中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ただのワイン好きから年商70億円へ。私域流量獲得による収益化の爆発力を証明したレディーペンギン

ワイン好きが高じて動画配信を始め、現在年商70億円のビジネスに成長させたレディーペンギン。私域流量を獲得することにより、ワイン販売ビジネスを成功させた。私域流量の獲得に重要なのは、顧客との信頼関係の構築だと彎弓数字が報じた。

 

企業が自力で集客をする=私域流量

私域流量(プライベートトラフィック)を獲得してビジネスを駆動させる。中国ではこの「私域流量」という言葉が重要なキーワードになっている。私域流量というのは、検索エンジンに広告を出して検索エンジンが集めた流量の配分を受けたり、大手ECに参加してECが集めた流量の配分を受けてビジネスを行うのではなく、簡単に言えば、自力で流量を集めることを言う。

検索エンジンやECが集めた公域流量の配分を受けるには、広告を出稿したり、出店料を支払うなどのコストがかかる。このコストが年々上昇をしているために、自力で流量を集める道の模索が始まっている。

 

1人で配信を始め、現在の年商は70億円

この私域流量をうまく獲得して、2014年から活動を始め、2020年には200万人の会員を獲得し、2020年には3.5億元(約70億円)の売上をあげているのが、「酔鵝娘」(ズイアーニャン、レディーペンギン、http://m.ladypenguin.com)だ。

レディーペンギンは、ワインに関する発信を始め、自社でもワインを販売するようになり、現在では「レディーペンギンが紹介してくれたワインはすべて買っている」という人までいるほど熱狂的なファンを獲得している。私域流量を獲得してビジネスにつなげた成功例として各方面から注目されている。

▲専門用語をできるだけ使わず、専門家であるのに通ぶらず、気軽にワインのことを学べる動画として人気となった。

 

ワインに魅せられて配信を始めた女性

2012年、米国のブラウン大学を卒業した王勝寒(ワン・シェンハン)は、偶然のことからワインの利酒に興味を持った。ワインには、人と同じように性格があるということを知って夢中になってしまった。

自分はワインに対する感覚が鋭いという自負もあり、ミシュランの三つ星レストランのソムリエチームで働き、その後、パリのコルドンブルーに入学してワインについて学んだ。

2014年に卒業して帰国をすると、「微信」(ウェイシン、WeChat)、動画共有「優酷」(ヨークー)、「土豆」(トゥードー)などで、「酔鵝娘紅酒日常」(酔鵝娘のワインの日常)という動画の配信を始めた。

この動画では、ワインを楽しんでいるというだけでなく、専門的な知識を解説している。マリアージュ(ワインと食事の相性)などを専門家の視点でわかりやすく解説をしている。


www.youtube.com

▲レディーペンギンは、YouTubeでも配信をしている。わかりやすいワインの解説動画として人気を得ている。

 

コンテンツの工夫をすることで人気配信者に

ただし、そのような解説動画は山ほどある。そこで、レディーペンギンは動画を工夫をした。一人で何役も演じたのだ。ワインをまったく知らない人を演じて、初心者のような質問をする。それにレディーペンギンが答えるという構成にしている。演じるのは初心者だけでなく、時には通ぶっている人だとか、妖艶なマダムだとか、扮装も変えて視聴者を楽しませる。出演しているのはレディーペンギン一人なのだが、たくさんの出演者が登場するような賑やかさを演出している。

さらに、ワインを表現する用語も、ワイン業界で使われている言葉ではなく、ネットで普通に使われている言葉を使って表現する。面白い、わかりやすい、楽しい、ためになるということから人気の動画となった。

このような活動が評価され、2016年、フランスのワイン評論家組織「ベタンヌ+ドゥソーブ」の評論家として認定をされた。

▲動画に出演しているのはレディーペンギン1人だが、複数の人を演じ、対話形式で楽しくワインを学べる工夫がされている。

 

視聴者からの要望に応えてワインの販売を始める

2018年にはショートムービー「抖音」(ドウイン)にも進出をし、快手、ビリビリ、小紅書(シャオホンシュー、RED)と手を広げ、合計して600万人のファンを獲得し、著名インフルエンサーとなったが、問題はそれだけでは生活をしていけないということだ。トップインフルエンサーたちは、年に数億元を稼ぐが、それにはファンの数を数千万人は獲得することが必要だ。レディーペンギンのような特定の分野に特化したインフルエンサーでは、それだけで生活を成り立たせることは簡単ではない。

きっかけになったのは、2015年に、あるファンの人から100元から200元でおすすめのワインを紹介して欲しいと言われたことだった。当時の中国の価格体系は整理されてなく、100元程度の価値しかないワインが数千元で販売されていたりした。200元以下でおすすめできるワインを探しても、見つけることができなかった。

このようなことから、レディーペンギンは自信を持ってワインを薦められるように中国市場でのワインの扱いを勉強し、最終的に自分で販売するしかないと考えるようになった。

 

ワインのサブスクを独自サイトで始める

考えたのは、会員制でワインを届けるというビジネスだ。毎月200元の会費を支払うと、会費に相当するワインが1本届けられる。それに関連するレディーペンギンの動画のガイドが付属をしている。割引クーポンなどもついていて、レディーペンギンのサイトでワインを安く購入することができる。

また、2000元の会費を支払うとVIP会員になることができ、テイスティングなどのイベントやセミナーなどに参加ができる。

ところが問題は、当時としては普通は淘宝網タオバオ)などで、会員資格を販売するというのが一般的だった。しかし、ただタオバオに出店をしても、大量のライバルに埋もれてしまって消費者が気づいてくれない。結局は、自分の動画などで会員募集をして、タオバオに誘導することになる。タオバオは出店費用、手数料は無料とは言っても、タオバオが主催をする有料キャンペーンなどに参加をしなければ、商店のランクづけが下がり、検索順位が低くなり、見つけづらくなる。だったら、いっそのことレディーペンギンの公式サイトで会員資格を販売した方がいいのではないかと考えた。つまり、マーケティングを考えてというよりは、仕方なく、私域流量を獲得する手法を選ばざるを得なかった。

▲レディーペンギンの公式サイト。ECプラットフォームに頼らず、自力で集客をして成功した。

 

私域流量の獲得に必要なのは顧客との信頼関係の構築

1年後の2016年には、通常会員6000名、VIP会員100名というワインの会員組織としては全国最大の組織になった。毎年20万本のワインを販売し、流通総額は2500万元(約5億円)となった。

その後、天猫にも販売を拡大し、さらに女性の飲酒習慣が広がっていることから、オリジナルのフルーツワインブランドの販売も始め、2020年には年間250万本を販売し、3.5億元を売り上げるようになった。

注目をすべきは、最初からワイン販売を目指して動画配信を始めたのではなく、当初は動画配信による収益化を目指して、一定数のコアファンを獲得したということだ。その後のビジネス展開を始めたため、コアファンが信頼をしてワインを買ってくれるようになった。

ビジネス展開可能な私域流量を獲得するには、ただ低価格やお得といった機能で消費者を惹きつけるのではなく、消費者との信頼関係を確保することが必要だ。それがなく、ただの一時的な人気を私域流量だと勘違いをすると、ビジネス展開を始めても購入してもらうことはできず、ファンが離れていくことになる。

レディーペンギンは、良質の私域流量を獲得している典型例になっている。