勝負だと感じていたが、今では判断力が勝負だと感じている。「以前は若くなければできない仕事だと思っていました。ですので、若い間に稼いで、中年になったらもっと楽な仕事を探すつもりでいました。しかし、今では体力は必要なくなり、経験がものを言うようになってきたため、50歳を超えても続けられる仕事だと感じています」。

釘釘は、申通だけでなく、円通、中通、韻達など、多くの宅配企業、物流企業が採用をし、宅配業界の業務のあり方は一変をしている。

▲胡日財さんは体力のあるうちに稼いで、中年になったら転職をしようと考えていたが、今では一生続けられる仕事だと感じるようになっている。