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第4のEC「雲集」がナスダック上場。S2b2cソーシャルECの仕組み

5月3日、ソーシャルEC「雲集」が米ナスダック市場に上場をした。アリババ、京東という大手EC、急速に成長するソーシャルEC「拼多多」に次ぐ「第4のEC」となる。そのビジネスモデルはマイクロビジネスに立脚したS2b2c型と呼ばれていると陸水財経が報じた。

 

微商に立脚した新しいスタイルのソーシャルEC

5月3日に、ソーシャルEC「雲集」(ユインジー)が米ナスダック市場に上場した。上場当日、売り出し価格11ドルの株価は14.15ドルまで大幅上昇し、時価総額は30.87億ドル(約3100億円)に達した。

雲集は会員制のソーシャルECで、現在会員数は2300万人に達している。その中で有料会員が900万人を超え、リピート率は93.6%という高いものになっている。この秘密は、微商(ウェイシャン、マイクロビジネス)に立脚したS2b2cという独特のビジネスモデルにある。

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▲ナスダックに上場した雲集。マルチ商法的な要素もあったが、違法性が問われる部分を排除して、上場に成功した。

 

個人間の信用に立脚したSNSビジネス「微商」

微商というのは中国独特のビジネススタイルだ。SNSを利用した個人売買のことだ。最もわかりやすいのは、友人に「美味しい中国茶が買えるところ知らない?」と尋ねると、「この人がいい品質のものを安く仕入れているよ」とSNS「WeChat」アカウントを教えてくれる。連絡をとって、友人の紹介であることを告げると、価格を教えてくれ、注文をすると宅配便で送られてくる。決済はWeChatペイで行うというものだ。

店舗を経営しながら、手軽なECとして利用する商店主も多いし、品質の高いものを市場価格ではなく、適正価格で売りたいという農産物生産者、あるいは仕入れルートを持っている個人などが、口コミベースで行っている個人売買だ。

利用する側からは、リアルな友人の紹介であるので信頼しやすい。近隣の商店では手に入らない種類、品質、価格の商品が手に入るなどメリットが多い。

個人売買なので、どのくらいの市場規模になっているかは不明な部分が多い。すべてを把握できないので、調査報告によって市場規模の数字が異なっている。中国電子商会微商専門委員会が公開した「中国微商業界全景調査研究及び発展戦略研究報告」によると、微商業者は約3000万人、流通総額は5000億元(約7.5兆円)と推定されている。

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▲会員数2300万人を超えたソーシャルEC「雲集」の総会。派手な演出で人を惹きつけるのが特徴。

 

微商をシステム化したソーシャルEC「雲集」

雲集は、この微商の中から登場したソーシャルECだ。創業者の肖尚略(シャオ・シャンリュエ)は、1999年21歳の時に、化粧品を扱うビジネスを始めたところから出発している。2003年には登場したばかりのアリババのEC「淘宝」(タオバオ)に出店して、成功をする。

しかし、アリババがBtoC型EC「Tmall」を始めると、次第にビジネスが縮小していった。化粧品メーカーがTmallに直接出店するようになり、わざわざ肖尚略のタオバオ店舗で購入する人が少なくなっていったからだ。

そこで、肖尚略は個人売買である微商に活路を見出していった。微商ビジネスをする中で、規模が拡大し、課題を解決しているうちに雲集の原型ができあがり、2015年に正式に雲集を創業することになる。

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▲雲集の創業者、肖尚略。本人もECに出店をしていたが、Tmallの登場により、微商に転身。微商をサポートするプラットフォームが現在の雲集になっていった。

 

購入も出店も。手軽に微商が始められるプラットフォーム

つまり、雲集は微商が手軽に始められるプラットフォームなのだ。雲集の会員になると、専用アプリから買い物ができるようになる。さらに398元を支払い、有料会員になると、買い物の優待が受けられる他、出店することができるようになる。仕入れは雲集が用意した商品を仕入れ価格で購入することができる。これを友人などに販売して利益を出すことができる。つまり、買うだけでなく、ちょっとした商売を始められるというのが雲集の特徴だ。そのため、S2b2cモデルと呼ばれる。Sは大手サプライヤー、bは個人ビジネス、cは個人消費者のことで、いずれも個人ベースなので小文字で表記されている。

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▲雲集の営業収入は年々増加している。会員登録料と取引手数料が収入の主な源泉になっている。

 

会員紹介制度が成長の駆動力となった

雲集のもうひとつの特徴は、有料会員を紹介することでも利益が得られることだ。ある有料会員が、友人を有料会員にすると、会員登録料398元のうち150元がもらえる。さらに、その友人の店舗の雲集が得るべき利益の15%が自動的に入ってくるようになる。

いわゆるネットワークビジネスマルチ商法の仕組みを取り入れていて、これにより会員数が急速に拡大していった。

しかし、この危ういビジネスモデルは、2017年に杭州市から違法性を問われることになり、958万元の罰金を課せられ、4ヶ月間の実質的な営業停止に追い込まれたこともある。

それ以降、雲集は会員構造を簡素化し、違法性を問われない形に改めたが、会員紹介制度と、「買うだけでなく、商売もできる」という点が成長の原動力になっていることは変わらない。

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▲会員数はすでに2300万人に達している。コロナ禍によるECの需要が増えているため、2020年末には3000万人の大台を突破する可能性もあると言われている。

 

課題は多いが成長力のある微商系ソーシャルEC

雲集と同様のS2b2cビジネスを展開する業者は無数に存在をしている。雲集がナスダック上場を果たしたことで、この領域のビジネスが今度盛り上がっていくことは明らかだ。

しかし、課題も多い。拼多多と同様に、雲集もナスダック上場しながら、創業以来黒字化が達成できていない。売上高に比べて赤字幅は小さいので、大きな問題ではないものの、早い時期の黒字化が必要になる。

もうひとつはマルチ商法の要素を持つビジネスモデルの危うさだ。雲集が問題を起こす可能性は少ないにしても、同類の業者が問題を起こし、S2b2cソーシャルECそのものに対する風評が悪化するというリスクもある。

それでも、現在の雲集の成長力は注目をされている。また、新しいソーシャルECモデルである点も注目されている。今後、雲集がどのような成長を遂げるのか、EC関係者からの関心が高まっている。

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▲利益は赤字が続いている。しかし、営業収入の規模に比べ赤字幅は小さく、会員に還元することを優先した戦略的赤字であると見られている。