中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

テンセント帝国の終わりの始まり。ゲーム業界に起きている大きな地殻変動

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明日、vol. 084が発行になります。

 

今回は、ゲーム業界の大きな異変についてご紹介します。

ゲームに関して、8月3日に大きなできごとがありました。国営メディアである新華社傘下の経済参考報が、「精神アヘンが数千億元の市場に成長」と題した記事を掲載しました。内容は、スマホゲームによる未成年への悪影響を論じたものですが、テンセントの人気ゲーム「王者栄耀」の名前を挙げ、「電子薬物」として批判をしたものでした。

王者栄耀は、2015年にリリースされたMOBA(Multiuser Online Battle Arena)ゲームで、6年後の今になっても収益ランキング上位にいる大ヒットゲームです。小学生の間でも流行し、小学生のスマホ所有率を大きく上昇させたとまで言われています。

街角では、小学生たちが集まって、王者栄耀を遊んでいる姿をよく目にします。日本で昔、ポケットモンスターが大流行した時に、小学生たちがゲームボーイを持って集まっていましたが、あの光景とよく似ています

このような姿は、昭和の時代に子どもたちが集まって、メンコやビー玉で遊んでいるのと本質的には同じことなのですが、大人は自分の知らない道具が使われていると不安を覚えるようです。ゲームに対する批判がこの頃から大きくなったような気がします。

中国でも同じで、大人の中には王者栄耀のブームを快く思わない人がたくさんいて、批判的な意見はよく目にするようになっていました。

 

しかし、今回の経済参考報の記事はそれまでの批判とは一線を画しています。国営メディア傘下のウェブメディアであったからです。本当にそうなのかどうかは私には断言ができませんが、多くの中国人が国営メディアの記事は、中国政府のメッセージだと受け止めています。批判的な記事が掲載された場合、それは中国政府が親切にも猶予を与えてくれたのだと考えます。その記事にすぐに対応をして改善をすれば問題ありませんが、無視をしたり、改善策が不十分だった場合は、当局が予告なしに処罰や規制を行います。

そう考える人が多いため、テンセントの株価はすぐに20%も下落しました。また、網易(ワンイー、ネットイース)などゲーム関連株も全面安の展開になりました。

 

テンセントの反応も素早いものでした。その日のうちに「双減双打」施策を発表したのです。テンセントでは未成年がゲームを遊ぶ時間の規制を2017年から始めていましたが、それを強化するという内容でした。

18歳未満の未成年は、以前から1日に平日は1.5時間、休日は3時間というゲーム利用の制限がありましたが、これを平日1時間、休日2時間に強化する。また、12歳未満の小学生はゲーム内課金ができないようにする。

さらに、未成年が年齢をごかまして登録する、大人のアカウントを購入してゲームをするといった行為を監視し、違反アカウントは削除をするというものです。

 

すると、経済参考報の問題の記事は突然削除されました。そして、「ネットゲームが数千億元の市場に成長」というタイトルに修正され、刺激的な「精神アヘン」「電子薬物」という表現が削除された上で、再掲載されたのです。

テンセントの対応策に満足をしたという中国政府のシグナルなのか、あるいはそれは考えすぎで、経済参考報の記者の筆が滑って厳しい表現を使ってしまい、ことの大きさに驚いて修正したのか、そこはよくわかりません。

しかし、中国のゲーム業界が大きな転換点に差し掛かっていることは確かです。

 

中国のゲーム業界は、テンセントが中心となり発展をしてきたことは間違いありません。テンセントの手法は、有望なゲームスタジオを買収、出資し、傘下に収め、テンセントゲームズから配信をし、利益をあげるというものです。その出資対象は国内ゲームスタジオに限らず、海外にも及んでいます。これにより、テンセントは世界最大のゲーム企業になりました。ゲームの世界では、テンセント帝国とも呼べる存在感を放っています。

しかし、ここ数年、その帝国の足下が揺らいでいます。理由は主に3つあります。

ひとつは「原神」(miHoYo)の登場です。Z世代に代表される若者たちは、次第にテンセントが配信するゲームに興味を持たなくなっています。簡単に言えば、古臭いと感じているのです。ACG(アニメ、コミック、ゲーム)が好きな若者世代は、新しい感覚のゲームを求めており、その感覚をうまく捉えた原神がヒットしました。テンセントは当然ながらこの有望なゲームスタジオに出資をして傘下に納めようとしました。しかし、miHoYoは好条件でありながら拒否をしたのです。原神は、中国だけでなく、韓国、米国、ブラジル、日本でもヒットゲームになっています。テンセントから資金支援を受けなくても、海外市場から自分たちでじゅうぶんにお金が稼げることを証明しました。

 

2つ目がTapTapの登場です。TapTapはゲーム専門の垂直型アプリストアです。中国ではiPhoneはアップルのAppStoreからアプリが入手できますが、AndroidのGooglePlayがサービスを提供していません。そのため、華為(ファーウェイ)や小米(シャオミ)が独自のアプリストアを運営している他、サードパーティーによるアプリストアも無数にあります。面白いゲームを探そうと思ったら、あちこちのアプリストアを探し回らなければならないのです。

しかし、TapTapはゲーム専門のアプリストアなので、TapTapを探すだけでほとんどのゲームが見つかります。また、単なるアプリストアではなく、ゲームの評価や攻略、仲間探しなどの情報交換ができる機能が用意されています。ゲーム専門SNSのような機能も持っているのです。

そこでは、大資本を持ったテンセントのような大手企業が大量の広告を出して配信するゲームよりも、無名であってもゲーマーからの評判がいいゲームに人気が出ます。無名の小さなゲームスタジオであっても、新しさがあって、内容がよければ、TapTapを通じてヒットゲームにすることができる環境が用意されました。

 

3つ目がアリババとバイトダンスのゲーム市場への参入です。特にバイトダンスは、中国版TikTok「抖音」をうまく活用してゲームのプロモーションを行うことが予想され、いずれもテンセントの強敵になる可能性があります。

つまり、テンセントがゲーム業界の中心であったものが、次第にテンセントが配信するゲームが古臭くなり、配信や運営も古臭くなり、あちこちで反乱の狼煙が上がっているという、まさに帝国崩壊の始まりの状況になっています。しかし、テンセントはすぐに倒れてしまうほど柔ではありません。時代についていき、時代を先取りする試みをいくつもしていますし、大資本であるだけに簡単には倒れません。これから数年は、テンセントを中心に、「テンセントを誰が倒すか」という群雄割拠の時代になることは間違いありません。

そこで、今回は、テンセントとそれを取り巻くゲーム市場についてご紹介します。

 

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