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クイックコマース「ディンドン」が初めての黒字化。その原動力は「商品力」

黒字化がきわめて難しいと見られていたクイックコマースのビジネスで、ディンドンが2022年Q2に初の黒字化を達成した。その原動力となったのは、預制菜を中心とした商品力だったと時代在線が報じた。

 

クイックコマース「ディンドン」が黒字化を達成

クイックコマース「叮買菜」(ディンドン)が黒字化を達成した。クイックコマースは、ネットで生鮮食料品を注文すると、30分で宅配をしてくれるサービス。その仕組みの鍵になるのが「前置倉」(前線倉庫、ダークストア)。配達地域にコンビニ並みの密度で倉庫を設置し、そこから配達を行う。ディンドンは、2021年の段階で平均面積300平米、1256カ所の前置倉を運営していた。

華泰証券が2021年の財務報告書に基づいてコスト構造を試算した内容では、前置倉の運営コストがかかりすぎて、赤字構造となっていた。前置倉1カ所あたりの平均注文数は1035件だったが、華泰証券の試算によると、そのままのコスト構造では、黒字化をするに1500件の注文を受ける必要があるとされた。

クイックコマースは、消費者にとっては利便性の高いサービスであるものの、運営コストがかかることが大きな課題だった。実際、ライバルの「毎日優鮮」(ミスフレッシュ)は事実上の営業停止状態に追い込まれている。

▲華泰証券の試算によるディンドンの以前の収益モデル。商品コストと運営コストが大きすぎて、常態的な赤字構造となっており、黒字化をすることが大きなテーマになっていた。

▲華泰証券の予測によると、注文件数を1日1ヶ所のダークストアで1500件にまで高めないと黒字化ができない。ディンドンは商品力を高めることで、注文件数を増やし、黒字化を達成した。

 

効率重視の戦略転換により黒字化を達成

ディンドンの2022年Q2の財務報告書によると、営業収入は66.3億元となり昨年同時期から42.8%増加し、2000万元の利益となり、初めて黒字化を果たした。

ディンドンでは、2021年8月に戦略転換をした。それまでは成長段階にあるため規模の拡大を優先してきたが、効率を優先する戦略転換を行なった。早くもその成果が現れた形だ。

一部では、クイックコマースは黒字化をすることが不可能なビジネスモデルなのではないかとも言われ、投資家たちの腰が引け始めていたが、ディンドンはその不安を見事に払拭した。いったいディンドンは、どうやって黒字化を達成したのか。時代週報の記者が、ディンドンの舒適(シュー・シー)副総裁に話を聞いた。

▲ディンドンの舒適副総裁。黒字化は不可能なのではないかとも言われていたクイックコマースの領域で、初めての黒字化を達成した。

 

品質を上げたことにより利用が拡大

時代週報:2021年8月から、「効率を優先しながら規模を拡大する」戦略に転換をされました。この新戦略の進捗はいかがでしょうか。ライバルと比較して、ディンドンの効率はどこに優位性があるでしょうか?

舒適:2021年8月に戦略転換をして以来、品質の高い商品を提供できるようになりました。私たちは商品力で、注文件数と顧客数を伸ばしたのだと考えています。この商品力を基礎にして、ディンドンは大きく業績を伸ばしました。Q2では、ディンドンが販売する商品の中で、高品質の商品が217SKU(Stock Keeping Unit)にまで増えました。さらに、独自のPB(Private Brand)商品の販売も全体の17.5%に達しました。このPB商品のほとんどは、自社開発、自社生産です。

ディンドンは、クイックコマース企業であるだけでなく、研究開発のできる食品企業になることができました。

 

温めるだけで食べられるヒット商品「預制菜」

時代週報:2022年Q2、ディンドンは黒字化を達成しました。その要因はどこにあるとお考えでしょうか。その中で、商品力はどのような役目を果たしたでしょうか?

舒適:この黒字化達成には、もちろんコロナ禍の影響もあります。しかし、PB商品や、加熱するだけで食べられる調理済みメニュー「預制菜」(冷凍メニュー)が、重要な働きをしました。ディンドンでは、2021年初めから預制菜の提供を始めていますが、販売は好調で、2年間の間に一貫製造の体制を構築し、現在40の工場で製造をしており、そのうち7つが自社工場になっています。

最初に自社開発の預制菜として提供したのがザリガニを商品化した「拳撃蝦」で、非常に好評でした。わずか2ヶ月で、8000万元以上の売上となりました。この成功に続いて「ディンドン大満冠」などの、オリジナルの預制菜の販売を進めました。

預制菜は参入障壁は低いですが、ヒットさせるのは簡単ではありません。しかし、ヒットすればその売れ行きは一般の食材よりもはるかに大きくなります。

預制菜には大きな誤解があります。それは化学調味料や添加物の塊なのではないかというものです。ディンドンはこの誤解を打ち破りました。鍋物のスープである「ディンドン大満冠」では、一切、添加物を使用せず、すべて天然食材でつくられています。

▲ディンドンでヒット商品となった「拳撃蝦」(ザリガニ)。温めるだけで食べられる調理済みの預制菜が人気になっている。

 

消費者研究に注力

時代週報:ディンドンでは、PB商品、自社開発商品の売上が増えています。新商品の開発はどのように行われているのでしょうか。また、将来、どのような新商品が登場することになるのでしょうか?

