中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国卓球のナショナルチームがAI卓球ロボットを導入。コーチの業務負担を大きく軽減

中国が卓球王国であることはよく知られているが、その強さの陰にはポンボットの貢献があるかもしれない。クアルコムのロボティクスプラットフォーム「RB5」を使ったポンボットは中国の卓球を変えるかもしれないと媒体が報じた。

 

中国の強さの秘密は徹底した基礎練習

中国の卓球が強い理由のひとつが、徹底した基礎練習にあるという。多球練習と呼ばれる、野球のノックにあたるトレーニングを徹底してやる。練習時間の1/3は多球練習であるという。コーチがボールを打ち、それを打ち返すというシンプルな練習だ。

しかし、見た目は単純でも内容は複雑だ。卓球のボールの5要素は、速度、強さ、回転、軌跡、着地点だが、コーチは選手の特性や課題に応じて、この5要素を組み合わせたボールを配球する。どのようなボールを配球するかが、コーチの腕の見せ所で、それが選手を育てることになる。

 

トップクラスの選手には使えない卓球ロボット

このコーチの仕事は、高度な卓球センスが必要であり、誰にでもできる仕事ではないが、体力的にも大きな負担になる。選手と同程度の体力を消耗し、しかも、コーチは複数人の選手を育成しなければならない。

そこで、過去、いくつも卓球ロボットが開発されたが、野球のピッチングマシンのようなもので、配球はできるが、打ち返すことはできない。機械の動きでボールの回転などが読めてしまうなど数々の課題があり、初心者向けであればともかく、代表選手レベルではまったく使えない。ナショナルチームでは、人間のコーチが配球をするというのが常識だった。


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クアルコムがRB5の活用事例として作成したポンボットのイメージビデオ。中国でも卓球は子どもたちから人気のないスポーツとして描かれている。

 

クアルコムが発表したAIロボットプラットフォーム

しかし、2020年6月、クアルコムがロボティクスプラットフォーム「RB5」を発表して状況が大きく変わった。クアルコムのチップQRB5165を使い、クアルコム第5世代のAIエンジンが搭載され、毎秒15万回のAI計算が可能になる。また、Wi-FiBluetoothだけでなく、5G通信にも対応し、外部のAI計算を利用することも可能になった。

カメラは二眼であるため立体視が可能で、画像解析の速度は従来のAIの3倍から5倍に達するという。

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クアルコムのAIロボティクスプラットフォーム「RB5」。クアルコムが開発した第5世代のAIエンジンが搭載されている。

 

ナショナルチームに導入されたAI卓球ロボット「ポンボット」

このRB5をベースに中国ロボットのリーディングカンパニー「新松」(Siasun)がラケットを持った卓球ロボット「ポンボット」を開発した。アームは2本あり、1本でボールを放り上げ、もう片方のラケットでサーブを打つ。選手が打ち返したボールを認識し、打ち返すことができる。もちろん、回転、強さなどをAIが考え、選手の育成に適した配球が行われる。

このポンボットは、2020年7月に中国卓球学院と湖北省黄石にあるナショナルチーム訓練基地に導入された。トップクラスの選手からも利用され、選手たちからは「ポンコーチ」と呼ばれているという。

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▲展示会でデモが行われたポンボット。指定された戦略に基づき、強さ、回転などを変化さえた球を打ち返す。

 

1人のコーチが多数の選手を育成できるようになる

ポンボットはまだ手探りの中での活用だが、将来は、選手の打球のデータを取り、それをクラウド上で分析をし、人間のコーチが配球戦略を考えポンボットに指示をすると、ポンボットがその戦略に合わせた配球をするということになる。

特に大きいのが、優秀なコーチがたくさんの選手の育成を行えるようになることだ。強い選手を生み出すには、選手自身の素質、努力がいちばん大きいものの、コーチの指導も大きな要素になっている。育成戦略が可視化されることで、コーチ同士の切磋琢磨も行われるようになる。

ただでさえ、世界最強の卓球王国である中国が、さらにその先に進もうとしている。

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▲実際に使われているポンボット。選手からはポンコーチと呼ばれている。重労働だったコーチの負担を軽減することで、優秀なコーチがより多くの選手を育成できるようになる。