ファーウェイが独自開発OSとして、スマートフォンやタブレット、PC、テレビ、カーナビ、家電などに搭載を始めているハーモニーOSについて、「独自開発OSなのか、Androidの派生版」なのかで論争が起きている。このような論争が起こる背景には、Androidにはグーグル版とオープンソース版の2系統があるからだと畢方社区が報じた。
ハーモニーOSは独自開発OSかAndroid派生版かで大論争
華為(ファーウェイ)のスマートフォンに搭載されている「鴻蒙OS」(ホンモン、ハーモニーOS)。このハーモニーOSが、中国のネット掲示板でも、「独自開発OSなのかAndroidの派生版にすぎないのか」という問題が語られることがあり、純国産派とAndroid派の議論が過熱をし、議論というよりは罵り合いに発展することもある。
このような理解の違いが生まれてしまうのは、ソフトウェアの開発手法が、製造業とは大きく異なり、オープンソースが主流になってきているからだ。
現在の主流となるオープンソースソフトウェア
オープンソースで最も有名なのはLinux(リナックス)だ。元々は1991年に、フィンランドの大学生であったリーナス・トーバルズが、ワークステーションなどで主流だったUNIXを、PCでも使えるようにしたいと、UNIX風OSの開発を始めたことが発端になっている。
この時、一人では開発が手に余ることから、世界中のエンジニアの手を借りた。多くのエンジニアがボランティで手を貸し、こうして生まれたLinuxはソースコードを公開し、誰でも自由に利用ができるオープンソースソフトウェアとなった。
それから30年、世界中のエンジニアがソースコードを検証し、改良、改善をしているため、最も安定して動き、最も広範囲なデバイスで動き、最も安全性が高いOSとして、PCだけでなく、他のデジタルデバイスや家電製品などにも使われるようになっている。
Androidにはグーグル版とオープンソース版がある
Android(アンドロイド)もこのオープンソースであるLinuxがベースになっている。2003年に、アンドロイド社はLinuxをベースにした携帯電話向けのOSを開発を始め、2005年にグーグルがアンドロイド社を買収したため、グーグルがAndroidの開発を引き継いだ。
元々がオープソースであるため、それを一企業が占有することは好ましくないことだ。そこで、グーグルは開発したAndroidをAOSP(Android Open Source Project)に渡し、ここでオープソースソフトウェアとして、誰でも自由にソースコードを見て、改良をすることができ、使用することができるようにしている。このAndroidは「AOSP版Android」または「素のAndroid」などと呼ばれる。
多くのスマホメーカーは、このAOSP版Androidを自社用にカスマイズして使っている。
AOSP版Android+GMS=いわゆる「Android」
ただし、これだけでは、私たちがよく知っている「Android」にはならない。グーグルプレイやグーグルマップ、Gmail、YouTubeなど、グーグルが開発したアプリ群(GMS、Google Mobile Service)が必要となる。これはグーグルが所有をするものなので、グーグルと契約をし、使用料を支払う必要がある。
このAOSP版Android+GMSが「Powered by Android」のロゴを使用することができ、「Android」と呼ばれる。
GMS未対応のAndroidはAndroidではない?
小米(シャオミ)やOPPOの中国メーカーは、AOSP版Android+GMSの「Android」を採用しているが、海外に販売するにはグーグルのアプリ群が必須だが、中国国内で販売をするには必ずしもグーグルのアプリ群を必要としていない(搭載しても、サービス接続が遮断されているものもある)。そのため、中国国内ではGMSを乗せず、小米はMIUI、OPPOはColorOSなどとという名称をつけている。海外では、GMSを乗せ、Androidとして流通させる。
一方、GMSに対応していないAOSP版Androidベースのものもある。身近なところでは、アマゾンのタブレット「Fire」に搭載されているFire OSがGMSに対応していない。GMSに相当するものはアマゾンが独自に用意をするためだ。また、Android搭載のフィーチャーフォンも、GMSに対応しても意味がないためにAOSP版Androidととなっている。
このようなGMS未対応のAOSP版Androidは、グーグルが権利を持つ「Powered by Android」のロゴを使用することができないため、Androidと名乗ることはできず、独自の名前をつけるか、あるいは名称をつけずに使用をしているのが現状だ。
ハーモニーOS1.0はAOSP版Androidベース
ハーモニーOS1.0もこのような「Powered by Android」ではないAOSP版Androidだ。米国政府によるファーウェイ排除により、グーグルがファーウェイに対してGMSを提供しない方針を打ち出した。そのため、ファーウェイはAOSP版Androidを使用するしか道がなくなった。国内販売には問題がないものの、海外販売にはGMSが利用できないため大きな影響が出る。
そこで、独自にアプリストアなどファーウェイ独自のGMSに相当するアプリ群を搭載して発表したのが、ハーモニーOS1.0だ。この時点では、AOSP版Androidベースのものであり、独自OSと呼ぶほど、AOSP版Androidと大きな違いはあるわけではなかった。自社開発OSというのは大袈裟であり、「Androidの派生版にすぎない」と言い方も、正確な言い方ではないとは言うものの、まんざら間違いではなかったのだ。正確にはAOSP版Androidから派生をしたOSのひとつということになる。
2012年から準備されていた「プランB」
しかし、ハーモニーOSは、米国によるファーウェイ排除が行われてから開発が始まったわけではない。開発そのものは2012年から始まっていて、ファーウェイはスマートフォンのOSについて、「AOSP版Android+GMS」と「ASPO版Androidベースの独自OS」の2つのプランを持っていた。ファーウェイ排除が行われるまでは、マーケティング戦略などから前者を採用していたが、ファーウェイ排除により「プランB」を選択せざるを得なくなった。これがハーモニーOSだ。
独自OSと呼べるようになったハーモニーOS2.0
ハーモニーOS1.0は、AOSP版Androidのカスタマイズといってもいい状況だったが、ファーウェイはここから出発をして、独自OSにしようとしている。Linuxに加えて、独自開発したリアルタイムOS「LiteOS」をベースにし、その上に独自開発システムを乗せて行く。こうなるともはやAOSP版Androidは不要で、「Linuxベースの独自開発OS」と呼ぶことができる。これが2020年9月に発表されたハーモニーOS2.0だ。つまり、ハーモニーOSは、もはやアンドロイドとは関係がなく、独自OSと呼んで差し支えないものになっている。
アップルの先をいくデバイス連携機能
ファーウェイは、このハーモニーOSをスマートフォンだけでなく、PCやタブレット、スマートウォッチ、家電、車載システムなど、あらゆるデバイスに搭載をしていく戦略を進めている。そのため、同じアプリがどのデバイスでも動くことになる。
スマホでゲームをしていて、途中からタブレットに切り替え、ゲームの続きを楽しむということも可能になっている。また、スマホから家電をコントロールする場合も、Bluetoothを経由した間接的な制御ではなく、直接的な制御が可能になる。
アップルもMacOS、iOS、iPadOS、WatchOSなどの連携を強化して、さまざまなデバイスを連携して使える環境を構築しようとしているが、その点ではファーウェイが一歩先に踏み出したことになる。
ただし、中核となるスマホが海外市場での売行きが低下せざるを得なくなり、ハーモニーOSとその世界観は、当面の間は中国国内の限定的なものにならざるをえないが、中国国内ではデバイスを自由に連携させることができるという、次世代デジタル生活が実現されようとしている。
ファーウェイ排除は、ファーウェイにとって大きな痛手あったことは間違いないが、その状況を利用して、ファーウェイは次の一歩を踏み出そうとしている。