値段をよく見ず、アイスを買ったら、それがとんでもなく高い価格のものだったという現象がSNSで話題になっている。アイスの高級化路線と原料高が重なったための現象で、このような体験は「アイスの刺客」と呼ばれていると開菠夢財経が報じた。
コンビニに現れたアイスの刺客
今年の夏、コンビニに刺客が現れた。暑い日には、コンビニに入って、アイスのショーケースを開け、アイスを買い、体を冷やすということは誰でもが行う。中国では棒アイスは3元から5元(約100円)であるため、多くの人が値段を考えず、美味しそうなアイスを手に取り、レジに向かう。
ところが、今年の夏は、10元以上するアイスが多くなり、中には20元を超えるものも現れた。いつもの感覚で、値段を確かめずにレジに持っていき、値段を聞いてびっくりする。「刺客にやられた」ということで、「アイスの刺客」という言葉がネットで流行語になった。
アイスの高級化とコスト高が重なった
このような刺客は、単なる値上げではなく、多くの企業が高級アイスの製造を始めていることが大きい。果汁をたっぷり使ったり、形に工夫をしたりとさまざまだが、従来のただ冷たいだけのアイスは売上が伸びないため、各社が挑戦を始めている。
さらにそこに原油不足などから製造コスト、物流コストが上昇をしたため、従来のアイスとはかけ離れた値付けになっている。
アイス以外にも現れた刺客たち
このような刺客は、アイスだけでなく、さまざまな商品に及び、それがSNSなどで紹介をされ話題となることが続いた。
話梅(ホワメイ)は、梅を干した駄菓子のひとつで、甘く酸っぱい。飴のように長時間、口に入れておくことができることから昔から定番の駄菓子となっている。もちろん安いというのが特徴で、駄菓子の代表格だ。ある配信主が、一斤(500g)160元で話梅が売られるているのを見かけて、安いと思い、買おうとしてよく見たら、一斤ではなく、一両(50g)160元だった。高すぎて買えないと思い、いくつから売ってくれるのかを尋ねたところ、「2粒から売る」という。そこで、2粒を買って、重さを測ってもらったら51.2元(約1030円)になった。こんな高い話梅があるのかとネットで話題になった。
価格表示にも騙される
このような刺客は、量り売りをする食材の多くに及んでいる。中国では一斤(500g)いくらという価格表示が一般的だったが、質を高めた食材は表示価格が大きくなってしまうことを避けるために、一両(50g)いくらという表示をしているところが増えているからだ。パッと見で「安い」と思って、試食をさせてもらってから気づいても、そこで「買わない」とは言いづらい。
このような一両単位で価格表示をするのは、以前は茶葉や漢方薬などで、食品は一斤の価格表示をするのが通例だった。そのため、多くの人が食品の価格は一斤単位だと思い込んでいる。
また、一両、一斤という漢字で表記をすればまだしも、「160元/50g」などという表示をしているところが増えている。すると、最後のgが0に似ているため、500だと勘違いをしてしまう。中には、その勘違いを誘うために、手書きの価格表示で、gの丸の部分を大きくし、0に寄せているような店もある。
国家市場監督管理総局は「価格表示の明朗化と価格誤認表示の禁止規定」を7月から施行し、価格表示の明朗化を進めている。
若者の仏系が進んでいる
一般的な食品にまで刺客が及んでいるのは、コロナ禍、ウクライナ侵攻問題、中国経済の停滞などの問題が一気に重なったことが原因だ。客流が少なくなり、製造コストが上がり、なおかつ物流の滞りにより品不足が続いている。
アイスの刺客は笑い話のひとつだったが、スーパーや飲食店まで刺客が及ぶようになると、生活が苦しくなるという不満の声もあがり始めている。庶民ができる防衛策は、買い物の量を減らすことしかない。多くの小売関係者が口にするのは、若者世代の購入意欲の減少だ。
元々、若者世代は「仏系」とも呼ばれ、物欲が減少し、精神的な満足を追求する傾向になっている。SNSでも、田舎暮らしをし、畑で採れた食材を自分で調理するという配信主の人気が高まっている。自給自足的な生活は、手間はかかるが、その手間をかけること自体が生きている実感につながり、癒され、満たされるからだ。もちろん、実際に田舎暮らしをしようと考える若者はそうは多くない。しかし、都会で暮らしても、そのような田舎暮らしのテイストを取り入れようとする若者は多くいる。
中国は、これまで人口が増え続け、なおかつ1人の消費額が大幅に伸びることで経済成長をしてきた。しかし、すでに人口は減少に転じていると見られ、1人の消費額も伸び悩むか、一部では減少傾向が始まっている。中国も成熟をした先進国になる時期がやってきている。社会の仕組み、経済の仕組みを大きく変える必要に迫られ始めている。