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月探査機「嫦娥5号」の月面サンプルから水を発見。中国研究チームが月面の水の存在を示す直接的な証拠を得ることに成功

2020年12月に月から帰還した月探査機「嫦娥5号」が持ち帰ったサンプルから水が直接発見された。これで月に水があることがゆるがない事実となったと老粥科普が報じた。

 

中国チームが月面サンプルから水を発見

月面に水はあるのか。この問いに中国科学院地球化学研究所の研究チームが、月探査機「嫦娥5号」が月面から持ち帰ったサンプルを分析をし、水を直接的に検出した。このサンプルは、2020年11月に長征5号で打ち上げられた嫦娥5号が月面サンプルを自動採集し、12月にサンプルを持って地球に帰還したもの。

発見した水分は170ppmにも達し、科学者が予測するよりも大量なものだった。

▲月探査機「嫦娥5号」。2020年12月に地球に帰還し、月面サンプルを持ち帰った。このサンプルの分析により、水が発見された。

 

月面の水を発見できなかったアポロ計画

以前は、月面は昼には120℃になり、大気圧はほぼ0になるため、水が存在してもすぐに蒸発をしてしまい、さらに太陽光が直接あたるために、水素分子と酸素分子に分離をしてしまうと考えられていた。

しかし、望遠鏡による月面の観測では、月の南極付近に明るい光点が見えることから水があるのではないかと考える専門家もいた。

この問題を決着できるチャンスは、1968年から1972年まで行われた米国のアポロ計画だった。6回の月面着陸で、12名の宇宙飛行士を月面に送り、大量の月面サンプルを持ち帰った。持ち帰った土壌サンプルは合計380kgにもなる。

当初、このサンプルを分析した研究チームは、「月面サンプルから水を発見した」と発表したが、その後に、この声明は取り消された。サンプルが汚染されていることがわかったからだ。

当時は、土壌サンプルの分析手法が確立してなく、分析チームはサンプルを通常の室内に置き、簡単な手袋をするだけで触り、マスクもしていなかった。このため、空気中の水分や人の呼気に含まれる水分がサンプルに付着した可能性を否定できず、この貴重な発見は取り消されることになった。

アポロ計画の後期になると、サンプルの扱いは厳格化をされたが、帰還船が海洋上に着水をし、これを船に回収するという方法であったため、サンプルを完全密封することができず、地球の大気に触れてしまう可能性を否定できなかった。

このような技術的限界から、米国は「月面に水がある」直接的な証拠を見つけることはできなかった。

最初に「月の水を発見した」と主張したのは、ソビエト連邦だった。1978年に発表された論文で、ルナ24号が持ち帰った月面サンプルから水が発見されたことが公表されたが、その含有率が0.1%という高いものであったため、西側諸国の科学者たちは相手にしなかった。

アポロ計画の月面サンプルの分析作業の様子。簡便な手袋だけでマスクもしていない。当時としては常識的なものだったが、サンプルが人によって汚染されてしまった。

 

インドと米国が月の水の間接的な証拠を得る

2008年、インドの月面探査機「チャンドラヤーン1号」には、NASAが開発した鉱物分析装置が搭載され、水分子の一部であるヒドロキシ基(-OH)特有の波長を、南北両極付近で観測し、間接的な証拠ながら、月面に水があるという強い証拠を得ることに成功した。

ただし、ヒドロキシ基が観測されたといっても、それで水が存在することの証明にはならない。そこでNASAは空飛ぶ天文台と呼ばれるSOFIA(The Stratospheric Observatory for Infrared Astronomy、成層圏赤外線天文台)を使った観測を行った。ボーイング747を改造した移動天文台で、高度4.1万フィートの成層圏を飛行しながら、赤外線を観測するというものだ。この分析から、月面から水分子特有の波長を観測することに成功した。

これで、月面に水があることはほぼ間違いのない事実となった。

▲インドの月面探査機「チャンドラヤーン1号」は、月面の鉱物分析を行い、ヒドロキシ基(-OH)特有の波長を南北両極付近で観測した。これが最初の水の存在を示す間接的な証拠となった。

 

50年前の月面サンプルからは水は発見できず

しかし、このような観測はあくまでも間接的な証拠であり、サンプルから直接水を観測することが何よりも望ましい。2022年3月、NASAは、アポロ17号が採集をし、50年間完全密封されていた月面サンプルを開封した。しかし、残念ながら、このサンプルから水は検出されなかった。

そして、嫦娥5号のサンプルから水が検出され、ようやく月に水があることが直接的に証明をされた。

▲米国の研究チームは、2022年に50年前のアポロ17号が持ち帰った月面サンプルを開封して分析したが、水は発見できなかった。

 

月の水は太陽由来

中国科学院の研究チームは、サンプルの分析から、この水は太陽由来のものであるという説も発表した。太陽は巨大な水素の塊で、水素イオンを太陽風として周囲に放出している。この水素イオンは電荷を帯びているため、地磁気のある地球などでは地球表面まで届くことはない。しかし、地磁気のない月では月面に到達し、鉱物に含まれている酸素イオンと結びつき、水分子ができると考えられている。

嫦娥5号が持ち帰った月面サンプルの分析では、大量の化合した形態の水が発見された。

 

砂漠よりもさらに乾燥している月面

ただし、想像よりも大量の水が月から発見されたといっても、すぐに月に畑をつくって作物が育てられるということにはならない。地球上で最も乾燥した砂漠地帯でも、土壌には1%程度の水が含まれている。月の170ppmというのは、科学者が想像しているよりも大量だったというだけで、乾燥した砂漠の1/100程度にすぎない。

また、この水は水として遊離しているのではなく、通常は鉱物の中にヒドロキシ基として化合物の形になっている。この化合した水を取り出すのは簡単なことではなく、少なくとも生物が直接水を利用することはできない。

しかし、それでも、砂漠だらけの乾燥した衛星と考えられていた月に水があることが確定したことは大きな期待をもたらしてくれる。米NASAは、アルテミス計画を進行中で、2024年に宇宙飛行士が月面に降り立つことになる。当然、水の発見は大きな任務のひとつとなる。アルテミス計画により、さらに月の水について、新たな事実が解明される可能性は高い。