舒適:ディンドンでは、消費者の嗜好を研究する能力を強化しており、それが商品開発の成功率の上昇に結びついています。2022年上半期だけでも15の消費者研究を行なっており、1000人規模の消費者味覚テストも10回以上行っています。このような意見をお聞きして、開発の方向性を調整しています。

 

ディンドンの商品ロス率は1%でしかない

時代週報:クイックコマースの課題は、物流から配送までのデジタル化でした。現在、ディンドンではどの程度のデジタル化がされているのでしょうか。また、効果はどのように出ているでしょうか?

舒適:ディンドンのシステムは主に3つあります。

ひとつは、サプライチェーンの管理システムです。クイックコマースが扱う商品は農産物であるため、デジタル化が難しいという問題があります。ネギが植えられてから最後に食卓に届くまで、さまざまな不確定な要素があります。ディンドンでは、スマートサプライチェーンシステムを開発して、産地からそれぞれの前置倉までの物流をデジタル化しました。1本のネギがまだ届いていないかどうか、すぐにわかるようになっています。

2つ目が、AIによる販売予測システムです。生鮮小売の大きな課題はロス率の高さです。伝統的な菜市場ではロス率が30%以上にもなります。管理レベルの高いスーパーなどでも10%を超えます。しかし、ディンドンでは1%程度です。AIが販売数を予測して、商品を適切に前置倉に配送できるからです。また、利用者の嗜好を分析して、適切なリコメンドを出す仕組みも、ロスを減らすことにつながっています。

この予測システムの精度は全体でも90%以上、単体の商品では95%以上という高いものになっています。ロスを減らすことが黒字化の大きな決め手になりました。

3つ目が、配達システムです。誰がどの荷物を配達するかはシステムのアルゴリズムにより決定され、配達ルートもアルゴリズムにより決定されます。これで配達効率が最大限にまで高められました。

▲ディンドンの前置倉(ダークストア)。店内は倉庫となっており、ここから配達スタッフが注文された生鮮食料品を近隣に配送する。

 

好調に成長する大都市深圳市の市場

時代週報:ディンドンにとって深圳市は重要な市場だと思いますが、業績はいかがでしょうか?

舒適:2019年8月に深圳市でサービスを開始しました。開始以来、急速に業績が拡大をしています。サービス開始からわずか7日で、3万件の注文を達成しました。日毎の利用者増加数は70%を超え、1ヶ月後には前置倉を15カ所設置しました。

2020年6月には、深圳市の前置倉が100カ所になり、2021年2月にはGMVは1億元を突破し、5月には2億元を突破しています。

 

社会インフラとしても機能するクイックコマース

時代週報:新型コロナの感染拡大という状況の中、ディンドンは食材供給の重要なライフラインともなりました。どのようにして安定供給を可能にしたのでしょうか?

舒適:ご存じのように、今年2022年3月には深圳市の一部がコロナ禍の影響を受け、ディンドンの供給にも大きな困難が伴いました。ディンドンの地区マネージャーは、その地区の公共の配食プログラムに参加をし、一部をディンドンが担当しました。深夜まで働く人、前置倉に泊まり込む人など、スタッフの苦労は大きなものがありました。

時代週報:社会的には、コロナ禍がクイックコマースの価値を認識させてくれました。ディンドンは、このコロナ禍でどのような経験をし、成長に活かしていくのでしょうか?

舒適:業績をあげるというだけでなく、コロナ禍により、ディンドンはより強いサプライチェーン、配達ネットワークを築く必要があると感じました。即応性があり、柔軟性のあるネットワークが必要です。コロナ禍期間、供給の中断、物流の遅延、倉庫の閉鎖、人員の不足などさまざまな問題に直面しました。私たちはより強い体制にする必要があり、イノベーションを起こしていく必要があると感じています。

また、スタッフのチーム力もあげる必要があると感じています。コロナ禍では、業務量が増え、生活には不便が伴い、場合によってはスタッフの住んでいる地区が封鎖されることも起こりました。ディンドンのスタッフは、経験したことのないプレッシャーの中で責任を持って業務を遂行してくれました。

また、コロナ禍期間、ディンドンは常に利用者の皆様に助けられてきました。今後も、食材を安定的に供給し、できるだけ安く提供し、それにより利用者の方々から愛されるディンドンにならなければならないと思っています。