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デジタル時代に徹底した逆張り戦略で成長するスーパー「永輝」

ECサイトの普及で、既存スーパーは軒並み売上を落とし、戦略転換を迫られている。その中で、国内系の「永輝スーパー」は、デジタル化も遅いのに、一人急成長をしている。その秘密は、徹底した逆張り戦略にあったと引力資訊が報じた。

 

スーパー冬の時代に、一人気を吐く「永輝」

中国の各スーパーは冬の時代を迎えている。ウォルマート、カルフール、台湾系のRT-MARTが軒並み売上を落とし、郊外大型店から都心小型店に戦略転換を図っている中、国内系のスーパー「永輝スーパー」(ヨンホイ)は、60店舗の新規開業を計画するなど絶好調だ。

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▲永輝の入り口は、正直パッとしない。いかにも中国っぽい感じで、中は青物市場のような感覚だ。それでも安心できる食品を手ごろな価格で購入できると、地元民を惹きつけている。

 

スーパー不振の原因はECサイトの普及

スーパーの売上が落ちているのは、間違いなくECサイトの影響だ。日用品のほとんどは宅配をしてくれ、しかも、常にどこかのECサイトがクーポンやセールなどのキャンペーンをやっていて、スーパーよりも安く買える。わざわざスーパーに買い物に行くという人が減るのも仕方のないところがある。

どこまで本当かどうかはわからないが、中国の家庭で大量に消費されるのは食用油で、これをスーパーに買いに行くのが以前は苦労だったという。重たく持ち帰りが大変な食用油がきっかけになって、日用品をECサイトで買う習慣が定着したという人もいる。

 

 

大量新規出店で絶好調の「永輝」

ところが1995年に設立された永輝スーパーは、ECサイトの出現にも影響されず、2010年には上場をした。2017年にはなんと332店舗を新規開店し、合計806店舗となり、売上は585.91億元(約1兆円)、昨年と比べて19.01%増。

今年は、高級業態のBravo店を135店舗、グローサラント業態(スーパー+レストラン+宅配)の「超級物種」を100店舗、コンビニ業態の永輝生活を1000店舗開業する計画で、ECサイトに押されるどころではなく、飛躍の年になっている。

この絶好調ぶりはどこから来るのか?

 

他スーパーと差別化をするために行った徹底した逆張り戦略

永輝が創立したのは、カルフールやウォルマートが中国に1号店を出店するのとほぼ同時期だった。特に、ウォルマートとドイツ系のメトロとの競争は厳しく、伸び悩んでいた。

そこで永輝がとったのが、他スーパーと差別化を図るために、徹底した逆張り戦略だった。カルフールが郊外に大型店を出店し、週末に家族が車でくることを想定するなら、永輝は都心や住宅地に中型店を出店し、平日の昼間に主婦(中国では子ども夫婦の家に親が同居をし、家事育児を親世代が引き受けることが多い)、平日の夕方に通勤族が歩いてこれるようにする。

カルフールが、食品以外にも、日用雑貨、衣料、家電製品を扱い、百貨店化していくのであれば、永輝は生鮮食品だけに特化する。

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▲永輝の売り場は、包装がほとんどなくむき出しで陳列されている。この方式が、消費者に安全な食品であるという信頼感を与えている。

 

衣料、雑貨を扱わないことで、ECサイトの影響を受けずに済んだ

この食品に特化する戦略は大きな賭けだった。なぜなら、衣料や雑貨、家電製品は、食品に比べて利幅が大きく、長期在庫が可能で、商品ロスも少ない。多くのスーパーが、経営を安定させるために、このような商品を扱った。

しかし、ECサイトにとっても、このメリットは同じだった。利幅が大きく、大量在庫ができ、商品ロスが少ない。そのため、ECサイトの中心的な商品となり、クーポンやセールなどの攻勢をかけていった。既存スーパーは、ここでECサイトに売上を奪われてしまった。

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▲超級物種は、グローサラント。スーパー、レストランがあり、近隣への30分配送を行う。アリババの「フーマフレッシュ」に対抗する店舗だ。

 

食品に特化したことが生き残りの鍵となった

一方、永輝は食品だけに特化していたので、必死だった。直接農村に買い付けにいき、流通を整え、価格を安くした。食品で勝負するしかないからだ。

食品は、ECサイトが最も扱いづらい商品なので、永輝はECサイトの影響を受けずに済んでいる。これがデジタル時代に生き残る鍵となった。

また、歩いてこれるスーパーを目指したため、都心、住宅地を中心に出店していたことも幸いした。消費者は、遠くのスーパーに車や地下鉄でいくなら、ECサイトで買ってしまおうと考える。でも、歩いていける近所であったり、通勤経路にあるのであれば、スーパーで買い物をするのだ。

ウォルマート、カルフールは、ここに気づいて、都心小型店の出店を始めているが、永輝は奇しくも、ずっと前からECサイト時代に対応した戦略をとっていたことになる。

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▲Bravoは高級食品を扱うスーパー。富裕層や都市生活者を取り込む。

 

デジタル化しなくてもデジタル時代は生き残れる

永輝のデジタル対応は早いとは言えない。ようやく昨年から、ECサイト「京東」と協業して、グローサラント業態の「超級物種」を始めたところだ。アリババのフーマフレッシュに対抗する店舗だ。

それでも、既存スーパーの中では唯一成長をしている。差別化をするために逆張りをしながら、自分たちの立ち位置を模索し続けてきた結果だ。このデジタル時代に、市場感覚のアナログスーパーが成長をしている。この事例に学ぶべきことは多い。

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▲永輝生活は、コンビニ店舗。24時間営業で、都心を中心に展開する予定だ。