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新エネルギー車の値下げ続々。なぜ各メーカーは大幅値下げに踏み切ったのか

新エネルギー各社が大幅な値下げ競争を始めている。その理由は、NEV各社の淘汰整理の時期が始まったと見られているからだ。生き残るために価格を下げざるを得ない。しかし、本当に競争が激化するのはバッテリー価格が下がってからだという見方もあると新湖南が報じた。

 

新エネルギー車の値下げ競争が始まった

今年の春節明け以降、新エネルギー車(NEV)各社の値下げ競争が続いている。NEVのリーダー企業である蔚来(NIO)は、最大10億元の「乗換え補助金」を4月から始めた。ガソリン車を保有する人がNIOのNEVを購入すると、1.5万元までのオプション品購入クーポン、3600元分の充電クーポン、6498元相当のNIOフォン引き換えクーポン、4560元のNOP+(オートパイロット=L2+自動運転)の1年間利用クーポンがもらえる。

賽力斯(セレス)とファーウェイの共同ブランド「AITO」では、人気車種の問界新M7の価格を2万元引き下げ22.98万元にした。この他、NEV各社は5000元から2万元の価格値下げまたはクーポンなどの優待を行っている。この値下げの理由は何なのか。

▲テスラを含むほぼすべてのNEVメーカーが値下げを行なった。

 

大量の新車種を控え、在庫を減らしたい

4月上旬に、新車販売に占めるNEV割合が50%を超えた。これは、NEV業界では重要なティッピングポイントだと受け止められている。NEVが自動車の主流となるということで、後は雪崩を打ったようにNEVを買う人が増えていくからだ。今年の春節前から3ヶ月以内にこの50%越えが起きると見ている人が多かった。

そのため、今年は202車種もNEVの新車種が発表される。競争が激化をすることは確実であり、何としてもここでシェアをとっておく必要がある。また、新車種を売るには、旧車種の在庫を減らす必要がある。値下げは最も直接的で効果のある販売促進策であることから、各社が値下げをすることになっている。

 

新エネルギー車メーカーの最初の淘汰整理の時期が始まった

もうひとつの理由は、NEV各社が最初の「振り落とし」の季節に入ったと感じているからだ。NEV関連企業は急増をしており、調査会社「企査査」の統計によると、2023年には60.58万社にまで急増をしている。NEVを製造するメーカーも200社を超えている。しかし、この中には登記をして資金を集めただけで、実質的には何もやっていない/できていない企業もあり、そのような企業の振り落としが始まっている。

メーカー数は最終的には10社程度に絞られると見られているので、95%のメーカーが倒産をするか、吸収されることになる。その最初の選抜戦が始まったと見ている企業が多いのだ。

▲NEV関連企業は60.6万社もあり、明らかに多すぎる。また、NEVメーカーも登記上は200社を超えているが、最終的に生き残れるのは10社程度であると見られている。

 

車は赤字でもコンテンツで収益を得ることができる

さらに、NEVはビジネスモデルがスマートフォン的になっている。車両販売は赤字であっても、コンテンツ使用料と広告で長期にわたって収入を得ることができる。そのためにも、シェアを確保するのはメーカーにとって生命線になっている。

その中心になっているのはNOA(Navigation On Autopilot)の自動運転だ。現在、ファーウェイがAITOに提供しているADS 2.0の性能が高く評価され、自動車メディアなどの実走評価では、95%以上の時間、運転をNOAに任せっきりにできる。さらに、テスラのFSD(Full Self Driving)が中国でもリリースされることが確実となり、中国ではすでに「燃料車かNEVか」と悩む人は少数派になり、「NOAを契約するかしないか=自動運転か手動運転か」を悩むようになっている。

このようなNOAは買い切りのケースもあるが、多くの場合はサブスク形式であり、NEVメーカーにとって長期に収益を得る重要なプロダクトになっている。

また、この先にあるのは自動車保険だ。NOAが成熟をしてくれば事故率は大きく減少するため、自動車保険の掛け金を大きく下げることができるようになる。自動車保険をテコにして、他の保険商品も販売することで、メーカーに大きな収入をもたらすと見られている。

 

本当の淘汰整理は、バッテリー価格の下落から始まる

しかし、今回の値下げは、振り落とし戦の序章にすぎないという見方もある。販売店チェーンを経営する蘭天集団の湯国華会長は、新湖南の取材に応え「現在のNEVの価格戦は、勝負の時とはほど遠い」と言う。今回の価格戦で脱落をするのは70%程度の企業であり、その後、生き残った企業が安定軌道に入ることができるが、それでも企業数は需要よりも多く、その後、再び競争は激化することになる。

それまでに、現在車両製造コストの大半を占めているバッテリー価格が大きく下がるタイミングが必ずやってくる。そこで、次の競争が起きることになる。

昨年2023年10月には、威馬(Weltmeister)の倒産が大きな話題となった。この値下げ競争で、ついていけない企業の倒産が相次ぐことになる。