江蘇省が全国に先駆けてスーパーSIMカードの提供を進めている。スーパーSIMカードを使うと、スマホが身分証、ウォレットになり、スマホ1台で公共交通に乗れ、公的な身分証として利用できるようになると人民郵電報が報じた。
スマホが身分証とお財布になるスーパーSIMカード
中国では、決済、公共交通の乗車、身分証などあらゆるものがスマートフォンのアプリ化をし、スマホひとつで生活できる環境が整い始めているが、それぞれに本人確認をするなど利用をするための設定をしなければならない。そこで、江蘇省の通信キャリア「江蘇移動」は、スマホのSIMカードに生活関連の機能を内蔵したスーパーSIMカードの配布を2021年12月から始めている。
SIMカードは利用する通信キャリアとの契約者情報が保存されたICカード。これをスマホに装着することで、電話やパケット通信ができるようになる。このSIMカードに、身分証情報などを追加したものがスーパーSIMカードになる。
実際には、SIMカード内の情報を使って、スマホのNFC(近接無線通信)を利用し、タッチすることでさまざまな機能を実現する。
現在、江蘇省ではスーパーSIMカードを使っている利用者は623万となり、アクティブユーザーは349万人になっている。
スマホがタッチ決済交通カードに
最も便利で、よく使われているのが、スマホをバスや地下鉄の交通カードとして使うというものだ。
無錫市の蔡其旼さんは、バスに乗るために、交通カード、アリペイ、ApplePayとさまざまなものを使ってきた。しかし、現在のスーパーSIMカードが最もユーザー体験が優れているという。
交通カードの時代は、持って出るのを忘れて、バスに乗る時になって気がついて慌てるということがあった。アリペイのQRコード方式は便利だが、バスに乗る前にQRコードを表示しなければならず、あてる角度が悪いとうまく読み取れないこともあり、スマホのバッテリーがなくなってしまった時はどうにもならないという問題があった。ApplePayはNFCによるタッチ決済なので便利だが、海外の仕組みであるため、多くの場合、割引やポイントなどの優待がないことが多い。
スーパーSIM交通カードの4つのメリット
江蘇移動の広報担当者によると、スーパーSIMによる公共交通乗車には4つの利点があるという。
1)スマホがそのまま交通カードとなるため、忘れることがない
2)ネット接続不要であり、スマホが起動しないほどバッテリーが消耗していても利用ができる
3)公共の仕組みであるため、多くのバス、地下鉄で割引などの優待策がある
4)スーパーSIMは全国300都市で採用をされているため、旅行や出張に行っても、他省のバスや地下鉄でも使える。
現在、スーパーSIMカードの公共交通カード機能の利用者は165万人で、毎月92万人が利用している。また、江蘇移動は、南京市と南通市で、高齢者と学生用の交通カード機能の提供も2022年1月から始めている。60歳以上の人と18歳以下の子どもは半額になり、さらに70歳以上の人はタッチをすることで無料で乗車をすることができる。
スマホがマンションカードにも
スーパーSIMカードは、マンションの出入りをする時の身分証明ともなって、住宅地の治安にも寄与している。マンションの出入り口などで、スマホが鍵になって、門を開けることができる。
現在、スーパーSIMカードを鍵としているマンションは、江蘇省内に4679カ所に増えている。
南京市の鼓楼鐘阜路2号のマンションに住んでいる張さんは、スマホがマンションの鍵となって非常に便利になったという。以前は、マンションのICカードがあって、それを出入り口でタッチをしないと、マンションから出ることも入ることもできない。忘れた場合は、警備員に連絡をして、身分証を提示して開けてもらわなければならず、非常に面倒だった。スマホがマンションのカードになって、忘れることもなくなった。
また、マンションのカードを使っていた時代は、そのカードを拾った人が出入りをしてもわからず、治安上の課題があったが、スマホがカードになると、なくした人はすぐに停止の処理をするため、そのような課題も解決された。
さらに、スーパーSIMカードでタッチをすると、SIMカードのシリアル番号が記録され、携帯電話番号と紐づけておけば、実名による管理が可能になる。マンションの防犯レベルをあげることができる。
大学でも使われるスーパーSIMカード
スーパーSIMカードは大学でも活用されている。徐州市の江蘇師範大学では、スーパーSIMカードを大学内で活用している。
以前の学生は、さまざまなカードを持ち歩かなければならなかった。学内では学生カード、外に出るには交通カード、実家に帰るにはマンションカードが必要になる。それがスマホだけを持っていればよくなった。
学内では、学食で利用できるのが大きい。バイキング方式の料理をとって、料金を計算してもらい、あとはスマホをタッチするだけで精算ができる。さらに、大学のキャンパスに入る時もスマホをタッチするだけいい。図書館で本を借りるときもタッチするだけでいい。学生証が必要な場面では、すべてスマホのタッチで済むようになった。
現在、江蘇省では30以上の大学、専門学校がスーパーSIMカードを活用している。
出張族からの要望も強い
出張の多いビジネスパーソンからは、このスーパーSIMカードが早く全国に広がってほしいという声があがっている。なぜなら、出張の時、身分証を忘れてしまうと、まったく身動きがとれなくなってしまうからだ。
中国では、列車、高鉄、飛行機に乗るときに身分証の提示が必要になる。さらに、ホテルに宿泊するときも身分証の提示が必要になる。もし、身分証を忘れてしまうと、列車に乗ることもできず、家に取りに戻るしかなくなる。それがスマホで済むようになると、忘れることはほぼなくなる。
多少でも広がるスーパーSIMカード
スーパーSIMカードは、国家の「インターネット身分認証プラットフォーム」に対応をしているため、江蘇省の複数都市で身分証として通用するようになっている。ホテル宿泊時、病院利用時、ネットカフェの利用、公安への身分提示などに利用ができ、スーパーSIMカードの身分証機能の利用者は31万人に達している。これにより、デジタル人民元もスーパーSIMカードの中に入れ、決済に使えるようになっている。
このスーパーSIMカードは、江蘇省だけでなく、他の省でも利用が始まっている。現金とカード類が不要となり、財布を持たなくていい無現金社会になるだけでなく、身分証の携帯も不要な無カード社会が始まろうとしている。