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ミニプログラムでも本格派。未成年規制の対象外であることから、にわかに盛り上がるミニプログラムゲーム

未成年の間でミニプログラムゲームがにわかに盛り上がっている。アプリ版ゲームは政府のゲーム規制により、未成年は週に3時間しか遊べないが、ミニプログラムゲームは規制の対象外であるために自由に遊べるからだ。最近では、MOBAなどの本格ゲームも登場してきていると毒眸が報じた。

 

未成年は週に3時間しか遊べないスマホゲーム規制

昨2021年9月に、コンテンツ規制を行う国家新聞出版署は、18歳未満の未成年を対象にスマホオンラインゲームの規制をする通達を出した。未成年は、平日は禁止、週末の金土日の午後8時から午後9時までしかスマホオンラインゲームを遊べないようになった。オンラインゲームを遊ぶには、身分証を元にしたユーザー登録が必要という厳しいものだ。さらに、成年のアカウントを借りて遊ぶことを防ぐために、起動時に顔認証を必要とするゲームも増えている。

▲ゲームの未成年規制はかなり厳格に行われていて、多くのゲームが身分証の登録や起動時に顔認証を要求するようになっている。中には祖父母の身分証を借りて登録し、遊ぶ前に祖父母の顔を借りるという未成年も話題になっている。

 

規制対象から外れたミニプログラムゲーム

その中で、未成年でもいつでも遊べるとして、静かに広がり始めているのがミニプログラムのゲームだ。ミニプログラムは、SNS微信」(ウェイシン、WeChat)の中から起動できる小さなプログラム。多くはモバイルオーダーやECなどの生活系ミニプログラムだが、カジュアルゲームも用意されている。利用者にとっては「インストールしなくてもすぐに利用できる」ことから歓迎され、企業にとっては商機が大きく広がることから、WeChatだけでなく、アリペイや百度検索などにも採用されている。

このWeChatミニプログラムは、全体のサイズが2Mバイトまでという制限がある。しかし、ミニプログラム起動後に追加のモジュールをダウンロードさせる機能もあり、最大で合計20Mバイトまで利用できる。グラフィックを多用した本格的なアクションゲームは難しいが、カジュアル系のゲームであればじゅうぶんに対応ができる。

 

ミニプログラムにもMOBAが登場

このミニプログラムゲームで未成年から人気になっているのが「300大作戦」だ。内容は大人気ゲームの「王者栄耀」と同じ、5人対5人で対戦をするMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)だ。

このミニプログラム版「300大作戦」は、登録不要で遊べることから、未成年でも問題なく好きなだけ遊べる。王者栄耀が遊べずにストレスを抱えている未成年が目をつけ、異例のヒットになっている。ただし、王者栄耀に比べて、画面は荒く、ゲームの作り込みも浅く、ストレス発散に短時間遊ぶというのが一般的だという。

▲「300大作戦」のミニプログラム版(上)とアプリ版(下)。ミニプログラム版はシナリオなどが簡素化されているが、ほぼアプリ版と同じように遊ぶことができる。未成年はミニプログラム版であれば好きなだけ遊べる。

 

ミニプログラム普及に貢献したカジュアルゲーム

ミニプログラムのゲームは、サイズの制限もあるためにカジュアルゲームが主流だった。その中で大ヒットとなったのが「跳一跳」(ティアオイーティアオ)だ。WeChatミニプログラムがスタートした時に、ミニプログラム普及のためにテンセントが公開したゲームだ。

指で台を縮ませて、その反動でチェスのコマのようなキャラクターをジャンプさせ、うまく次の台に着地させるという単純なゲームだが、暇つぶしに最適で、わずか3ヶ月で3.9億人が遊ぶという大ヒットとなり、ミニプログラムの普及に大きく貢献した。

▲テンセントが無償公開した「跳一跳」。下の台を指で縮めて、その反動で上のコマを飛ばして、次の台に着地させる。他愛もないゲームだが、それが遊びやすく、ミニプログラムの普及に大きく貢献した。

 

本格ゲームも増えてきたミニプログラム

その後も、音楽ゲーム、消しものゲーム、パズルなど、サイズが小さくても遊べるカジュアルゲームが主流で、ミニプログラム内でスキンや追加モジュールなどの有料アイテムを購入させることで収益をあげるというものが主流だった。

しかし、最近増えてきているのが、MOBAやRPGFPSという本格的なゲームだ。このような本格ゲームで問題になるのが収益モデルだ。すでにサイズ制限ギリギリになっているため、スキンや追加モジュールの販売をすると、サイズ制限をオーバーしてしまいかねない。

そこで、主流になっているのが広告モデルだ。プレイ画面以外でバナー広告を表示することで、ユーザーがタップすると成果報酬を得られるというものだ。

 

ゲームアプリの中で無限ループをつくるバナー広告

ところが、広告モデルにも問題がある。一般的なバナー広告は、タップをして着地をするランディングページで、何らかの購入や資料請求をしてもらうことになる。タップはしたけど、購入や資料請求に結びつかなかったというケースでもお金になる。なぜなら、どのような属性の人が興味を示してタップをしたかという貴重なデータが得られるからだ。

しかし、ミニプログラムゲームではこのようなデータが得られない。なぜなら、実名登録をさせないことにより、気軽に遊べることをウリにしているため、ゲーム内でバナー広告をタップしてもらっても、その人の属性がわからないからだ。

そのため、ゲーム内のバナー広告は別のゲームの広告が主流になっている。ゲームを遊んでいるのだから、別のゲームに興味を示す可能性は高く、広告に表示されたゲームをインストールすると運営は成果報酬を得ることができる。

また、ゲーム内でアイテムを手に入れるために、バナー広告をタップすることが前提条件にするなど、広告収入を増加させる工夫をしているミニプログラムもある。

このような状況であるため、広告の無限ループが起きるようになっている。ミニプログラムゲームが相互に広告を出し合って、ミニプログラムゲームの中で循環をしてしまっている現象だ。

▲ミニプログラム版ゲームはサイズ容量の制限からアイテムの販売などがやりづらい。そのため、バナー広告による収入が主なものになっている。

 

アプリ版への誘導で収益化、ゲーム人口を確保する

「300大作戦」にもこのようなバナー広告モデルも採用されているが、もうひとつ収益の道を確保している。それはアプリ版への誘導だ。アプリ版ではサイズ制限を気にすることなく作り込みができるため、本格的なアプリ版を正式版とし、サイズ制限のあるミニプログラム版はお試しとして、最終的にはアプリ版に誘導するために使う。アプリ版では、アイテムや追加モジュールを販売することで収益を上げられる。

もちろん、未成年は正式アプリ版を利用するには週末だけという制限がある。しかし、平日にミニプログラム版で遊ぶと、より深く遊べるアプリ版でも遊びたくなり、週末にはアプリ版で遊ぶ。そして、18歳になると、制限が解除されるため、ミニプログラム版を卒業してアプリ版で遊ぶことになる。

ゲーム業界にとって、未成年のゲーム制限は収益の落ち込みという点ではさほど大きな痛手ではなかった。未成年の多くはお金を支払わずにうまく遊ぶからで、収益の主力は20代から30代になる。しかし、ゲーム人口を先細りさせるという点が懸念をされ、5年後、10年後にゲーム人口が大きく減少するのではないかという不安を口にする人もいた。

しかし、ミニプログラム版のゲームにより、このような問題も解消される。今後、アプリ版としてリリースされているゲームのミニプログラム版が多数登場してくると見られている。